ベトナムの新しい政令をめぐって「8月1日から免税手続きの紙がいらなくなる」という要約が日本語圏にも流れている。原文にあたると、日付も対象もずれていた。紙の提示が省けるのは空港の免税店で買い物をするときで、施行は8月21日。出国時に付加価値税(VAT)が戻ってくる還付制度の電子化は、それとは別の法令で7月1日にすでに動き出している。ベトナムで買い物をして帰る予定があるなら、この2つを分けて把握しておくと空港で迷わない。
「紙が不要」の正体は、免税店カウンターの本人確認
話の出どころは政令273/2026/NĐ-CP(Nghị định 273/2026/NĐ-CP)。正式には「免税品販売業に関する政令」で、2026年7月7日付、施行は8月21日。現行の政令100/2020号を置き換える。紙に関する規定は第5条にあり、免税品購入者の個人情報が国家人口データベース、その他の国家データベース、あるいは専門データベースから照会できる場合、デジタル化済みの書類について紙の原本提示を求めない、と定めている。免税店のレジでパスポートと搭乗券を出す、あの動作が減るという話であって、VATが戻る金額や条件とは関係がない。
ただし国家人口データベースはベトナム国民の情報基盤だ。外国人のパスポート情報が同じ手軽さで参照できるかについて、政令は「その他の国家データベースまたは専門データベース」と書くにとどまり、外国人旅行者にいつから効くかまでは踏み込んでいない。施行時の運用は各空港の免税店の案内で確認したい。
同じ政令には旅行者に直接効く規定も入った。免税店で売られるタバコ・葉巻・酒・ビールには、財務省が発行する「VIET NAM DUTY NOT PAID」のスタンプ貼付が義務づけられる。入国側の買い物は、入国手続きを終えた直後の制限エリア内の店に限られ、制限エリアを出たあとは買えない。数量は、出国者は制限なし(渡航先の規定には従う)、入国者は政令134/2016号の免税枠に従い、20度以上の酒1.5L、20度未満2L、ビール3L、紙巻きタバコ200本、葉巻20本、パイプたばこ250g、その他の物品は関税評価額1,000万ドン(約6万2,000円、1円=約162VND換算・2026年7月時点)までとなる。
VAT還付の電子化は7月1日にもう始まっていた
旅行者の財布に効くのはこちらだ。財務省の通達84/2026/TT-BTCが7月1日から適用され、旧通達72/2014号と92/2019号を置き換えた。根拠は2026年6月30日付の政令252/2026号にある。
中身は還付の背骨をまるごと電子に載せる設計になっている。税関総局がVAT還付管理システムを構築・運用し、税関、税務当局、商業銀行、還付対象店舗を1本のシステムでつなぐ。税務当局の電子インボイスシステムとも接続し、「請求書兼還付申告書」を自動で突合する。店舗側はシステムに情報を入力して電子署名し、税関にデータを送ったうえで紙を印刷して客に渡す。紙の請求書が認められるのはシステム障害時だけで、復旧後にデータを登録し直す義務がある。ベトナムで車検が紙不要になった動き(車検が紙不要に──7月からVNeIDで完結するベトナムの新ルール)や、入管手続きのVNeID一本化(ベトナム入管手続きが6月からVNeIDに一本化、駐在員と会社の対応は)と同じ方向にある。
財務省は決定1767/QĐ-BTCで手続きの棚卸しもした。手続きコード1.008566は「新しい管理モデルに合わない」として廃止、還付対象店舗の登録・変更・終了に関する手続き(1.008567)は権限の所在を明確にして全面改訂された。
変わったのは手続き、変わらないのは金額条件
| 項目 | 2026年6月まで | 2026年7月以降 |
|---|---|---|
| 最低購入額 | 1店舗・1日あたり200万ドン | 据え置き |
| 請求書の有効期間 | 出国日から遡って60日以内 | 据え置き |
| 還付率 | VAT総額の85% | 据え置き |
| 代行手数料 | VAT総額の15%(代行銀行の取り分) | 据え置き |
| 支払通貨 | ベトナムドン建て | 据え置き |
| 書類の扱い | 紙の請求書兼還付申告書が主 | 電子システムに登録、税関は画面で照合 |
| 店舗の参加登録 | 旧通達に基づく登録 | 電子システム参加を条件に税務当局が7営業日で審査 |
200万ドンは約1万2,300円。日本の免税ラインと比べて低く、土産をまとめ買いすれば届く水準にある。戻るのはVATの85%で、残る15%は還付代行を担う商業銀行の手数料として差し引かれる。ここは通達が変わっても動いていない。
現地では「全面デジタル化」と「権限委譲」で語られている
政府系のBáo Chính phủ(政府新聞)は7月8日付で通達84号の枠組みを報じ、税関・税務・銀行・小売をつなぐ還付管理システムの新設を制度の核として説明している。
財政・税務系の専門誌Tạp chí Kinh tế – Tài chínhは、今回の改正を「số hóa toàn diện(全面的なデジタル化)」「phân cấp triệt để(徹底した権限委譲)」という2語で整理した。同誌によれば、電子システムから直接印刷された請求書は電子版と同等の法的効力を持ち、書類偽造のリスクが下がる。空港・港での承認判断は最長30日という期限も定められた。
法律実務メディアのLuatVietnamとBáo Pháp luật Việt Namは、旅行者側の義務として「出発の30分前まで」に請求書を提出し商品を提示する必要がある点を繰り返し取り上げている。制度が電子化されても、この時間の壁だけは自分で管理するしかない。
日本の旅行者が損をしないための3つの分岐点
第1に、有効期間の数字が資料によって食い違う。ベトナムの法令解説は一貫して出国日から遡って60日以内の請求書としているが、日本語の旅行ガイドには「30日以内」と書いたまま更新されていないものが残っている。2週間の旅行なら差は出ないが、駐在の一時帰国や長期滞在では判断が割れる。迷ったら短いほうに寄せて動くのが安全だ。
第2に、空港での動線が2段構えになっている。商品の検査と請求書の確認は荷物を預ける前のカウンターで、還付金の受け取りは出国審査を通ったあとの制限エリア。順番を間違えてスーツケースに土産を入れて預けてしまうと、商品を提示できず還付が成立しない。免税店の袋を最後まで開けないこと、対象品を機内持ち込みにまとめることの2つで大半のつまずきは防げる。到着遅延で時間が削られる可能性も踏まえたい(遅延4時間で全額返金、越の新ルールで出張者が取り戻せるお金)。
第3に、この改正は日本の免税制度改正と鏡合わせになっている。日本では2026年11月1日から「リファンド方式」が始まり、店頭で税込価格を支払い、出国時に税関が持ち出しを確認したあとに消費税相当額が返金される形へ移る。一般物品と消耗品の区分も撤廃される。ベトナムがすでに採ってきた「買うときは払い、出国時に戻す」という考え方に、日本があとから合流する構図だ。ベトナムで還付カウンターを一度通っておけば、秋以降の日本の新方式にも身体が慣れる。
小売と観光産業には、参加店を増やす圧力がかかる
還付が受けられるのは税務当局に登録した店舗の請求書に限られる。つまり制度の使い勝手は、参加店がどれだけ増えるかで決まる。通達84号は参加の入口を、電子システムへの接続を約束できるかどうかに置き換えた。会計・請求書の要件を満たし、控除方式でVATを申告している事業者であれば、書類が揃ってから7営業日で認定される。紙の管理コストが消える一方、システム接続という新しい負担が生まれるため、小規模な土産物店にとってはハードルの位置が変わっただけとも読める。
空港側の事情も動く。12月1日に開業予定のロンタイン空港(巨大空港ロンタイン12/1開業、SGNとどう使い分ける?)が国際線を引き受けていけば、還付カウンターと免税店の配置は前提から組み直しになる。電子システムが先に立ち上がっているぶん、新空港での立ち上げは旧来より速く進む可能性が高い。
出国前に確認する項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 外国人および在外ベトナム人(航空乗務員・船員を除く) |
| 最低購入額 | 1店舗・1日あたり200万ドン(約1万2,300円)以上 |
| 請求書の有効期間 | 出国日から遡って60日以内 |
| 還付率 | VAT総額の85%(残り15%は代行銀行の手数料) |
| 支払通貨 | ベトナムドン建て |
| 対象空港 | ノイバイ、タンソンニャット、ダナン、カムラン、フーコック(5空港) |
| 対象港 | カインホイ、ダナン、ニャチャン(3港) |
| 商品検査の場所 | 荷物を預ける前のチェックイン/搭乗券確認エリア |
| 還付金の受取場所 | 出国審査後の制限エリア(港は指定の還付エリア) |
| 提出の締切 | 航空機・船舶の出発30分前まで |
| 必要書類 | パスポート、請求書兼還付申告書、搭乗券、対象商品の現物 |
| 免税店の新ルール施行日 | 2026年8月21日(政令273/2026号) |
還付を受けられる出入国地点は空港5か所と港3か所の計8か所で、運用リストは税関当局が管理しており増減がありうる。搭乗する空港の還付カウンターの位置と営業時間は、出発前に空港の公式案内で当たっておきたい。
まとめ
整理すると、8月21日に施行されるのは免税店の販売ルール(政令273号)で、そこでの紙の提示が省ける。VAT還付の電子化はすでに7月1日から動いており(通達84号)、200万ドン・60日・85%という旅行者側の条件そのものは動いていない。「8月1日から」という日付も、「還付の紙がなくなる」という理解も、原文とはずれている。
次の渡航でやることは3つに絞れる。買い物のたびにレシートではなく「請求書兼還付申告書」を出してもらうこと、対象品をスーツケースではなく手荷物にまとめること、そして空港には出発2時間半前を目安に入ること。この3つを守れば、電子化された還付カウンターは以前より短時間で抜けられる。制度が変わった直後の数か月は運用が固まりきらないため、当日は空港の案内表示を優先して動きたい。
参照元:LuatVietnam/Báo Chính phủ/LuatVietnam(還付条件)/Tạp chí Kinh tế – Tài chính/Thuế – Hải quan/Báo Pháp luật Việt Nam/LuatVietnam English/観光庁 消費税免税店サイト
