ベトナムで仕事を探す人を狙った甘い勧誘や嘘の求人に、行政罰の網がかかった。2026年9月10日、労働・社会保険などの違反への罰則を定めた政令283/2026/NĐ-CPが施行され、労働者を騙して集める行為に5,000万〜7,500万ドン(1円=約170ドン換算で約29万〜44万円、2026年9月時点)の罰金が科されることになった。現地採用で働く日本人、副業やアルバイトで求人サイトを眺める在住者、家族の就労を考える人にとって、怪しい話を見極めるための後ろ盾になる制度変更だ。何が罰せられ、被害に遭わないために何を確認すべきかを整理する。
甘い言葉で労働者を集める行為に罰金、政令283号の対象
政令283/2026/NĐ-CPは2026年7月15日に公布され、9月10日から効力を持つ。罰金の対象になるのは、誘い込み・そそのかし・実現しない約束・誇大な広告といった手口で労働者を騙す行為や、搾取や強制労働を目的に人を募集する行為だ。ベトナム政府の電子新聞バオチンフー(baochinhphu.vn)によれば、刑事責任を問うほど重くない範囲の違反に、5,000万〜7,500万ドンの罰金が定められた。求人票の文言や応募者への約束を、企業や仲介業者が管理せざるを得なくなる内容になっている。
罰金は最大7500万ドン、旧政令からどう位置づけが変わったか
この政令は、従来の労働分野の罰則を定めていた政令12/2022/NĐ-CPを置き換える。金額や対象を新しい労働市場の実態に合わせて組み直したもので、虚偽求人への罰則はその一部だ。金額の目安を円に換算しておくと、制度の重さがつかみやすい。
| Item | Details |
|---|---|
| Fine amount | 5,000万〜7,500万ドン(約29万〜44万円) |
| 対象行為 | 誘い込み・虚偽の約束・誇大広告など労働者を騙す手口、搾取・強制労働目的の募集 |
| 根拠法令 | 政令283/2026/NĐ-CP(2026年7月15日公布) |
| Effective date | 2026年9月10日 |
| 置き換え対象 | 政令12/2022/NĐ-CP |
円換算は1円=約170ドン(2026年9月時点)で計算した参考値で、為替の変動で前後する。
なぜ今、求人の嘘に行政罰を設けたのか
ベトナムでは、SNSやメッセージアプリを通じた高収入をうたう求人、海外派遣を装った勧誘、登録料や保証金を先に取る手口などが、労働者を巻き込むトラブルの温床になってきた。刑事事件になるほど悪質でなくても、応募者が時間や前払い金を失うケースは後を絶たない。行政罰を明文化することで、刑事罰の一歩手前にある「嘘の求人」を取り締まる根拠ができた。デジタル身分証の普及で本人確認が進む流れとも重なり、外国人向けのVNeID対応 など、就労まわりの制度が短期間で更新されている。
この罰則をどう読むか、押さえておきたい論点
政令283号の罰則は、評価の分かれる論点をいくつも含む。まず、悪質な仲介業者に金銭的な痛みを与えられる点は、労働者保護の前進として意味を持つ。ただし罰金は違反した企業や仲介者に科されるもので、騙された応募者に前払い金が戻る仕組みではない。制度があっても失った金銭の回復までは保証されないと理解しておきたい。もう一つ見落とせないのが、正規の企業でも求人広告の表現しだいで違反と見なされうる点だ。採用担当は待遇や条件の書き方を、これまで以上に慎重に管理することになる。取り締まりが実際に効くかどうかは、通報の受け皿と運用の積み重ねに左右される。
在住者が求人・副業でだまされないために
罰金の存在は、被害に遭う前の自衛を軽くしてくれるものではない。行政罰は違反者を罰する仕組みで、失った金銭の回復を保証しない。だからこそ、応募前の確認が実利になる。登録料・保証金・研修費といった名目で先にお金を求める求人は距離を置く。会社の正式名称と所在地、事業登録の有無を照らし合わせる。給与や待遇の約束は口頭ではなく書面で残す。銀行手数料のように 見えにくいコスト が後から積み上がる話と同じで、うまい条件ほど内訳を分解して確かめたい。就労に関わる公的手続きは、身分証や届出の制度更新 と同様に、正規の窓口を通すのが遠回りに見えて安全だ。
企業のSNS勧誘や誇大求人も罰金の射程に入る
影響は個人だけにとどまらない。ベトナムで採用活動をする企業や、日本からベトナム人材を紹介する事業者にとって、求人広告のうたい文句が行政罰の射程に入る。実現できない待遇を「盛って」書くこと、曖昧な高収入を強調して応募を集めることは、違反と判断されるリスクを負う。人材紹介やアウトソーシングを使う日本企業も、委託先の求人表現まで目を配る必要が出てくる。健全な仲介業者ほど、契約前の条件明示や書面化を徹底する方向に動くと見られる。
怪しい求人を見分けるチェックリスト
応募前に立ち止まって確認したい点をまとめておく。
- 登録料・保証金・研修費を採用前に請求する求人は避ける
- 会社の正式名称・所在地・事業登録を公開情報と突き合わせる
- 給与や勤務条件の約束は口頭で済ませず書面で受け取る
- 海外派遣をうたう勧誘は、派遣事業の許可の有無を確認する
- 被害に遭ったら罰金頼みにせず、労働当局や警察の相談窓口に早めに連絡する
次に求人を見るとき、内訳をひとつ確かめる
政令283号は、嘘の求人に金銭的な罰を用意した点で、労働者側の交渉材料を一つ増やした。ただし守ってくれるのは制度の存在ではなく、応募前のひと手間だ。次にベトナムで求人や副業の話に触れたら、前払い金の有無と会社の実在を必ず確かめる。条件が良すぎると感じたら、書面で内訳を求める。罰金の額を覚えておくより、この二つの習慣のほうが自分を守る。制度は運用が始まったばかりで、通報や相談の実例が積み上がるほど抑止力は効いてくる。
