92歳のフエ宮廷料理人が空に運ぶ、蓮づくしの機内食

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ベトナム航空のビジネスクラスで、2026年の蓮の季節に合わせた特別メニュー「Chạm Sen(チャム・セン=蓮にふれる)」が提供されています。サラダから汁物、主菜、お茶まで、すべてに蓮を使った構成を監修したのは、1934年にフエで生まれた92歳の宮廷料理研究家マイ・ティ・チャー(Mai Thị Trà)さん。グエン王朝の宮廷料理と精進料理を半世紀以上にわたって記録してきた人物です。なぜ蓮なのか、なぜフエなのか。そして、この機内食で出会った味を、実際にベトナムを旅したときにどこで体験できるのか。旅行者の視点で掘り下げます。

目次

ベトナム航空が蓮づくしの機内食を空に上げた

ベトナム航空が2026年に展開する「Chạm Sen」は、機内食だけの企画ではありません。ビジネスクラスの蓮メニューを軸に、蓮をテーマにしたドリンク、空港ラウンジ(蓮ラウンジ)に設けた「Chạm Sen」のアートスペース、機内に漂わせる香り「Nhã(ニャー)」までを束ねた、蓮を共通言語にした文化プログラムとして打ち出されています。

機内食のラインナップは、ハノイ・タイ湖(西湖)の蓮の蕾を使ったサラダ、豚スペアリブと蓮根のスープ、もち米と蓮の実で包んだ鶏もも肉、そして締めの蓮茶。蓮の実、蕾、根(蓮根)、芯まで、植物のほぼ全部位を一皿ずつに散りばめた献立になっています。監修したチャーさんは、この取り組みを「料理という言葉で遺産の物語を語り直す大胆な一歩」と表現しています。

監修者は宮廷料理を生きた記録として伝えてきた人

マイ・ティ・チャーさんは、グエン王朝のドゥイタン帝の妃の血を引く家系に生まれ、フエ師範大学を卒業後、ドンカイン女学校などで国語と家政(料理を含む生活技術)を教えてきた元教師です。料理は学校で習ったのではなく、家庭の中で見て覚えた家伝の技。その手の記憶を文字に残すため、ベトナム語とフランス語の二言語で『Vegetariens à la mode de Huế(フエ風の精進料理)』を、さらに『フエ宮廷の精進料理』をまとめています。2026年初頭にはベトナム食文化協会から「ベトナム食文化国家匠(National Artisan)」の称号も受けています。

チャーさんが語るフエ料理の核は「どれか一つの味を突出させず、酸・辛・塩・甘を細やかに調和させる」という考え方です。蓮はその思想を体現する食材で、ほのかな苦味のある芯から、ほっくりした蓮の実、しゃきしゃきの蓮根まで、一株の中に複数の食感と香りを抱えています。機内という限られた厨房で複雑な味の層を再現するのに、蓮ほど都合のいい題材は少ないわけです。

なぜ機内食に「蓮」を選んだのか

蓮がフライト向きである理由は、文化的な象徴性だけではありません。蓮の実・蓮根・蓮芯といった部位は、葉物野菜に比べて時間が経っても傷みにくく、調理後も食感と風味を保ちやすい。長時間のフライトで品質を一定に保たなければならない機内食にとって、これは実利的な強みです。象徴としての蓮(ベトナムの国花であり仏教文化と結びつく花)と、保存性という現実の都合が、たまたまきれいに重なっている点が興味深いところです。

蓮の部位 メニューでの使われ方 味・食感の特徴
蓮の蕾 タイ湖の蓮蕾サラダ 清涼感のある香り、やわらかな歯ざわり
蓮根 豚スペアリブのスープ しゃきしゃきとほくほくの中間
蓮の実 鶏もも肉のもち米包み ほっくり、ほのかな甘み
蓮芯・蓮花 蓮茶・ドリンク 軽い苦味と花の香り

現地・業界の受け止め

ベトナムの航空・観光関係者の間では、この企画を「到着前に物語が始まる体験」として評価する声が出ています。機内で蓮料理にふれ、香りをかぎ、ラウンジでアートを見る——その一連が、ベトナムという目的地への期待を空の上で前倒しで作る、という見立てです。

海外在住のベトナム人(越僑)にとっては、別の意味を持ちます。チャーさん自身、この献立は「外国の乗客にベトナム文化を紹介すると同時に、帰国する同胞に故郷の記憶を呼び起こす」二重の役割を担うと述べています。蓮の実のお粥や蓮茶は、多くのベトナム人にとって祖母や母の台所の味であり、機内食という業務的な場面にそれを持ち込むこと自体が、感情に訴える仕掛けになっています。

料理研究の現場からは、92歳の現役監修者が関わったこと自体に重みがあるという受け止めもあります。レシピを若い世代やシェフへ口伝で渡し続けてきた人が、量産・標準化が前提の機内食という舞台にどう関わるか。伝統の継承と商業オペレーションの折り合いを実演した事例として注目されています。

日本の旅行者・食文化好きへの示唆

このニュースの面白さは、ベトナム航空を使わない人にも開かれている点にあります。機内食はあくまで入口で、本体は「フエの宮廷料理と蓮料理」という、現地で体験できる文化資源だからです。日本からベトナム中部へ旅するなら、機内で食べた蓮料理の正体を、本場フエで答え合わせするという楽しみ方ができます。

古都フエは「ベトナムの京都」とも呼ばれ、グエン王朝の王宮や帝廟が世界遺産として残ります。宮廷料理を再現したレストランも市内に複数あり、蓮の葉で包んで蒸した蓮の実ごはん「コム・セン」は定番の一品。機内食で出会う前菜やスープが、もともとどんな食文化から生まれたのかを、器・盛り付け・歴史の文脈ごと味わえます。古都フエの歩き方はフエ王宮の見どころをまとめた記事が参考になります。

蓮そのものを主役にした旅の体験を探すなら、フエの蓮池で開かれる夜の公演を紹介した記事も合わせて読むと、フエと蓮の結びつきの深さが見えてきます。蓮は南部の機内食メニューにも北部の文化にも登場する横断的なモチーフで、ハノイ側の楽しみ方はハノイの蓮まつりの記事でも触れています。

食を入口にしたベトナム観光の流れ

航空会社が郷土の食を前面に出すのは、ベトナム観光全体の方向性とも噛み合っています。世界遺産の街並みや海沿いリゾートに加えて、「土地の食を体験する」ことを旅の主目的に据える層が増えており、機内食はその入口として機能します。フエの宮廷料理、北部の蓮文化、各地のローカルグルメをつなぐと、ベトナムは「食で縦断する国」として楽しめます。

実用情報・関連リンク

フエへは、ダナン国際空港から車で約2〜3時間。ダナン発の日帰りツアーで王宮・帝廟・ティエンムー寺と宮廷料理を組み合わせる行程が一般的です。フエ単独で滞在し、王宮見学のあとに宮廷料理レストランで蓮料理を味わう半日プランも組みやすいエリアです。蓮の季節(おおむね初夏)に合わせて旅程を組むと、生の蓮を使った料理や蓮茶に出会いやすくなります。

まとめ

92歳の宮廷料理人が監修した蓮づくしの機内食は、ベトナム航空のビジネスクラスに乗らない人にとっても、フエという目的地への招待状になっています。次にベトナム中部を旅する予定があるなら、ダナンからフエへ足を延ばし、王宮を見たあとに宮廷料理レストランで蓮の実ごはんやスープを注文してみてください。機内食で味わう一皿の背後に、半世紀かけて記録されてきた古都の食文化が広がっていることに気づくはずです。蓮の季節に旅程を合わせるのが、いちばん贅沢な答え合わせになります。

参照元

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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