2026年3月、香港セントラルのリンドハーストテラスに「Le Le(リリ)」がオープンした。ベトナム・タインホア出身のシェフ Lê Minh Đức(レ・ミン・ドゥック)と、広東料理の技法を極めたElvin Lam(エルヴィン・ラム)——異なる食文化を背景に持つ2人が組んだ、「プログレッシブ・ベトナミーズ」を掲げるレストランだ。ミシュラン星付き店を複数運営するZS Hospitality Groupの新プロジェクトとして、開業直後から香港のフードシーンで大きな話題を集めている。
店舗の詳細
Le Leは、セントラル地区リンドハーストテラス8番地の3階に位置する。以前はイタリアン「Testina」が入っていたフロアを全面改装し、インディゴを基調にした落ち着いた空間に仕上げた。100本超のワインセラーを備え、ベトナムの職人工芸品をアクセントに配置した内装は、“異国の自宅に招かれた”ような居心地の良さを狙う。
ZS Hospitality Groupとは
Le Leを手がけるのは、創業者Elizabeth Chu(エリザベス・チュー)率いるZS Hospitality Group。同グループはすでに香港で高い評価を得ている店舗を複数展開している。
- Ying Jee Club(穎慈閣)——ミシュラン二つ星の広東料理
- Whey——ミシュラン一つ星、シンガポール料理をベースにしたモダンヨーロピアン
- Hansik Goo——ミシュラン一つ星、韓国ソウルのMingoo Kangシェフとの共同プロジェクト
- Miss Lee——クリエイティブな中華ベジタリアン
Elizabeth Chu自身、サイゴン生まれ・香港育ちという経歴の持ち主。ベトナム料理は彼女にとって“ルーツの食”であり、Le Leは個人的な思い入れが特に強いプロジェクトだという。
シェフの背景
Lê Minh Đức——ベトナム北部の味覚を背負う
ヘッドシェフのLê Minh Đức(レ・ミン・ドゥック)は、ベトナム北部タインホア省出身。フォーやソイマン(おこわ)といった、ベトナムの路上で愛される料理を原点に持つ。フランス料理の技法を習得した後、その技術をベトナム料理の文脈に持ち帰った料理人だ。
Elvin Lam——Whey仕込みの精密さ
エグゼクティブシェフのElvin Lam(エルヴィン・ラム)は、ミシュラン一つ星Wheyの元ヘッドシェフ。広東料理の伝統に精通しながら、ヨーロッパの技法も自在に操る。Đứcの持つベトナムの味覚を、ファインダイニングの構成に落とし込む役割を担っている。
「Le Le」の名前の意味
店名「Le Le」は、ベトナムの河川沿いでよく見られるツクシガモ(whistling duck)のこと。飾らず、水辺を自由に泳ぐその姿に、“気取らないベトナム料理の本質”を重ねた命名だという。
メニュー・価格
Le Leのメニューは、ベトナムの定番料理をファインダイニングの文法で再構築する点に特徴がある。ディナーテイスティングコースを軸に、アラカルトも用意。
| メニュー | 内容 | 価格(HKD) | 日本円目安 |
|---|---|---|---|
| ディナーテイスティングコース | 全8〜10品のフルコース | 888 | 約17,760円 |
| ワインペアリング | コースに合わせた5杯のペアリング | 498 | 約9,960円 |
注目の料理
- フラワークラム(花蛤)のタルト——ラムとコリアンダーの根のジュースを添えたアミューズ
- ベトナム米紙の揚げ春巻——伝統的なライスペーパー使用、パリッとした食感が際立つ
- 鶏出汁を練り込んだフォー——麺自体に鶏の旨みを閉じ込めた再解釈
- 鸠の3種仕立て——バインティエウ(揚げパン)を添えた、広東×ベトナムの融合を体現する一皿
- 土鍋ご飯と焼き鸠——ベトナムハーブの香りをまとわせたクレイポットライス
コース全体を通じて、ベトナムの伝統的なフレーバーを忠実に守りながら、広東料理やフランス料理の技法で精度を上げている印象だ。ハノイ「ZAO」のシェフCuongが見せた攻めのベトナムファンダイニングとも通底するが、Le Leはより「家庭の食卓」に軸足を置いている点が異なる。
現地の反応
メディアの評価
Tatler Asiaは2026年4月の「香港ベストニューレストラン」特集でLe Leを選出。Time Out Hong Kongも体験レポートで「香港のベトナム料理シーンに革新的な一軒が加わった」と評した。South China Morning Postは「サイゴンのソウルフードを再定義する存在」として複数回取り上げている。
香港在住ベトナム人の声
香港にはベトナム系コミュニティが一定数おり、Le Leの開業は“自分たちの食文化がファインダイニングとして認められた”という反応を生んでいる。特にフォーやソイマンを高級レストランで再現する試みは、賛否を含めた活発な議論を呼んだ。
SNS・口コミの動向
OpenRiceやInstagramでは開業直後からレビューが相次ぎ、とりわけ鸠のクレイポットライスと揚げ春巻への言及が多い。「ファインダイニングなのに構えなくていい」という雰囲気への好意的なコメントが目立つ。
日本人旅行者への影響
香港セントラル地区は、MTRセントラル駅から徒歩圏内。蘭桂坊(ランカイフォン)やソーホーエリアにも隣接しており、ディナーの選択肢として立地は申し分ない。
予算感
テイスティングコースHKD 888(約17,760円)は、東京のファインダイニングと比較しても手が届きやすい設定。ワインペアリングを付けてもHKD 1,386(約27,720円)で、コース料理としてはコストパフォーマンスが高い。ベトナム発の12コースカウンター「Vore」と比べても、より気軽に足を運べる価格帯だ。
予約のヒント
SevenRoomsでのオンライン予約に対応している。週末のディナー帯は埋まりやすいため、訪港が決まったら早めの予約を推奨する。ドレスコードはスマートカジュアル——ジーンズにジャケットを羽織る程度で問題ない。
アジアのベトナム料理トレンド
ベトナム料理がアジア各都市のファインダイニングに進出する動きは、こだ2〜3年で加速した。ハノイやホーチミン市内に留まらず、シンガポール、バンコク、香港、東京で「ベトナム食材×現地の調理技法」という掛け合わせが生まれている。
シンガポール料理人がホーチミンに「VOYAGE」を開業した事例は、その逆パターン——外国人シェフがベトナムに入る流れだ。Le Leは、ベトナム人シェフが香港に出て広東料理と融合させるという、アジア内の人材移動が生み出す新しい料理の一例と言える。
フォーやバインミーといったストリートフードは世界的に定着した。次の段階として、それらをファインダイニングの文脈に置き直す試みが各地で始まっている。Le Leはその先頭集団に位置する存在だ。
実用情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | Le Le(リリ) |
| 住所 | 3/F, 8 Lyndhurst Terrace, Central, Hong Kong |
| 最寄り駅 | MTR セントラル駅(D2出口より徒歩約5分) |
| 営業時間(推定) | ディナー 18:00〜23:00 ※ランチ営業は未確認 |
| 価格帯 | テイスティングコース HKD 888(約17,760円) / ペアリング付き HKD 1,386(約27,720円) |
| 予約 | SevenRooms(オンライン予約) |
| ドレスコード | スマートカジュアル |
| 公式サイト | lelehongkong.com |
まとめ
Le Leは、ベトナムの路上料理と香港の広東料理が出会うことで生まれた、ありそうでなかったレストランだ。テイスティングコースHKD 888という価格設定は、ファインダイニング入門としても、ベトナム料理好きの“次の一歩”としても手を伸ばしやすい。
香港旅行のディナー候補として、蘭桂坊エリアの選択肢に加えてみてほしい。ベトナム料理の奥行きと、広東の繊細な技術が交わる食体験は、日本のレストランではまだ出会えないものだ。
出典: Tatler Asia、South China Morning Post、Time Out Hong Kong
