ハノイから北へ車で3時間弱、中国との国境に近いランソン省で、農家の畑がそのまま「摘み取り観光地」に変わり始めている。ベトナムの農業紙ダンヴィエットが伝えたのは、フウルン県のハーデンぶどう園と、ランソン市郊外の栗園が、入園無料で客に収穫させ、その場で直販や試食を回すことで一戸あたり年数億ドンを稼ぐという話だ。北部の山岳観光といえばサパの奥、シマカイ高原で開かれる果樹園のもぎ取り祭が知られてきたが、ハノイからの日帰り圏にも同じ楽しみ方ができる畑が育っている。旅行者にとっては「行って・摘んで・食べて帰る」が一日で完結する、季節限定の寄り道先になる。
畑が観光地になった、ランソンで起きていること
主役は二つの作物だ。ひとつはフウルン県で栽培されるハーデンぶどう。もうひとつはランソン市に隣接するルオンヴァントリ地区(旧クアンラック)の栗である。どちらも共通するのは、農家が畑を客に開放し、来た人が自分の手で収穫し、その場で買って帰るという売り方に切り替えた点だ。
ぶどう農家のホアン・ヴァン・トム氏は3つの園を持ち、来園客の受け入れとオンライン直販を組み合わせて年およそ5億ドン、日本円でおよそ300万円を得ている。栗の産地では一戸あたり年3〜4億ドン、日本円で180万〜240万円という水準の農家も出てきた。仲買に安く卸すのではなく、観光客に直接届けることで単価を丸ごと自分の手元に残す。これがランソンの農家が見つけた稼ぎ方だ。
ハーデンぶどう——輸入ぶどうより高くても売り切れる理由
ハーデンは種のない黒ぶどうで、棚仕立ての下を歩きながらハサミで房ごと切り落とす。ランソン省は同じ手法の観光ぶどう園をビンザー、ヴァンクアン、フウルン、バクソンなどに広げ、省内で11のモデル園が動いている。地元メディアによれば「輸入ぶどうより高いのに売る分が足りない」という園も出ているという。
価格は摘み取り分でだいたい1kgあたり15万〜20万ドン、およそ900〜1,200円。入園料は無料の園もあれば、2万〜3万ドン(約120〜180円)を取る園もある。収穫の最盛期に各園が受け入れる客は1シーズンで500〜800人ほどで、園によっては1〜1.5億ドン(約60万〜90万円)の売上につながる。7億ドン近くを投じて荒れた丘をぶどう園に変え、年2回の結実サイクルを回す女性農家も現れており、この園はおおむね6〜7月と11〜12月ごろが摘み取りの狙い目になる。
栗狩りは9月が本番、ハノイの家族連れが押し寄せる
もうひとつの目玉が栗だ。ルオンヴァントリ地区一帯の栗林は約100ヘクタールに及び、一戸で約3,000本を育てる農家もある。VietGAP認証やOCOP3つ星を取った産地で、実は大きくホクホクと甘い。
収穫期は8月から10月、実が一気に熟すのは8月中旬から9月中旬の1カ月ほどで、栗拾いツアーが最も混むのは9月だ。ハノイから100km以上離れたバクニン省などからも家族連れが車で通う。園ではガイドが軍手・ハサミ・かごを渡してくれ、イガに覆われた実を木の根元から探して拾い、硬いトゲの殻をむくところまでが体験になる。ちょっとした山登りと手先の作業が要るので、子ども連れのレジャーとしてちょうどいい。
数字で見る、ランソンの摘み取り農園
| 項目 | ぶどう園(フウルン県) | 栗園(ルオンヴァントリ地区) |
|---|---|---|
| 作物 | ハーデン(種なし黒ぶどう) | ランソン栗 |
| 収穫期 | 6〜7月/11〜12月ごろ(園による) | 8〜10月(最盛期は8月中旬〜9月中旬) |
| 入園料 | 無料〜2〜3万ドン(約120〜180円) | 無料〜数万ドン |
| 摘み取り価格 | 1kg 15〜20万ドン(約900〜1,200円) | 時価(その場で計量) |
| 農家の年収例 | 約5億ドン(約300万円) | 3〜4億ドン(約180〜240万円) |
この一覧は、旅行者が「いつ・いくらで・何を持ち帰れるか」を掴むための目安だ。金額は園や時期で動くので、訪ねる前にSNSの投稿や電話で当日の受け入れ可否を確かめておくと確実だ。南部のメコンのドンタップで開かれるフルーツフェスのようなフルーツ狩りと違い、ランソンは一戸ごとの小さな畑を訪ねる形なので、事前連絡が効く。
畑で食べる、栗おこわと栗ミルク
摘み取りの楽しさは、収穫したその場で食べられることにある。栗園を訪ねた客の声を拾うと、体験の中心が「拾う」だけでないことが分かる。
- 拾い終えたかごを園主に渡すと、炒りたての熱い栗や、香り高い栗ミルク(スア・ハッ・ゼー)をふるまってくれる園がある
- 栗おこわ(ソイ・ハッ・ゼー)や焼き栗、栗の菓子など、その場で調理してもらえる料理を頼める
- 加工済みの栗製品を土産として買って帰る客も多く、産地ならではの品ぞろえが並ぶ
ぶどう園でも、切り落とした房をそのまま口に運びながら棚の下で写真を撮るのが定番になっている。摘む・食べる・撮るが一続きになっているのが、この農園観光の核心だ。
旅行者が押さえておきたい実用ポイント
この農園めぐりを日本人旅行者が楽しむなら、三つの点を押さえておきたい。
第一に、行くなら季節を外さないこと。ぶどうと栗は旬がずれる。夏の終わりから初秋に北部を旅するなら栗狩りが本番で、9月がいちばん外れがない。ぶどうを狙うなら初夏か晩秋に合わせる。同じランソンでも訪ねる時期で体験が変わる。
第二に、ハノイからの日帰り圏だと理解しておくこと。ハノイ〜ランソン市は約153km、ハノイ〜バクザン〜ランソンの高速道路を使えば車でおよそ2.5〜3時間だ。国道1号の一般道時代は3.5時間かかっていた区間が高速で短縮された。早朝にハノイを出れば、昼に畑で摘んで夕方に戻る行程が十分に組める。
第三に、単独より現地ツアーや貸切車が動きやすいこと。畑は市街地から離れた丘の上にあり、公共交通で正確に辿り着くのは難しい。栗拠点では日帰りと1泊2日のツアーが用意されており、山あいに泊まって過ごすなら北部山岳の村に泊まる紅ザオ族の体験のように、周辺の民族文化と組み合わせる回り方も向いている。
まとめ——秋のベトナム北部に一日、畑の寄り道を
ランソンの農園観光は、まだガイドブックの主役ではない。だが「入園無料で自分で摘み、その場で食べて土産に持ち帰る」という形は、旅行者にとって分かりやすく、値段も透明だ。狙うべきは作物の旬——栗なら8月中旬から9月、ぶどうなら初夏か晩秋。ハノイを拠点に北部を数日回るなら、一日だけ畑に足を延ばす計画を差し込む価値がある。まずは訪ねたい園のSNSで当日の収穫状況を確かめ、貸切車かツアーで丘の上の畑を目指してみてほしい。
