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ベトナム最北端ハザン省(Hà Giang)ドンヴァン石灰岩高原に位置するロロチャイ村(Lô Lô Chải)が、国連世界観光機関(UNWTO)の「世界最優秀観光村2025」に選出されたことを受け、航空業界が一斉に動いた。Vietnam Airlines、VietJet、Bamboo Airways、Qatar Airways、Emiratesの5社がハノイや主要国際都市からベトナム北部へのフライトを増便・新設し、この辺境の少数民族集落へのアクセス競争が激化している。世界270以上のノミネートから選ばれたロロチャイは、人口わずか数百人のロロ族(Lô Lô)の集落でありながら、持続可能な観光と文化保存の両立で国際的な評価を獲得した。
2025年10月17日、中国・杭州で開催されたUNWTO観光サミットにおいて、ロロチャイ村は世界270以上のノミネート地域の中から「Best Tourism Village 2025」に選出された。選考基準は以下の9項目で、ロロチャイは特に「文化保存」「コミュニティ主導の観光」「持続可能性」の3分野で高評価を得た。
| UNWTO選考基準 | ロロチャイの該当ポイント |
|---|---|
| 文化・自然資源 | ドンヴァン・カルスト高原(ユネスコ世界ジオパーク)内に位置 |
| 文化保存と持続可能性 | ロロ族の青銅太鼓・手刺繍・土壁建築の継承 |
| 経済的持続可能性 | 50以上のホームステイを地元住民が運営 |
| 社会的包摂 | 少数民族女性の刺繍ワークショップが収入源に |
| 環境保全 | プラスチック使用制限、伝統的な土壁建築の維持 |
| 観光開発・バリューチェーン | 地元ガイド・料理・宿泊の一体提供 |
| インフラ・接続性 | ルンクー旗台(国境最北端)まで徒歩圏内 |
| 保健・安全 | コミュニティ主導の安全管理体制 |
| ガバナンス・優先順位 | ハザン省政府の観光持続可能性計画に統合 |
ベトナムからは同時にクインソン村(Quỳnh Sơn)も受賞しており、ベトナムは累計5つの村がUNWTOの「Best Tourism Village」認定を受けている。
ハザン省は、ベトナム最北端の国境地帯に位置する山岳省で、中国との国境をルンクー旗台(Cột Cờ Lũng Cú)で接する。ドンヴァン・カルスト高原は2010年にユネスコ世界ジオパークに認定され、「天に向かって突き出す石灰岩の針山」が連なる独特の景観が広がる。
かつてはバックパッカーだけが訪れる辺境だったが、2020年代に入りSNS(特にTikTokとInstagram)でハザン・ループ(Ma Pi Leng峠やNho Que川の断崖絶壁)が拡散され、観光客が急増。2026年に安全規制が強化された背景には、バイクツーリストの増加による事故の多発がある。
ハザン省には現時点で商用空港がなく、最寄りの空港はハノイ(ノイバイ空港、車で約7時間)またはラオカイ省(車で約5時間)だ。このアクセスの困難さが「秘境感」を生む一方、観光スケールの天井にもなっている。
ハザン省に直接の空港がないため、5社の増便は「ハノイおよびラオカイへの国際線・国内線の増強」という形で実現している。
| 航空会社 | 増便・新規路線 | ハザンとの関連 | 運賃目安(円換算) |
|---|---|---|---|
| Vietnam Airlines | バンコク・ソウル・東京→ハノイ増便 | ハノイ経由でハザンへ(バス約7時間) | 片道25,000〜50,000円 |
| VietJet | ホーチミン・ダナン→ハノイ国内線増便 | 国内線でハノイ到着後バス移動 | 片道5,000〜15,000円 |
| Bamboo Airways | ハノイ→香港・シンガポール新規就航 | 香港・シンガポール→ハノイ経由でハザン | 片道20,000〜40,000円 |
| Qatar Airways | ドーハ→ハノイの機材大型化・増便 | 欧州・中東→ハノイ乗り継ぎ | 片道60,000〜120,000円 |
| Emirates | ドバイ→ホーチミン増便(ハノイ接続便と連携) | 中東・アフリカ→ホーチミン→ハノイ経由 | 片道50,000〜100,000円 |
Qatar AirwaysとEmiratesという中東系2社の参入は、欧州・中東・アフリカからベトナム北部を訪れる長距離旅行者の増加を見込んだ動きだ。ロロチャイのUNWTO受賞が、ベトナム北部全体の国際的認知度を押し上げた結果といえる。
ロロチャイ村は、ルンクー旗台(ベトナム最北端の国境碑)の麓に位置し、ロロ族(Lô Lô)と呼ばれる少数民族が暮らす集落だ。ロロ族はベトナム全土で約4,500人しかおらず、そのうち相当数がこのロロチャイ村に居住している。
村の最大の文化遺産は「ロロ族の青銅太鼓」だ。宗教儀式、森林崇拝、新米祭り、葬送儀礼で使われるこの太鼓は、ベトナムで唯一ロロ族だけが継承する楽器とされている。村内では青銅太鼓の実演体験も提供されている。
建築面では、厚さ約1メートルの土壁で造られた伝統家屋が立ち並ぶ。この土壁構造は高原の厳しい気候(冬は0℃近くまで低下)に対する断熱機能を持ち、窓を最小限に抑えた設計は防風と保温を兼ねている。50以上のホームステイが地元住民によって運営されており、1泊あたり20万〜40万VND(約1,200〜2,400円)で伝統家屋に宿泊できる。
UNWTO受賞後、ベトナムのトラベルフォーラムやSNS(Facebook「Hà Giang Phượt」グループ、TikTok)では以下のような反応が目立つ(意訳・匿名)。
「ロロチャイが世界一の観光村に選ばれたのは誇らしいけど、ハノイから7時間かかるアクセスをどうにかしないと、受け入れ能力がすぐ限界に達する」
「ホームステイ50軒で世界中から観光客が来たら、村の静けさが失われる。UNWTOの『持続可能性』を守れるかどうかが本当の試練」
「週末に行ったら日の出ハイキング(朝4時出発)がすでに混雑していた。ロロ族のおばあちゃんの刺繍ワークショップは本物の文化体験で、これだけでも行く価値がある」
「韓国人・欧米人のツーリストが急増している。UNWTO受賞の前後で客層がガラッと変わった印象」
日本人バイクツーリストの間で「ハザン・ループ」はベトナム北部の定番ルートとして知られていたが、その多くは「絶景ドライブ」が目的で、特定の村を深く訪れるスタイルではなかった。ロロチャイのUNWTO受賞は、ハザン旅行に「文化体験の目的地」という新たなレイヤーを加える。
ロロチャイ村での体験プランの一例を紹介する。
| 体験 | 所要時間 | 費用目安 | 円換算 |
|---|---|---|---|
| 日の出ハイキング(ルンクー旗台) | 朝4:00〜6:00 | 無料(ガイド付きは10万VND) | 約600円 |
| 青銅太鼓の実演・体験 | 約30分 | 5万〜10万VND | 約300〜600円 |
| ロロ族刺繍ワークショップ | 約2時間 | 15万〜20万VND | 約900〜1,200円 |
| 伝統料理体験(アウタウ粥、焼きトウモロコシ餅) | 約1時間 | 5万〜8万VND | 約300〜480円 |
| 土壁伝統家屋ホームステイ(1泊) | 1泊 | 20万〜40万VND | 約1,200〜2,400円 |
ハザン・ループの2026年安全規制強化を事前に確認した上で、3泊4日程度の旅程を組むのが現実的だ。ハノイからハザン市までは夜行バス(約7時間、片道約30万VND=約1,800円)が一般的で、ハザン市からロロチャイ村まではさらに車で約2.5時間かかる。
UNWTO「Best Tourism Village」の称号は、ベトナム政府の観光開発計画を加速させる。ハザン省政府はロロチャイ周辺のインフラ整備(道路拡幅、電力安定化、携帯電話基地局の増設)を急ピッチで進めている。一方で、過度な開発が受賞の根拠である「持続可能性」を損なうリスクも指摘されている。
5社の増便競争が示すのは、航空業界が「目的地としてのベトナム北部」に賭け始めたという構造変化だ。これまでベトナムの航空需要はホーチミン・ハノイ・ダナンの3大都市に集中していたが、ハザン省のような辺境地域が国際的な観光賞を受賞することで、周辺の航空ルートに波及効果が生まれている。フーコックのAPEC 2027に向けたメガホテル開発とは対照的に、ロロチャイは「小規模×持続可能」という別のモデルで国際的な注目を集めている。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 所在地 | ハザン省ドンヴァン県ルンクー社ロロチャイ村 |
| ハノイからのアクセス | 夜行バスで約7時間(約30万VND=約1,800円)、ハザン市から車で約2.5時間 |
| 宿泊 | ホームステイ50軒以上(20〜40万VND/泊=約1,200〜2,400円) |
| ベストシーズン | 9〜11月(蕎麦の花の季節)、3〜5月(棚田の水張り期) |
| UNWTO認定 | Best Tourism Village 2025(2025年10月17日、杭州にて発表) |
| 注意事項 | 2026年新安全規制あり(バイク免許要確認)、冬季は0℃近くまで低下 |
ロロチャイ村のUNWTO「世界最優秀観光村」受賞は、ベトナム観光の地図を書き換える出来事だ。5つの航空会社がハノイおよび周辺空港への増便で反応した事実は、この辺境の集落が国際的な観光目的地として認知され始めたことの証左である。青銅太鼓の実演、土壁家屋でのホームステイ、朝4時のルンクー旗台日の出ハイキング。ロロ族の文化を「体験」として提供するロロチャイは、ホーチミンのNoọng Ơiのようなコンセプトカフェとは対極にある「本物の少数民族文化体験」だ。ハノイから7時間かけてでも訪れる価値がある、ベトナム最後の秘境が世界に開かれ始めた。