韓国の鉄道車両大手Hyundai Rotemと、ベトナム最大級の民間コングロマリットThaco(Truong Hai)が、2026年6月11日にハノイで技術移転契約を結びました。ベトナム国内でメトロ車両を製造するための合意です。これまで完成車を輸入していたベトナムが、自国で都市鉄道の車両を組み立てる側へ回る転換点になります。ホーチミン市を旅する人にとっては、いま体験できる地下鉄が「点」から「線」、やがて「面」へ広がっていく未来図が、契約という形で具体的に見えてきた出来事です。
契約の要旨:輸入から国産組み立てへ
今回の枠組みは二段構えになっています。先に2026年4月23日、ホーチミン市の都市鉄道向けに162両を供給する契約が交わされました。そのうえで6月11日、車両を国内で生産するための技術移転契約が署名されました。Hyundai Rotemが設計図や技術文書、製造工程と品質管理の仕組みを渡し、ベトナムの技術者を韓国で訓練したうえで現地でも支援する、という内容です。
162両の内訳は、6両が韓国で完成車として組み立てられ、残る156両はノックダウン方式、つまり部品キットの状態でベトナムに運ばれ、Thacoが現地で組み立てます。最初の数両で「お手本」を見せ、その後を自国の工場で量産していく流れです。車両という重工業の塊を国内で仕上げられるようになることが、この契約のいちばんの狙いといえます。
背景:なぜ「国産化」なのか
ホーチミン市の都市鉄道計画は、市の行政区域が2025年に広がったことで規模が一段と大きくなりました。構想では27路線、総延長1,024kmという数字が掲げられています。これだけの長さの路線をすべて完成車の輸入で賄うのは、コストの面でも納期の面でも現実的ではありません。車両を国内で作れる体制を持てば、調達の主導権を自国側に引き寄せられます。
市の都市鉄道管理当局トップであるPhan Cong Bang氏は、国産部品の比率を高め「技術を自分たちのものにする」ことが中心的な目標だと述べています。単に安く車両を手に入れる話ではなく、設計・製造・整備のノウハウごと国内に根づかせる狙いがにじみます。輸入に頼り続ければ、増備や更新のたびに海外メーカーの都合に左右されます。ここで製造能力を持っておけば、これから何十年も続く路線網の拡張を、自国のペースで進められるという計算が働いています。
現状を確認すると、運行中の路線はおよそ20kmにとどまります。2024年12月に開業したベンタイン〜スオイティエン線(1号線)が、ベトナム初の都市鉄道として走り始めたばかりです。1,024kmという最終形からすれば、まだ入り口に立った段階といえます。だからこそ、車両を作る側の基盤を早い段階で固めておく意味は大きくなります。
規模とスケジュール
車両を製造する複合施設は320ヘクタールの規模で計画されています。工場ではメトロ車両だけでなく、機関車やトンネル掘削機、橋桁、トンネルの部材、鉄道用まくらぎなども手がける構想です。鉄道インフラを丸ごと供給できる拠点を目指している点が特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 技術移転契約の署名 | 2026年6月11日(ハノイ) |
| 車両供給契約 | 2026年4月23日 |
| 車両数 | 162両(完成車6両+ノックダウン156両) |
| 工場用地 | 約320ヘクタール |
| 工場の着工予定 | 2026年7月初旬 |
| 生産開始予定 | 2027年4月 |
| ホーチミン市の鉄道網構想 | 27路線・総延長1,024km |
| 現在の運行距離 | 約20km |
| 2030年の目標距離 | 約200km |
着工が2026年7月初旬、生産開始が2027年4月という日程を見ると、本格的に車両が出てくるのは来年以降です。それでも、用地と契約と日程がそろった時点で、計画は「絵」から「工程」に変わったと受け取れます。
反応:期待と現実のあいだ
当局側は、国産部品比率の向上と技術の自国化という旗を明確に掲げています。これは車両調達のコスト管理だけでなく、整備・部品供給を国内で完結させ、路線網の長期運営を安定させる狙いとつながっています。
産業界の視点では、自動車製造で実績を積んできたThacoが鉄道車両という新領域に踏み込む点が注目されます。完成車の輸入から、部品キットの国内組み立て、そして将来的な内製比率の引き上げへ。自動車で歩んだ国産化の道筋を、より重い鉄道車両でたどろうとする構図です。海外メーカーの技術を取り込みつつ自国の製造力を育てるやり方は、ベトナムがこれまで他産業で重ねてきた手法と重なります。
利用者の実感としては、すでに1号線が日常の足になりつつあります。開業から累計で3,000万人を超える乗客を運んできた事実が、都市鉄道への需要の大きさを物語ります。渋滞とバイクの波で知られたホーチミン市で、冷房の効いた静かな車内で移動できる選択肢が定着し始めた手応えは、次の路線への期待を後押ししています。
日本人旅行者にとっての意味
いまホーチミン市を訪れる旅行者にとって、地下鉄はまだ1本だけです。けれども今回の動きは、数年先の旅のかたちを変える布石になります。車両を国内で量産できる体制が整えば、路線の延伸や増備が進めやすくなり、待ち時間の短い高頻度運行や、空港・主要観光地と中心部を結ぶ移動が現実味を帯びてきます。
ホーチミン市の移動といえば、これまではタクシーや配車アプリ、勇気のいるバイクタクシーが中心でした。地下鉄網が育てば、料金がわかりやすく、渋滞に巻き込まれず、暑さや雨を避けて移動できる手段が増えます。土地勘のない旅行者ほど、路線図に沿って動ける鉄道の恩恵は大きくなります。今回の国産化の一歩は、その「いつか」を「現実の工程表」に乗せた点で、旅行者にも無関係ではありません。
鉄道・産業への波及
320ヘクタールの拠点が機関車やトンネル掘削機、橋桁まで視野に入れている点は、単なる車両工場を超えた意味を持ちます。都市鉄道に必要な要素を国内で供給できれば、ホーチミン市だけでなく、ハノイをはじめ各地で進む鉄道計画にも応用が利きます。車両を作るために育った技術者・サプライヤー・品質管理の仕組みは、一つの路線で終わらず、次の路線、次の都市へと横展開していく資産になります。
外国メーカーの技術を受け取りながら自国の製造業を底上げするこのやり方は、雇用や関連産業の裾野にも効いてきます。鉄道は車両だけで動くものではなく、保守・部品・運行管理まで含めた長い産業の連なりです。その入り口を国内に置けたことは、ベトナムの製造業全体にとって意味のある一手といえます。
実用情報:いまのホーチミン市メトロの使い方
旅行で使えるのは、2024年12月22日に開業した1号線(ベンタイン〜スオイティエン線)です。全長は19.7kmで14の駅があり、中心部のベンタイン市場側から東のトゥードゥック方面へ伸びています。中心部の数駅は地下を走り、それ以外は高架を走るので、車窓から街並みを眺める時間も楽しめます。
運賃は距離に応じて変わり、おおむね1乗車7,000〜20,000ドン前後です。観光で複数駅を乗り降りするなら、1日乗り放題券(40,000ドン)を選ぶと計算が楽になります。支払いは駅の券売機や窓口のほか、改札でのカードタッチやスマホ決済にも対応しています。「HURC」というメトロ公式アプリでQRコードを発行し、改札でかざす方法も使えます。VisaやMastercard、現地の電子マネーにも対応しているので、現金がなくても乗りやすい環境です。
渋滞の激しい時間帯でも定時で動けるのが地下鉄の強みです。ベンタイン市場まわりの観光と、東側エリアへの移動を組み合わせる行程なら、移動のストレスをかなり減らせます。まずはこの1本を体験しておくと、これから増えていく路線網の使い勝手を先取りできます。
まとめ
Hyundai RotemとThacoの技術移転契約は、ベトナムが都市鉄道の車両を「買う国」から「作る国」へ踏み出す節目です。162両の供給から始まり、320ヘクタールの拠点で量産体制を整え、27路線・1,024kmという壮大な構想を自国の力で支えていく。その第一歩が、いま動き出しています。旅行者の目線で見れば、ホーチミン市の移動はこれから確実に便利になっていきます。次にこの街を訪れるときには、走り始めたばかりの地下鉄が、もう少し頼れる足になっているはずです。
よくある質問
Q. いまホーチミン市で旅行者が乗れる地下鉄はありますか?
A. はい。2024年12月22日に開業した1号線(ベンタイン〜スオイティエン線)が運行中です。全長19.7km・14駅で、中心部から東のトゥードゥック方面を結びます。
Q. 今回の技術移転で旅行者の移動はすぐ変わりますか?
A. すぐではありません。工場の着工は2026年7月初旬、生産開始は2027年4月の予定です。車両の国内製造が軌道に乗ることで、今後の路線延伸や増備が進めやすくなり、数年先の移動の便利さにつながっていく見通しです。
Q. メトロの運賃と支払い方法は?
A. 運賃は距離に応じておおむね1乗車7,000〜20,000ドン前後です。1日乗り放題券は40,000ドン。券売機や窓口のほか、改札でのカードタッチ、公式アプリ(HURC)のQRコード、VisaやMastercard、現地電子マネーでも支払えます。
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