紙の土地権利証(レッドブック/ピンクブック)を廃止し、区画ごとのデジタルデータで管理する——ベトナムの農業環境省・土地管理局が、その方向性を示した。各土地区画に行政区分に左右されない固有IDを割り当て、国民電子IDアプリVNeIDから閲覧できるようにする構想で、システム完成とデータ統合の目標は2027年末に置かれている。
ベトナムで住宅や土地を持つ在住者、あるいは投資目的で不動産を検討している人にとっては、権利の証明が「紙の一枚」から「国のデータベースの一行」へ移る話になる。まだ制度化された法令ではなく到達点を描いた段階だが、方向は明確だ。この記事では在住者・保有者の目線で、何が変わり、移行期に何に気をつけるべきかを整理する。
土地管理局が示したのは「紙をやめてデータで持つ」構想
今回の内容は、土地管理局のディン・ホン・フォン氏が会合で説明したものだ。柱は二つある。ひとつは、各区画に地理的位置をもとにしたアルゴリズムで固有の識別子を付けること。もうひとつは、その区画データをVNeIDと結び付け、国民が電話一台で自分の土地情報にアクセスできるようにすることだ。
国家データ協会のグエン・ホン・ソン副事務局長は、この構想の位置づけをこう語っている。「位置情報が標準化され、識別され、つながれば、デジタル経済の幅広い活動をつなぐ接続点になる」。土地情報を、デジタル経済を支える基盤の一つとして位置づける発想がうかがえる。
なぜ紙の権利証が課題になっているのか
ベトナムの土地権利証は、地域や発行時期によって「レッドブック」「ピンクブック」など呼び名も様式も分かれてきた。紙である以上、紛失・破損・偽造のリスクが常につきまとい、名義や地番の確認には現物の照合が要る。区画の番号付けも行政区分に紐づいていたため、市町村の合併や境界変更があるたびに整理が難しくなる。
行政手続きがVNeIDへ集約されていく流れは、土地に限った話ではない。ベトナムではImmigration procedures unified into VNeIDand車検の紙不要化が先行して進んでおり、土地データもその延長線上に置かれている。行政区分に依存しない固有IDは、この「境界に縛られない管理」を土地の世界に持ち込む試みだ。
タインホア省で先に動いているデータ整備
構想を裏付けるように、タインホア省が土地権利証とVNeIDの統合を全国で最初に試している。同省では7月30日時点で全約140万区画のうち123万区画のデータクレンジングを終え、進捗は88.64%に達した。さらに「正確・完全・クリーン・ライブ」の基準を満たした区画は、8月8日時点で711,996区画に上る。
| Item | タインホア省の進捗 |
|---|---|
| クレンジング済み区画(7月30日) | 約123万区画(全140万区画の88.64%) |
| 「正確・完全・クリーン・ライブ」充足(8月8日) | 711,996区画 |
| 全国初パイロット地・アンノン社の同期区画 | 32,414区画を国家土地DBと同期 |
| うち人口DBと照合できた区画 | 6,416区画 |
全国で最初のパイロット地に選ばれたアンノン社では、32,414区画が国家土地データベースと同期され、そのうち6,416区画が人口データベースと突き合わせられた。実際に、電話操作だけで手続きを終え、VNeID経由で土地権利証を初めて受け取った住民も出ている。データの整備が進めば、窓口に足を運ばずに権利を確認・証明できる姿が現実味を帯びる。
在住者・不動産保有者が移行期に見ておくこと
まず押さえたいのは、これがまだ「方向性の提示」であって、紙の権利証が明日無効になるわけではない点だ。目標の2027年末という時期も、全国一律で足並みがそろう保証はない。タインホア省ですら、クレンジングを終えた区画と厳格な基準を満たした区画の間には、まだ大きな開きがある。
移行期に効いてくるのは、手元の権利証と国のデータが食い違わないことだ。名義・面積・地番・境界が現物とデータで一致しているかは、統合が進むほど重みを増す。相続や合筆で書類が古いままの区画、行政区分の変更をまたいだ区画は、突き合わせでずれが出やすい。VNeIDそのものの整備状況も前提になるため、VNeIDに本人情報を登録する流れを済ませておくと、土地データの照会にも入りやすい。
投資目的で購入を検討する場合は、デジタル化の過渡期だからこそ、区画が国家土地データベースに正しく登録・同期されているかの確認が売買前チェックの軸になる。紙の権利証の見た目だけで判断せず、データ上の状態を照合する習慣が、移行期のトラブルを避ける近道だ。
2027年末に向けて、まずやっておけること
土地の証明が紙からデータへ移る構想は、区画固有IDとVNeID統合という二本の柱で描かれた。ただし現時点で確定しているのは方向であって、全国展開の時期や手順はこれから詰まる。過度に身構える必要はないが、放置するのも得策ではない。
在住者・保有者としては、(1)手元の権利証の記載が現物と合っているかを確認する、(2)VNeIDの本人登録を進めておく、(3)タインホア省のような先行地の運用が全国へどう広がるかを追う——この三つを移行期の備えとしておきたい。制度が固まった段階で慌てないための、地味だが効く準備だ。
