ベトナムで暮らす外国人が、パスポートの原本や在留書類のコピーを何枚も窓口に差し出す——その手間が過去のものになる方向へ、政府が舵を切り始めた。VnExpressが2026年8月12日に報じたところによると、eビザ、電子身分証VNeID、銀行取引、賃貸、居住申告、納税までを一つの電子IDでつなぐ「切れ目のないデジタル環境」の整備が進んでいる。長期滞在する日本人にとっても、日々の手続きがどれだけ軽くなるかを左右する話だ。
この記事は、ベトナムに腰を据えて暮らす在住者・駐在員に向けて、いま何が変わりつつあり、明日から何を準備しておくべきかを整理する。
eビザとVNeIDを一本の線でつなぐ構想
報道の核は、外国人が使う行政・生活サービスを「単一の電子ID」で横断できるようにする点にある。ベトナム側はすでにVNeIDのレベル2(本人確認済みの上位区分)を外国人にも開放し、アプリの累計有効化アカウントは7,100万を超えた。国民向けに整えてきた基盤を、外国人にも段階的に広げる流れだ。
ただし現状は入り口に立った段階で、報道はVNeID上に外国人向けの表示が「基本情報にとどまり、まだ十分に統合されていない」と率直に認めている。納税・銀行・居住・出入国・運転免許といった各サービスとの連結は、これから詰めていく課題として残る。
いま外国人手続きが面倒な理由
そもそもベトナムの外国人手続きは、同じ本人情報を何度も別々の窓口に渡す構造だった。入国したら大家を通じて一時滞在(tam tru)を申告し、銀行口座はパスポートとビザ、場合によっては労働許可証をそろえて開設する。しかも銀行側は口座を止めないための顔認証・生体認証の登録を在住者に求めており、書類とアプリ操作が二重に発生していた。賃貸契約でも大家が借主の在留情報を公安に届け出る必要があり、引っ越すたびに申告をやり直す。役所と銀行と大家がそれぞれ本人確認を求めるので、同じパスポートを年に何度もコピーする羽目になっていた。
この分断が、単一IDでの本人確認に置き換われば、口座開設や賃貸契約のたびに書類束を作り直す負担は理屈のうえで減る。パスポートを常に持ち歩き、コピーを配って回る日常から距離を置けるかどうか——そこが今回の構想の勘どころだ。銀行の生体認証まわりは顔認証しないと口座が止まる在住者の生体認証チェックで先に押さえておきたい。
VNeIDレベル2で完結できること・できないこと
方向性としては、レベル2の電子IDが手元にあれば、本人確認を要する場面をアプリ内で片づけられる設計を目指している。入管手続きはすでにVNeIDへの寄せ集約が進み、居住申告の窓口もオンラインの新ポータルへ移り始めた。一時滞在申告の移管はForeigners' temporary-residence declarations consolidated onto a new site: where residents get stuckに詳しい。
一方で、銀行・納税・免許との自動連携はまだ実装途上だ。VNeIDに情報が載っていても、各サービス側が読み取って処理できるとは限らない。「電子IDを持っていれば全部つながる」段階には達していない、という前提で構えるのが安全だ。入管一本化の全体像はVietnam's immigration procedures consolidate into VNeID from June: what expats and companies should doを参照してほしい。
移行期の落とし穴、正直な限界
便利になる方向だとしても、移行期の混乱は避けにくい。報道が具体的に挙げるのは言語の壁で、個人所得税を確認するeTaxの画面は「現状ベトナム語のみ」だという。英語や日本語での案内が追いつかず、非ベトナム語話者には操作の難所が残る。
- 多言語対応が未整備——eTaxをはじめ、外国人が使う画面の英語化・日本語化は途上
- サービス同士が別々に動き、同じ情報を各機関に何度も入力し直す場面が残る
- データ連結が完了しておらず、VNeID上の外国人情報は基本項目にとどまる
- 制度が動くたびに運用が変わり、窓口ごとに扱いが割れる過渡期が続く
つまり「一本化」は完成形ではなく進行形で、当面はアプリと紙・窓口が併存する。ここを見誤ると、必要書類を捨ててしまって再取得に走る事態になりかねない。
在住日本人が今から準備できること
- VNeIDのレベル2をまず取得し、入管・パスポート情報が正しく登録されているか確認する
- 取引銀行の顔認証・生体認証の登録を先に済ませ、口座が凍結される事態を避ける
- 一時滞在(tam tru)の申告が新ポータルに移った点を大家や管理会社と共有しておく
- eTaxはベトナム語UIのみのため、税番号(MST)の確認や申告は当面ベトナム語対応者か勤務先経由で進める
- 統合が完了するまでは、パスポート原本・ビザ・労働許可証の携行とコピー保管を続ける
デジタル一本化は在住者にとって追い風だが、恩恵を受けるのは「先に登録を済ませた人」から順になる。制度の完成を待つより、VNeIDと銀行認証を今のうちに整えておくほうが、移行期の取りこぼしを防げる。次に大きな手続きが必要になったとき、アプリで済むか窓口が要るかを一度確かめておきたい。
