メコンデルタのアンザン省ヴィンテー坊(Vĩnh Tế、旧チャウドック市街)、田んぼの中にぽつんと立つヌイサム(Núi Sam)の山肌に、高さ81メートルの釈迦牟尼座仏が彫り込まれている。地元紙トゥオイチェとVnExpressが2026年9月上旬に伝えたところでは、像は山の岩盤を直接削り出す一体彫りで進み、完成は2027年末を見込む。完成すれば中国・四川の楽山大仏(71メートル)を抜き、岩壁に刻まれた仏像として世界最高になる見込みだとされる。
まだ「完成した観光名所」ではない点が、この話を今読む値打ちにしている。落成を待たず、建設現場そのものが巡礼と好奇心の対象になり始めた。ベトナムを旅する人、参拝や法要を組み込んだ行程を考える人、そして仏教まわりの土産や食品を扱う事業者にとって、完成前の今こそ動線を先に描ける時期だ。
山を丸ごと削って作る81mの座仏、工事は今どこまで進んだか
この像がふつうの仏像と違うのは、別の場所で鋳造して運び込むのではなく、ヌイサムの岩盤そのものを彫り抜いて座仏の形にしている点だ。VnExpressは工程の約7割が終わったと伝え、現場では岩盤の掘削班と彫刻班をあわせて約50人が作業を続けていると報じた。整地と像の原型づくりに必要な岩石の掘削量は、計画上およそ19万8千立方メートルとされる。これらの数字はいずれもVnExpress単独の報道で、トゥオイチェは投資額など別の数字を挙げており、細部は出所によって幅がある。
一体彫りだから運べない、動かせない
一体彫りは、山と像が物理的に一続きになる作り方だ。完成後に移設も再配置もできないため、立地の選定と設計が最初の一発で決まる。裏を返せば、山そのものが台座であり背景であり、周囲の景観と切り離せない。参拝者は「像を見に行く」のではなく「山に会いに行く」感覚に近づく。この不可分さが、後述する周辺の巡礼地群とセットで語られる理由でもある。
2015年に始まり、2027年に終わる長い工事
トゥオイチェによれば起工は2015年3月。10年以上をかけて岩を削り続けてきた計算になる。VnExpressは像本体の完成を2027年末、周辺公園の整備完了を2028年6月ごろと見込むと伝えた。つまり2026年秋の今は、像の輪郭は立ち上がっているが、参道や公園はこれから整う途中段階にある。訪ねるなら「完成品を見る」より「大工事の途中を見る」つもりでいたほうが、実際とのズレが小さい。
なぜ楽山大仏を超える仏像がメコンの街に生まれるのか
ヌイサムのあるチャウドック一帯は、もともとベトナム南部でも指折りの参拝地だ。山のふもとには霊験で知られるバー・チュア・スー廟(Miếu Bà Chúa Xứ)があり、旧正月から旧暦4月ごろにかけて、南部一円から願掛けの人が押し寄せる。信仰が人を運び、人が金を落とす循環が、この土地には数百年単位で根づいている。
参拝が経済を回すアンザンの土壌
81メートルの座仏は、その循環の上に新しい目印を一つ足す。廟へのお参りは屋内の静かな行為だが、山肌の巨大仏は遠くからでも視界に入り、写真に収めたくなる。遠望できて写真映えする被写体が若い世代や外国人の呼び水になりやすい――ここは筆者の見立てだが、信仰の場に視覚的な話題性が重なれば、集客の裾野は広がりやすい。
「世界最高」を掲げる地方観光の勝負どころ
楽山大仏より高い、岩彫りでは世界最高という肩書きは、地方が人と資金を呼び込むときの強い旗印になる。実際この工事の資金は、トゥオイチェによれば社会化(寄進・喜捨)とヌイサム廟の管理委員会の資金でまかなわれるという。ダナンやニャチャンのような沿岸のリゾートと違い、内陸のメコンデルタは海のない観光地だ。だからこそ「ここにしかない一点物」を軸に据える戦略は理にかなう。棚田や漁村など固有の風景で勝負する動きは各地で進んでおり、ベトナムが世界最優秀観光村へ推した棚田や松林の5村の顔ぶれと並べて見ると、ヌイサムの巨大仏も「唯一無二の目印」を作る同じ潮流の中にある。
81mの仏像にいくらかかる?255 tỷと456 tỷは何が違うか
ここは慎重にいきたい。二つの主要紙で金額が食い違うが、よく読むと「対象範囲が違う」可能性が高い。矛盾として片づけず、それぞれの数字が何を指すのかを分けて扱う。
二紙で一致している事実
| 項目 | 内容 | 出所 |
|---|---|---|
| 像の高さ | 81メートル | トゥオイチェ/VnExpress |
| 形式 | 山の岩を直接彫る一体彫り(釈迦牟尼座像) | 両紙 |
| 所在地 | アンザン省ヴィンテー坊、ヌイサム | 両紙 |
| 状態 | 建設中(VnExpressは約70%完了) | 両紙 |
| 完成予定 | 像本体は2027年末 | 両紙 |
| 比較 | 完成すれば中国・楽山大仏(71m)を上回る見込み | 両紙 |
255 tỷは仏像、456 tỷは公園全体――対象が違う二つの金額
トゥオイチェは、巨大仏の工事について総投資額を約255 tỷ đồng(約2,550億ドン)と伝え、その資金源を社会化(寄進・喜捨)とヌイサム廟の管理委員会の資金と説明する。一方でVnExpressは、この巨大仏を主要施設とする「ヌイサム文化公園プロジェクト」全体の総投資額を456 tỷ đồng超(約4,560億ドン超)としている。前者は像そのもの、後者は公園全体を指している可能性が高く、単純に同じ数字が二紙で矛盾していると読むのは誤りだ。どちらも確定額として一本化はせず、対象範囲つきで押さえるのが安全になる。
円に直すといくらか、桁の読み方
参考に1円≈175ドン(2026年9月時点の概算、為替は変動する)で換算すると、2,550億ドンは約14〜15億円、4,560億ドンは約26億円にあたる。ベトナム語の通貨は tỷ が10億、triệu が100万で、tỷ を「億」と読み違えると桁が大きくずれる。原文表記(VND)のまま押さえておくのが安全だ。
2026年に450万人超が訪れたヴィンテー、周辺で起きていること
トゥオイチェによれば、2026年に入ってからヴィンテー一帯を訪れた観光客はのべ450万人を超えた。これは巨大仏だけの数字ではなく、バー・チュア・スー廟やトアイ・ゴック・ハウ霊廟(Lăng Thoại Ngọc Hầu)、ハン洞窟寺(Chùa Hang)を含むエリア全体の来訪だ。巨大仏は、その厚い参拝需要に「もう一つ寄り道する理由」を差し込む位置づけになる。
メコンデルタの旅は、名所を点で見るより、川と暮らしの中に入っていく体験に価値が出やすい。法要の宴に外国人が招かれるメコンの人情に触れる旅のような、土地の生活そのものを味わう動線と、ヌイサムの参拝はよく噛み合う。仏像を見上げたあと、近くの市場や川辺の食堂へ足を伸ばす一泊二日は、完成後の王道ルートになりうる。
日本の旅行者と食品事業者に、この工事は何を示すか
ここからは筆者の見立てだ。完成前の巨大仏は、日本側の二種類の読者にそれぞれ違う意味を持つ。
旅行者は「工事中の今」に別の面白さがある
2027年末の完成後は、さらに人が増える可能性がある。すでにこの一帯はのべ450万人規模の集客があり、もともと静けさを期待する場所ではない。それでも工事途中の今は、山肌が像へと姿を変えていく途中の景色を、公道や運河沿いの安全な場所から眺められる時期だ。ただし採石と足場を伴う現場のため、工事区域には立ち入らず、現地の規制に従う前提になる。信仰行事に合わせて訪ねるなら、ダナン五行山で日本のお盆と重なる時期に営まれるヴーラン報恩祭の3日間のように、祭礼の日程を軸に旅を組むと、ただの観光では見えない土地の祈りの濃さに触れられる。ヌイサムも旧暦の廟祭の時期を外さないほうが、街の熱量は高い。
食品・土産の事業者は「巡礼消費」に照準を
参拝地の周辺では、線香や供物だけでなく、日持ちする菓子・乾物・地元産の食材が土産として動く。巨大仏が新しい人流を生むかは完成を待たないと分からないが、既存の巡礼需要だけでも土産物の商圏はすでに厚い。国産の乾燥フルーツや乾燥野菜のような、軽くて日持ちしギフトになる食品は、巡礼者の「誰かに買って帰る」需要と相性がよいと想定される。完成前の今のうちに、どの動線のどの店に何を並べるかを思い描いておくことは、2027年以降の一手を早める。
行く前に押さえる場所・時期・アクセス
現時点は建設中で、一般向けの見学施設や公開範囲は整っていない。以下は2026年9月時点で報道と一般的な地理から確認できる範囲の実用情報で、価格や公開状況は流動的だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | アンザン省ヴィンテー坊(旧チャウドック市街)、ヌイサム(Núi Sam) |
| 現状 | 建設中(VnExpressは約7割完了と報道)。像本体の完成予定は2027年末、周辺公園は2028年6月ごろ |
| 近隣の見どころ | バー・チュア・スー廟、トアイ・ゴック・ハウ霊廟、ハン洞窟寺 |
| 行き方の目安 | ホーチミン市から車で西へ約6時間。チャウドック市街からヌイサムふもとまで数キロ |
| おすすめ時期 | 旧暦の廟祭シーズン(例年おおむね旧暦4月ごろ)は賑わいが最大。静かに見たいなら平日 |
※アクセス所要時間は一般的な地理に基づく目安で、報道による確定値ではない。実際の道路状況で前後する。
完成を待つ2年、ヌイサムでいまできること
いま取れる具体的な行動を一つ挙げるなら、「2027年末の完成前に一度、工事中の姿を見に行く日程を仮押さえする」ことだ。完成後は人がさらに増える可能性がある一方、削り出し途中の巨大仏を公道から眺められるのは今の時期に限られる。隣り合うバー・チュア・スー廟の参拝とセットにした一泊に、メコンの暮らしや祭礼に触れる寄り道を一つ足しておくと、ヌイサムの巨大仏が「完成品を消費する観光」ではなく「変わっていく土地に立ち会う体験」になる。
