ハノイ旧市街から3km、千年の村バクビエンに欧米客が静かに通う理由

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ハノイの旧市街から紅河(ホン川)を渡って、わずか約3km。橋を一本越えただけで、高層ビルの喧騒が嘘のように消え、千年続く農村の路地が現れます。バクビエン(Bắc Biên)と呼ばれるこの古い村は、大きな観光看板も土産物店の列もありません。それでも、ガイドブックの定番ルートから外れた静けさを求める欧米の旅行者が、口コミづてに少しずつ通うようになっています。ベトナムの「次の旅」で旧市街の混雑に少し疲れたとき、半日だけ足を延ばす行き先として、日本人旅行者にも知っておく価値のある場所です。

目次

ハノイ中心から3km、紅河沿いの「街中の隠れ里」

ベトナムのトゥオイチェー紙が伝えたのは、ハノイ旧市街から約3kmという至近距離にありながら、千年以上の歴史を保つ村バクビエンの姿です。記事では、観光地として大々的に宣伝されているわけではないのに、欧米の旅行者がこの村の素朴な路地や川辺の暮らしに強く惹かれている、と紹介されています。

バクビエンは紅河の左岸(タ・ガン)に位置し、行政区分としてはハノイ市ボーデー(Bồ Đề)地区に属します。旧市街からは橋を渡ってすぐの対岸にあたり、地図の上では「都心のすぐ隣」。ところが川一本を隔てたことで都市開発の波が届きにくく、昔ながらの集落の形がそのまま残されました。「街の真ん中にある隠れ里」という言い方がしっくりくる立地です。

「千年の村」と呼ばれる背景

バクビエンの起源は、1010年にさかのぼります。李朝(リー朝)の太祖リー・タイ・トー帝が都をタンロン(現在のハノイ)へ移した際、安舎(アン・サー/An Xá)に暮らしていた人々が紅河沿いのこの土地へ移り住んだ、と地元では伝えられています。村の名はその後、コー・サー(Cơ Xá)、フック・サー(Phúc Xá)と移り変わり、現在のバクビエンに落ち着きました。たび重なる洪水に向き合いながら川辺で生き延びてきた、その適応の歴史が地名の変遷に刻まれています。

もう一つ、この村を語るうえで欠かせないのが、11世紀の名将リー・トゥオン・キエット(Lý Thường Kiệt、1019〜1105)との縁です。宋との戦いで知られるこの英雄ゆかりの地とされ、村にはその名を祀る祠や寺院が残ります。観光資源として整備された施設ではなく、住民が今も日々の祈りを捧げる生活の場としての信仰空間が、千年の連続性をそのまま伝えているのが特徴です。

国宝に認定された古鐘「アン・サーの鐘」

バクビエンの文化的な核となっているのが、村の寺に伝わる青銅の古鐘です。2026年2月3日、この鐘は正式にベトナムの国宝(Bảo vật Quốc gia/国家の宝物)に認定されました。「アン・サーの鐘(Chuông An Xá)」と呼ばれ、複数のベトナム報道が認定の事実と来歴を伝えています。

項目 内容
名称 アン・サーの鐘(青銅鐘)
鋳造年 1690年(黎中興期・正和11年)
認定 2026年2月3日に国宝指定
刻まれた文字 漢字で約5,500字。9通の勅令の記録を含む

1690年は日本でいえば江戸・元禄の少し前。300年以上前に鋳られた鐘の表面に、王朝が下した勅令の写しと地域の人々の名が刻まれている点が、単なる仏具を超えた歴史資料としての価値を持つと評価されました。観光の目玉として磨き上げられたモニュメントではなく、村が地道に守り継いできたものが国の宝と認められた——その経緯自体が、この場所の奥行きを物語っています。

欧米の旅行者を惹きつける村の空気

派手な見どころがあるわけではないバクビエンに、なぜ海外からの旅行者が静かに通うのか。現地報道や訪問者の声から読み取れる理由を整理すると、おおむね三つに集約されます。

  • 都心から数分の距離なのに、商業化されていない「素のベトナムの農村」がそのまま残っている意外性
  • 紅河の堤防越しに広がる、川と集落が一体になった「川の中の村」のような独特の風景
  • 千年の歴史と国の英雄、国宝の鐘という物語が、生活の場の中に自然に溶け込んでいる密度の高さ

観光地化されたエリアでは味わいにくい「住んでいる人の日常にお邪魔する」感覚こそ、混雑を避けたい層に響いている、というのが訪問者に共通する受け止め方です。SNSでも「ハノイにこんな静けさが残っていたのか」という驚きの声が、欧米の旅行者を中心に少しずつ広がっています。

日本人旅行者にとっての価値と歩き方

日本からハノイを訪れる人の多くは、旧市街やホアンキエム湖の周辺に滞在します。半日もあれば足を延ばせるバクビエンは、その滞在に「もう一段深い体験」を足す行き先として相性が良い場所です。ホイアンの連泊でじっくり一つの町に根を張る旅を以前ご紹介しましたが(ホイアンで連泊・周遊しない旅)、バクビエンも「あえて移動を減らし、一つの集落を歩き尽くす」スロー旅の発想が活きます。

地方の市場でベトナムの素の暮らしに触れる体験(雲市・静かな地方体験)に魅力を感じた方なら、都心からこれほど近い場所で同じ空気を味わえるバクビエンは、行き先リストに加える価値があります。整った観光施設で完結させるのではなく、路地と人の暮らしそのものを目的地にする——そんな旅の組み立て方をおすすめします。

静かな古村ブームと、地域への波及

バクビエンが注目を集める背景には、ベトナム全土で進む「素朴な伝統集落を観光資源として見直す」流れがあります。ダナン近郊の陶芸村のように、職人の技や集落の暮らしそのものを体験コンテンツとして打ち出す取り組みが各地で広がっています(ダナン陶芸村・伝統集落体験)。

一方で、都心至近のバクビエンには大規模な河川沿い開発計画の話も持ち上がっており、住民の暮らしと遺産保全のバランスをどう取るかが地元で議論されています。観光の光が当たることで保全への関心が高まる側面と、生活の場が一気に観光地化してしまうリスクは表裏一体です。だからこそ、訪れる側が「ここは見世物ではなく人の暮らしの場だ」という意識を持って静かに歩くことが、この村らしさを長く残すことにつながります。

実用情報・行き方とマナー

旧市街からバクビエンへの基本的な道のりと、現地での歩き方の目安は次のとおりです。

  • ルート:ハノイ旧市街から紅河に架かる橋(チュオンズオン橋/ロンビエン橋方面)を渡り、左岸のボーデー地区へ。直線距離で約3kmと近く、タクシーや配車アプリ(Grab)なら短時間で着きます。自転車やバイクタクシーでのんびり向かうのも、川越えの景色を楽しめておすすめです。
  • 歩き方:村は生活道路がそのまま路地になっています。広場や寺の前を起点に、地図を片手にゆっくり歩いて回る規模感です。寺院や祠は今も信仰の場なので、靴を脱ぐ・帽子を取るなど現地の所作に合わせましょう。
  • マナー:ここは観光客のための村ではなく、人々が暮らす生活の場です。民家や住民を無断で接写しない、声をかけてから写真を撮る、生活の妨げにならないよう静かに歩く——この基本姿勢が何より大切です。
  • タイミング:日中の明るい時間帯に訪れ、暗くなる前に旧市街へ戻る計画が安心です。雨季(おおむね5〜10月)は紅河が増水しやすいため、川辺では足元に注意してください。

まとめ:旧市街の旅に「半日の寄り道」を

バクビエンは、ハノイ旧市街から橋を一本渡るだけで出会える千年の村です。国宝の古鐘や英雄ゆかりの祠といった見どころがありながら、観光地として作り込まれていない素のままの暮らしが、静けさを求める旅人を惹きつけています。次にハノイを訪れるなら、ぜひ滞在の半日をこの村に充ててみてください。タクシーかGrabで対岸へ渡り、路地をゆっくり歩き、住民の暮らしに敬意を払いながら千年の空気に身を置く——それだけで、定番ルートだけでは得られないハノイの奥行きに触れられます。生活の場であることを忘れず、静かに、丁寧に歩くことを忘れずに。

参照元

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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