ホーチミン市が2026年1月に着工した都市鉄道メトロ2号線(ベンタイン〜タムルオン)の沿線で、市当局が6月下旬、駅の周りに合計およそ940ヘクタールの都市開発区を5つ設ける区域案を承認しました。地下鉄の駅を核に住宅・商業・オフィスを高い密度で積み上げる「TOD(公共交通指向型開発)」を、市の中心部から北西部まで一本の路線に沿って一気に進める構想です。すでに市内134路線のバスが無料化された動きと重なり、ホーチミンで暮らす人・出張で通う人・旅行で訪れる人の「どこに住み、どこで買い、どう動くか」が、この数年で目に見えて変わっていきます。まだ工事中の路線ですが、街の骨格が固まる前のいまこそ全体像を押さえる価値があります。
940ヘクタールを5区画に、承認されたのは「区域の線引き」
市人民委員会が6月下旬に決めたのは、2号線の各駅を囲む5つの開発区の境界です。5区を足すと約939ヘクタール、当局は「約940ヘクタール」と発表しました。これは建物の設計ではなく、どこからどこまでを一体の街として計画するかという範囲の確定です。
次の段階として、市の計画建築局がコンサルタントと組み、駅ごとの詳細なTOD計画をおよそ4カ月かけてまとめる方針です。TODが目指す姿は、高層住宅・ショッピングセンター・オフィスに、学校や病院、スポーツ施設までを駅の徒歩圏に集める複合開発。車を出さなくても生活が完結する街を、駅の数だけ作っていく発想です。背景には、公有地の価値を開発でとらえ直す特例制度(決議98号)があり、市はこの枠組みを使って鉄道整備と沿線開発を同時に回そうとしています。
メトロ2号線とは——中心部と北西部を結ぶ約11キロ
2号線は、市中心部の玄関口ベンタインから、北西部タムルオンの車両基地までを結ぶ路線です。全長は報道により11.0〜11.3キロ、駅は地下10・地上1の計11駅。カックマンタンタム通りとチュオンチン通りの直下を進み、地上に出るのは終点タムルオン付近だけという、ほぼ全線地下の構造です。
工事は2026年1月15日に起工し、開業予定は2030年。総事業費はおよそ20.9億ドル(約47.89兆ドン、日本円で約3,100億円規模)とされます。ベンタイン駅で既存の1号線(ベンタイン〜スオイティエン)と接続する点も大きく、東西軸の1号線に南北方向の動線が加わる形です。1号線は2024年12月に開業し、2025年には年間2,050万人超と目標比約122%の利用を集めており、市民の足として定着し始めています。地下鉄を軸に街を作り替える流れは、ハノイでメトロ5路線が一斉着工した動きとも重なり、ベトナムの二大都市が同じ方向を向いています。
5つの開発区を一覧で見る
5区は面積も性格もばらつきがあります。中心部の再編から、空港至近の商業拠点、北西部の新都市核まで、路線1本の中に異なる顔が並びます。
| 区域 | 主な駅 | 面積 | 立地の性格 |
|---|---|---|---|
| 第1区 | ベンタイン/タオダン | 約188.57ha | 市中心部・1号線接続の商業行政核 |
| 第2区 | ザンチュ/ホアフン/レティリエン/ファンヴァンハイ/バイヒエン | 約265.07ha | 既成市街地の面的再編(5区中2番目の広さ) |
| 第3区 | グエンホンダオ | 約43.81ha | 5区中最小、駅周辺の集約開発 |
| 第4区 | バーケオ/ファンヴァンバック/タイタイン | 約148.92ha | タンソンニャット空港至近の商業・物流拠点 |
| 第5区 | タムルオン(駅+車両基地) | 約292.81ha | 北西部の新都市核、面積最大 |
数字を並べると、開発の重心が中心部よりも北西の第2区・第5区に大きく振れているのが分かります。土地に余裕のある郊外側で新しい街区を興し、手狭な中心部は接続と再編にとどめる——そんな役割分担が見て取れます。
計画から読み取れる3つの狙い
公表された区域案からは、市が何を優先しているかがうかがえます。
- 投資の重心を北西部へ振ること。第5区タムルオンだけで約293ヘクタールに達し、車両基地と一体で新しい都市核を興す設計になっています。地価の安い郊外側で開発余地を確保する狙いです。
- 空港と物流の接続を意識していること。第4区はタンソンニャット国際空港に近く、当局は商業・物流機能の集積地として位置づけています。人の流れと荷物の流れを同じ駅前で受け止める発想です。
- スピードを重視していること。詳細計画をおよそ4カ月でまとめる方針が示され、2030年の開業に街づくりを間に合わせようという時間軸が明確です。
在住者・旅行者にとって何が変わるか
まだ更地の話に見えても、生活と移動への影響は具体的です。押さえておきたい点は3つあります。
第一に、住まい選びの地図が書き換わることです。これまで中心部から離れて割安だったタンビン方面や北西部のタムルオン周辺が、駅と商業施設をセットで得る「TODエリア」に指定されました。開業を待たずに不動産価格が動く可能性が高く、賃貸で長期滞在する在住者にとっては、契約更新のたびに駅からの距離が家賃を左右する材料になります。逆に、いま相対的に安いうちに沿線へ移る選択肢も現実味を帯びます。
第二に、市内の回遊が地下鉄前提に変わることです。2号線が開業すれば、ベンタインで1号線に乗り換えて東のスオイティエン方面まで一本でつながります。空港送迎やタクシー依存だった移動が、渋滞の激しいカックマンタンタム通りを地下でショートカットする形に変わり、旅行者の行動範囲も広がります。国際線の玄関口が40キロ東のロンタイン新空港へ移っていく流れと合わせ、ホーチミンの移動インフラはこの数年で骨格から組み替わります。
第三に、買い物と食の集積が駅前に寄ることです。TODは駅の徒歩圏にショッピングセンターや飲食を集める設計なので、これまで路地裏に散らばっていた店が駅周辺のモールへ吸い上げられる可能性があります。ローカルな屋台や個人店を目当てにする旅行者は、開発が進む前の街並みを見ておくなら早いほうがいい、という話でもあります。
メトロ2号線の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 路線名 | メトロ2号線(ベンタイン〜タムルオン) |
| 区間・全長 | 市中心部ベンタイン〜北西部タムルオン/約11キロ |
| 駅数 | 11駅(地下10・地上1) |
| 主な経路 | カックマンタンタム通り・チュオンチン通りの地下 |
| 着工・開業 | 2026年1月15日起工/2030年開業予定 |
| 総事業費 | 約20.9億ドル(約47.89兆ドン) |
| 沿線TOD | 5開発区・合計約940ヘクタール |
| 接続路線 | ベンタイン駅で1号線(ベンタイン〜スオイティエン)と接続 |
まとめ——工事中のいま、確かめておきたいこと
ホーチミンは1号線の開業で「地下鉄が定着する街」に一歩踏み出し、2号線ではその沿線ごと940ヘクタールを新しい都市に作り替えようとしています。開業は2030年でも、区域が固まったいまから土地と街並みは動き始めます。在住者なら住みたいエリアの駅からの距離と家賃の動きを、旅行者なら開発前のローカルな街並みを、それぞれ早めに確かめておくと後悔しません。まずは次の一歩として、詳細計画が固まる数カ月後の続報と、タムルオンや空港近くの第4区で先に動く商業施設の情報を追ってみてください。
参照元
- 5 areas identified for commercial development along HCMC’s 2nd metro(VnExpress International)
- TP.HCM lập quy hoạch 5 khu đô thị TOD gần 940ha dọc tuyến Metro số 2(VietnamFinance)
- HCMC to begin construction of Metro Line 2 in January 2026(Vietnam Government News)
- HCMC Metro Line 1 carries over 20.5 million passengers in 2025(The Saigon Times)
