ベトナム中部フォンニャ・ケバン国立公園のハンオーバー洞窟(Hang Over)で、地下に「棚田」が現れている。VietNamNetが10月13日朝6時に配信したもので、写真は同洞窟のツアーを運営するジャングルボスが提供した。棚田に見えるのはカルサイト(方解石)が長い時間をかけて作った段々の縁で、そこに水がたまると暗い洞内で翠色に光る。ただし一年中見られるものではない。乾季と夏場には水が抜け、石の畝だけが露出する。水が戻るのは強い雨が何日も続いたあとだけで、短い雨では足りない。10月から年明けにかけてが、この地下の棚田に水が入っている可能性の高い時期にあたる。
乾季に行くと、水の抜けた白い石の畝しか残っていない
VietNamNetの説明では、この段々は洞内を流れる水に溶けていたミネラルが沈着して縁になり、それが少しずつ育って水をためられる段差になったものだ。満水になると水面が動かず、光を反射して翠色が際立つ。水が抜けた状態では、同じ場所がただの白っぽい石の畝に見える。夏に訪れた人が雨季に再訪して別の洞窟のように感じた、という話も記事に出てくる。
ここで旅行者側が噛み合わなくなる。ジャングルボスの案内は4〜8月を乾季、9〜3月を雨季と区切り、ベストシーズンは4〜5月としている。乾いて涼しく、歩きやすいからだ。つまり公式に薦められる時期と、地下の棚田に水が入る時期は別の基準で動いている。歩きやすさを取るなら4〜5月、棚田の水面を取るなら雨季の後半、と目的で選ぶ月が変わる。どちらが上という話ではなく、同じ料金で見えるものが違う。
水位は抜けるだけでなく上がるのも速い。元記事は天気と水位を確認し、決められたルートから外れないよう念を押している。
ハンオーバーとピグミーは、天井が落ちる前はひとつの洞窟だった
ハンオーバーの長さはVietNamNetが3,200m超、ジャングルボスの英語ページも3.2kmとしており、ここは一致している。ただし同じジャングルボスのベトナム語のツアーページは「ハンオーバーは3.5km」と書いていて、自社の英語ページと0.3kmずれている。歩く長さと洞窟の全長の書き分けがないため、数字を使うなら3,200m超のほうを取るのが無難だ。
この洞窟が単独で存在しているわけではない点が面白い。ジャングルボスの解説によれば、ハンオーバーと隣のハンピグミーはもともと一本の洞窟で、天井が崩落して二つに分かれた。崩れた瓦礫の上にはいま森が育っている。ピグミーは世界4位の規模として紹介される洞窟で、ハンオーバーはその「切り離された側」にあたる。
VietNamNetはハンオーバーをVòm(ヴォム)洞窟系の一部としている。英国の洞窟専門家と国立公園側がこれまでに特定した主な洞窟地帯は7か所で、そのうち大きな系統はフォンニャ系・Vòm系・ヌオックモック系の3つ。公園全体で記録された洞窟は472、測量された長さの合計は254kmを超える。最大のソンドン洞窟が同じ英国の協会に調査されたのは2009年4月22日のことだ。3.2kmという数字は、その広い水系のごく一部を歩いているにすぎない。棚田の水位が雨に左右されるのは、洞窟が独立した空洞ではなく、山全体の水の通り道の一区間だからだ。
フォンニャ・ケバンは2025年7月1日からクアンチ省、日本語の記事はまだクアンビン省のまま
元記事の見出しが「クアンチ省」になっている点に、日本語情報とのずれが隠れている。2025年7月1日、クアンビン省とクアンチ省が統合されて新しいクアンチ省が発足した。ベトナム観光総局系のサイトもこの日付を明記している。フォンニャ・ケバン国立公園は長くクアンビン省の看板だったが、同じ日から管理はクアンチ省側に移っている。
一方、日本語で書かれたガイド記事や旅行会社のページの多くは、いまも所在地を「クアンビン省」と書いている。間違いというより更新が追いついていない状態で、省名で検索すると新しい情報が出てこない。フォンニャ、ドンホイ、ドンホイ空港といった地名・空港名は変わっていないので、現地での移動で困ることはない。ただし行政手続きや公式発表を追うときは、新旧両方の省名で当たったほうが早い。クアンチ省側の内陸がどんな土地かは、クアンチ省を250km西に貫く道の話が感覚をつかみやすい。
790万ドンの2日1泊は月水金日発で、雨の読みと出発日が噛み合わない週がある
ジャングルボスの公式サイトでは、ハンオーバーを抜けてピグミー洞窟で1泊する2日1泊のツアーが1人790万ドン。1万ドン=約61円(2026年10月13日の実勢)で換算すると約4万8千円になる。定員30人、参加は15歳以上、出発は月・水・金・日の週4日。朝8時ごろに宿で拾われ、幹線のKm24地点から歩き始める。料金にはバイリンガルガイド、セーフティアシスタント、現地ポーター、安全装備、食事と飲み物、タオルとブーツの貸し出し、PVIの旅行保険、フォンニャ地区内の送迎が含まれる。ガイドやポーターへのチップ、フォンニャ地区外の移動は別勘定だ。ピグミー洞窟ではロープで約10m下りて洞床に立ち、入口付近で野営する。
出発が週4日しかない、という点が棚田狙いの旅程に効いてくる。「大雨が何日も続いた直後」を当てたいなら、日本で日程を固めて買う買い方は相性が悪い。ドンホイの宿を先に数泊押さえ、雨の降り方を見てから現地でツアー日を確定する組み方のほうが当たる確率が上がる。日程を動かす前提で動くなら、列車の払い戻しが30%に引き上げられた条件のような、キャンセル規定の側も先に調べておく価値がある。
逆に雨が多すぎれば中止や行程変更もある。ジャングルボスはこのコースを高地扱いで、小雨では行程が変わらないとしている。雨季の中部がどういう季節かは、ドラム缶で家ごと浮くタンホア村が雨と台風の前に点検を始めた話が具体的だ。水が入るほど絵になる洞窟と、水が多すぎれば行けない洞窟は、同じ雨の話である。
2026年3〜4月の英国隊は29の洞窟を測量し、うち26は新発見だった
フォンニャ・ケバンでは測量そのものがまだ続いている。英国洞窟研究協会の専門家10人が、ハワード・リンバート博士を団長として2026年3月21日から4月11日まで調査にあたり、29の洞窟を測った。内訳は新発見26と、既知3洞窟の延伸部分。測量延長の合計は13,643mで、最長はティエンクン洞の4,206m、ヌオックラン洞が2,721m、マーゾム洞が1,257m。リンバート博士は、中まで調べ切れていない洞窟がまだあると話している。たとえば583mのハンチャーギェオは、入口まで森の中を1日半歩く必要があり、洞内には約350mの縦穴に落ちる滝があって、底まで下りられたのは2人だけだという。26洞窟のうちどれを観光に回せるかは、洞内のルート設定と危険評価、立ち入り禁止区域の線引きを済ませたあとだ、というのが専門家側の説明である。
公開される洞窟が増えれば選択肢は広がるが、ハンオーバーのように条件が揃った時だけ見えるものは、むしろ日程設計の難しさとセットで残る。しかもカルサイトの縁は一度踏むと戻らない。元記事も、一歩や一度の接触で壊れてしまうため縁に乗らないよう繰り返している。水が入って足元が見えにくい時期ほど、ガイドの引いた線から外れない意味が大きくなる。
同じカルサイトの池は、VietNamNetによればハンホー、ハンフントーン、ハンタンにもある。ハンオーバーが唯一ではないので、雨の当たり年にドンホイへ入れたなら、ツアー会社に「いま水が入っている洞窟はどこか」を訊く余地がある。見たいのは洞窟の名前ではなく、水をためた段々のほうだ。
参照元
- VietNamNet「Ngắm ‘ruộng bậc thang’ xanh ngọc kỳ ảo dưới lòng đất ở Quảng Trị」(2026年10月13日)
- Jungle Boss Tours「Khám phá hang Pygmy 2 ngày 1 đêm」(料金・行程・出発日)
- Jungle Boss Tours「Top 10 caves in Phong Nha」(ハンオーバー3.2km・ピグミーとの分離)
- Nhân Dân「Bí ẩn hang động mới Phong Nha – Kẻ Bàng」(2026年の調査結果)
- Vietnam Tourism「Quang Tri Province (New)」(2025年7月1日の省統合)


