ハノイ旧市街ハンザイ通り(Hàng Giầy)30番地の路地にある甘味の店「バインチョイタウ・ファム・バン」が、2026年10月5日15時30分に半年ぶりの営業を始めた。夏のあいだは丸ごと休み、寒い季節だけ開ける店だ。VnExpressが10月7日に伝えたところでは、再開初日は夜まで客が切れず、緑豆の甘味は18時30分に売り切れた。一杯30,000ドン、約184円(1円=163ドン換算、2026年10月10日時点)。メニューは30年以上、3品のまま変わっていない。ベトナムに住む日本人にとっては冬のハノイで時間を合わせて行く店であり、食品を扱う側から見ると、品数を増やさず半年休んでも客が戻ってくる店の作り方が参考になる。

10月5日15時30分、半年ぶりに火が入った
店が入っているのは通りに面した店舗ではなく、ハンザイ通り30番地の細い路地(ngõ)の中だ。VnExpressの記事(記者:Minh Trang、2026年10月7日15時59分公開)によれば、再開は10月5日。約6か月の休業をはさんでいる。znewsも10月5日午前の記事で「10月5日、客を迎えるため店が再開する」という告知を伝えており、再開日は両媒体で一致している。
再開初日は夜まで客が切れなかった。ただし提供が速いため、客の待ち時間は5分ほどだったとVnExpressは書いている。店の中に置ける席は小さなテーブルが3〜4卓、1卓4席しかない。同紙は、混む時間に席が空くのを待つ状況を避けるため、いまは持ち帰りの列に並ぶ客のほうが多いとしている。長時間並ぶ店ではないが、座って食べられる保証はない、というのが実際の姿だ。
いま店を回しているのは、ファム・バン(Phạm Bằng)の息子ファム・タン・トゥン(Phạm Thanh Tùng)氏と家族である。父のファム・バンは1931年生まれ、ベトナム政府の「優秀芸術家(NSƯT)」の称号を持つ喜劇俳優で、ハンザイ通りの甘味店の主人としても知られていた。2016年10月31日に85歳で亡くなっており、現在の店頭に立つのは家族だ。店名に残るのは父の名前、作っているのは息子という形になっている。
「6か月閉めて6か月開ける」はいつからの決まりか
バインチョイタウは、もち米の団子をしょうがを効かせた温かい砂糖湯に浮かべる甘味だ。熱いものを食べたくなる季節の食べ物であり、だから夏は売らない。トゥン氏はVnExpressに対し、ハノイの客はファム・バン氏が店を開いていた時代から「6か月閉めて6か月開ける」という決まりに慣れていると語り、だから閉店中に客が離れる心配はしていないと話している。znewsの10月6日の記事には「うちはだいたい毎年10月から売り始める。15時30分から22時まで」とも答えている。
ハノイの食べ物がカレンダーで動くのは、この店だけの話ではない。旬が10日前後しかない川の虫「ルオイ」は、季節が来ると街に売り声が立ち、過ぎれば消える(旬は10月10日から、ハノイのルオイ売りの声はどこへ消えたか)。10月の初めに白玉の店が開き、10月10日ごろにルオイが出回る。この2つが重なる時期が、ハノイで寒い季節の食べ物が動き出す合図になっている。
押さえておきたいのは、半年しか開けない代わりに品数を増やしていないことだ。VnExpressによれば、30年以上にわたってメニューはバインチョイタウ、ルックタウサー(lục tàu xá=緑豆の甘味)、チーマーフー(chí mà phù=黒ごまの甘味)の3品だけ。トゥン氏は新しい品を足さない理由をこう説明している。「父が残した伝統をそのまま守りたい。流行や新しい好みは追わない」。
ただし、店を広げない方針というわけではない。znewsの10月6日の記事では、いまは家族でこの店を続けることに集中しているとしながら、将来はもっと多くの客に出せるよう支店を増やすことも考えている、とトゥン氏の考えを伝えている。同じ記事で本人はこうも語っている。「両親が築いた仕事で、起業と見ることもできる。両親の思いを受け継いで、家族が残したものを守りながら、発展させたい」。守るほうと伸ばすほうが同じ人の口から出ているところが、この店の現在地だ。
| 原語 | 中身 |
|---|---|
| bánh trôi tàu(バインチョイタウ) | もち米の団子を、しょうがを効かせた熱い砂糖湯に浸す。店でいちばん出る品。znewsによれば1杯に大きな団子が2個入り、片方がココナッツ餡、もう片方が黒ごま餡 |
| lục tàu xá(ルックタウサー) | 緑豆を柔らかく煮て蓮の実を合わせた温かい甘味。再開初日は18時30分に売り切れた |
| chí mà phù(チーマーフー) | 黒ごまの甘味。黒い見た目で、こくがあり甘さは穏やか |
一杯30,000ドンを2019年のガイド値と並べる
VnExpressは3品が同じ値段で売られていると書いている。1杯30,000ドン、日本円で約184円だ。これを高いと見るか安いと見るかは、比較の相手で変わる。
比較材料になるのが、znewsが2019年12月4日に出したハノイのバインチョイタウのガイド記事だ。そこではファム・バンの店が1杯20,000〜25,000ドンと書かれている。2019年12月から2026年10月までの6年10か月で、20〜50%上がった計算になる。同じ記事に載っていた他店の当時の値も並べておく。こちらは2019年時点の数字で、現在の価格ではない。
| 店 | 1杯の価格 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| ファム・バン(ハンザイ通り30番地) | 30,000ドン(約184円) | 2026年10月・VnExpress |
| ファム・バン(同じ店) | 20,000〜25,000ドン | 2019年12月・znews |
| デー・トー・ホアン | 10,000〜15,000ドン | 2019年12月・znews |
| バー・ティン | 20,000ドン | 2019年12月・znews |
| ハンカン | 15,000〜25,000ドン | 2019年12月・znews |
旧市街の路地でとる一皿の相場と比べると、185円はおとなしい。70年続くハノイのバインクオンの店は、当時の換算で一皿89円だった(一皿89円、ハノイの路地で70年続くバインクオンはなぜ半額か)。食事の一皿が100円前後、甘味の一杯が185円。甘味のほうがやや高い理由のひとつは、営業が年の半分しかないことだろう。同じ家賃や設備の費用を半分の日数で回収する商売になる。
30年の常連が半年のあいだ他店に行かなかった理由
VnExpressは再開初日に店で2人の客に話を聞いている。1人はチャーカー通りに住むグエン・ヴィエット・クオック氏(67)で、ファム・バン氏が自分で店に立っていた時代から30年の常連だ。味は変わっておらず、団子はよく伸びてしょうがが香ると評している。そして、こう話した。「ごまや落花生を足してアレンジする店は多いが、あの味にはならない。だから半年休んでいる間、ほかの店で食べる気にならなかった」。
もう1人はカウザイに住むルオン・ドゥック・ティエン氏(22)。数えきれないほどある現代的なチェー(ベトナムの甘味)の店と比べて、この店の味は違うという見方を示し、「すっきりした甘さと軽いこくが好きで、冬は毎年来る」と語っている。znewsの10月6日の記事に出てくる35歳の常連フオン・ロアンさんは、2017年からの客で、こう話している。「気に入っているのは、ここの味が甘すぎないところ。一杯食べても足りない日があって、二杯目にいける」。
3人の言葉は2通りに分かれている。22歳と35歳は甘さの水準を挙げ、67歳の常連は30年変わっていないことを挙げた。新しい客は味の設計を、古い客は変わらないことを評価している。品数を3つに絞った店が、世代の違う客から別々の理由で選ばれている形だ。
日本の食品側がこの店から持ち帰れること
この店の運営は、日本で食品を企画する側から見ると次の点で参考になる。
- 品数を増やさない代わりに、1品の仕上がりと甘さの水準を動かさない。世代の違う客が別々の理由で同じ店を選ぶ状態は、品数を広げる戦略では起こりにくい
- 季節で閉めることを隠さず、営業カレンダーそのものを店の性格として客に覚えさせている。「毎年10月から」「15時30分から22時まで」という言い方が、そのまま案内になっている
- 手を広げる話と守る話を分けている。品数は増やさない一方で、客数を増やすための支店は検討材料として残している
ベトナム向けに甘い加工品を考える場合、ハノイで30年支持されてきた店の客が「甘すぎない」を評価の言葉に選んでいる事実は、甘さの設計を決めるときの参考値になる。南部の甘味と同じ水準で企画していいかは、現地で食べ比べてから決めるほうが安全だ。乾燥素材や粉の形で供給する立場なら、しょうが・黒ごま・緑豆という3つの軸が、ハノイの冬の甘味で何十年も残ってきた組み合わせだという点が提案の材料になる。
工程も見どころがある。豆を浸す、生地をこねる、餡を作るまで手作業で、開店に間に合わせるため家族は6時に起きる。鍋に入れる団子は1回あたり約30個で、なくなりかけたら次を入れる。皮の弾力を落とさないための作り方だ。手作業と少量ずつの調理を売り物にしている店の作業設計として読める。
夏に行くと食べられない店は、旅行の月を決める理由になる
観光の側から見ると、季節で閉める店は旅程を縛る存在だ。年間を通して開いている店なら行けたら行くで済むが、半年しか開いていない店は、旅行の時期そのものを決める理由になる。ハノイ旧市街の歩き方は、朝はフォー、昼はブンチャー、夜はエッグコーヒーという時間割で語られてきた(フォーは朝、ブンチャーは昼、エッグコーヒーは夜——世界8位ハノイ旧市街の歩き方)。15時30分開店の甘味は、その時間割の空白地帯にきれいに収まる。昼食の後、夜の店が開く前の時間だ。
旧市街の飲食は、ランキングや評価本の話題で動くことが増えた。その中で、半年休み、品数を3つに据え置いた店が再開初日から夜まで客で埋まるのは、旅行者の関心が受賞歴だけで動いていないことを示している。日本人向けにハノイの飲食企画を組むなら、受賞店のリストと並行して、営業カレンダーが特殊な店を押さえておく価値がある。訪問できる月が限られる店は、ツアーやモデルコースの中で希少な枠として扱える。
行く前に決めておくこと(時間・食べ方・時期)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | バインチョイタウ・ファム・バン(Bánh trôi tàu Phạm Bằng) |
| 場所 | ハノイ市ホアンキエム(phường Hoàn Kiếm)のハンザイ通り30番地、路地の中。通りに面した店構えではないので、番地で探す |
| 営業時間 | 15時30分〜22時(店主がznewsに答えた冬季の営業時間) |
| 営業期間 | おおむね毎年10月から。夏は休み。2026年は10月5日15時30分に再開 |
| 価格 | 3品とも1杯30,000ドン(約184円、1円=163ドン換算・2026年10月10日時点) |
| 席 | 小さなテーブル3〜4卓、1卓4席 |
| 待ち時間 | 再開初日は5分程度(提供が速いため) |
| 注意 | 再開初日はルックタウサーが18時30分に売り切れた。3品そろえたいなら早い時間に行く |
時間は、15時30分の開店直後か、遅くとも18時台前半に入れば売り切れを避けやすい。食べ方は、席が最大16席しかないので、持ち帰りを前提にしたほうが席の空きを待たずに済む。時期は、ハノイに行く月が4月から9月なら、この店の名前は旅程から外して別の店を探すほうがいい。
場所はホアンキエム湖の北側に広がる旧市街の中で、旧市街の宿に泊まるなら徒歩で行ける範囲に入る。店は通りに面しておらず路地の中なので、通り沿いの看板を探しても見つからない。地図アプリでは店名より「30 Hàng Giầy」で当たりをつけたほうが早い。
冬のハノイで3品そろえるなら早い時間に行く
2026年10月5日に再開したハンザイ通り30番地の店は、品数3つ、1杯30,000ドン、15時30分から22時まで、夏は休み。30年以上変わっていない条件のまま、再開初日に夜まで客が入った。年齢の離れた客が別々の理由で同じ一杯を選ぶ店は、ハノイ旧市街でもそう多くない。
次のアクションは3段に分かれる。ハノイ滞在の予定が10月から3月にあるなら、旅程の中日に15時30分・ハンザイ通り30番地の枠を1つ入れておく。滞在が夏なら、他のバインチョイタウの店を当日に探す前提で、旧市街の甘味そのものを目的にしない組み方にする。食品を扱う立場で現地の甘さの水準を確かめたいなら、この店の3品を食べてから、同じ旅で南部の甘味を食べ比べる。ハノイとホーチミンで甘さの設計を分けるべきかどうかは、その2杯の差で判断がつく。
参照元
- VnExpress:Bánh trôi Phạm Bằng nhộn nhịp khách ngày mở lại(2026年10月7日)
- znews:Bánh trôi tàu ‘bác Phạm Bằng’ mở cửa trở lại(2026年10月5日)
- znews:Quán bánh trôi tàu ‘bác Phạm Bằng’ ngày mở cửa trở lại(2026年10月6日)
- znews:4 địa chỉ bánh trôi tàu cho ngày se lạnh ở Hà Nội(2019年12月4日)
- Việt Nam News:Meritorious artist Phạm Bằng passed away(2016年11月1日)


