小舟300隻でも2時間待ち、メコンのトイソン島が急に混んだ理由

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ホーチミン市から車で2時間足らずのメコンの中州で、小舟に乗るために2時間並ぶ列ができている。舞台はドンタップ省トイソンのコン・トイソン。木の小舟「スオン・バーラー」に乗って細い水路を抜ける体験が、中国のKOLによるDouyin投稿をきっかけに火がつき、約300隻が休みなく動いても週末は1〜2時間待ちになったとDân tríが7月21日に伝えた。7月下旬には歌手のHari Wonも訪れて同じ体験を撮り、その様子を映した動画は100万回を超えて再生された。日帰りで往復できるため日本人旅行者の行程にも組み込みやすい場所だが、行く曜日と時間帯、料金の相場を知っているかどうかで同じ1日の中身がまったく変わる。

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写真1枚から、300隻でも足りない船着場へ

火がついたのは2026年6月だった。中国人旅行者がこの中州で撮った写真がDouyinで広く出回り、それがベトナム国内の若年層にも逆流してきたとDân tríは伝えている。同紙の取材に応じたガイド歴4年のタン・ドゥックさん(24歳)は「以前の客は見て回って帰るだけだった。ここ半月は、アオザイやアオババを着て写真を撮ることを目的に来る若い人が多い」と話す。Znewsの7月18日の現地取材では、朝9時ごろから客が途切れずに到着し、11時から13時のあいだは各桟橋がほぼ動かなくなったと記録されている。

そのタン・ドゥックさんは、週末の詰まり方を「週末は平日よりずっと混む。1時間待ってようやく舟が回ってくることもある」と説明している。乗船区間は約2キロ、所要は12〜17分。1隻あたりの定員は、Dân tríが2〜3人、ZnewsとVnExpressが3〜4人と伝えており、媒体によって幅がある。いずれにせよ、撮影のために間隔を空けて座らせる運用が定着しているため、隻数のわりに回転が上がらない構造になっている。

島の住所が変わった年に、客層も入れ替わった

ここで日本語の情報を検索するときに引っかかるのが、地名の食い違いだ。コン・トイソンは長らく「ティエンザン省ミトー市トイソン」として紹介されてきたが、2025年の省再編でティエンザン省はドンタップ省に統合され、現在の表記はドンタップ省トイソンになっている。旧ガイドブックや個人ブログの住所表記はまだ更新されていないものが多く、日本語で「ミトー」「ティエンザン」と書かれた記事と、ベトナム語で「Đồng Tháp」と書かれた記事が同じ場所を指している。予約サイトで検索するときは、省名ではなく「Thới Sơn」「Mỹ Tho」で当たったほうが早い。

変わったのは住所だけではない。Dân tríとThanh Niênによれば、この島の客層はもともと中高年、家族連れ、外国人ツアー客が中心だった。それがVnExpressの7月15日の記事では、現在は約7割がZ世代の個人客・乗合ツアー客に入れ替わったと報じられている。伝統的な農村体験を売る観光地が、撮影スポットとして再発見された格好だ。目的が「体験」から「1枚の写真」に移ると、滞在時間は短くなるのに桟橋の占有時間は長くなる。ベトナムでは、バズった飲食店が処理能力を超えて臨時休業に追い込まれた例もあり(カップに霊符!?ホーチミンの“修仙カフェ”、バズりすぎて臨時休業した理由)、供給側の設計を変えずに需要だけが跳ねると、体験の質は下から崩れていく。

上半期18万人・約8.1億円、数字で見る過熱の輪郭

行政と現地の報道が公表している数字を並べると、過熱の規模がつかめる。金額は1円=約162ベトナムドン(2026年7月時点)で換算した。

項目 数値 時点・出典
来訪者数 18万人超(前年同期比+12%) 2026年1〜6月/トイソン坊
観光収入 約1,320億ドン(約8.1億円) 2026年1〜6月/同上
7月前半の来訪者 約3万8,000人 VnExpress・7月15日
稼働する小舟 約300隻 Dân trí・7月21日
週末の待ち時間 1〜2時間(従来は15〜20分) Dân trí/VnExpress
乗船区間 約2km・12〜17分 Dân trí
旅行会社への問い合わせ +20〜25% Vietluxtour/Dân trí
同・実際の予約 +10〜15% Vietluxtour/Dân trí

上半期の収入を来訪者数で割ると、1人あたりの落とすお金は約73万ドン、円にして4,500円前後になる。問い合わせが20〜25%伸びたのに実際の予約は10〜15%しか伸びていないという差は、そのまま「見たけれど行かなかった人」の量だ。待ち時間の評判が先回りして、取りこぼしが起きている。

漕ぎ手は1日7〜8便へ、行政は動線の整理に動いた

現場の変化は、漕ぎ手の証言がいちばん端的だ。Znewsの取材に応じた漕ぎ手は「以前は1日1〜2便しか漕がなかったが、今は7〜8便」と語っている。収入が数倍になった一方で、体力の消耗と安全管理の負荷も同じ倍率で増えた計算になる。

地元ガイドのタイン・トゥイさんは「毎日150〜200人を島へ案内している」と話す。1人のガイドがこの人数を桟橋で捌けば、順番待ちの列は自然に長くなる。トイソン坊人民委員会のグエン・ティ・スアン・マイ副委員長はZnewsに対し、コミュニティ観光モデルの試行期間に客の関心が集まったこと自体は前向きな兆候だと述べている。Thanh Niênには「SNS効果で客層が若返り、地元が広報費をあまりかけずにトイソンの名前が広がった」とも語った。

行政側の手当ては、施設と動線の両方に及んでいる。ボーカウ桟橋の改修、バーゴアン水路の花棚、進入路である94C号線の景観整備がすでに完了し、バーゴアン水路の昇降路も工事中だ。動線側では、旅行会社と漕ぎ手組合(Nghiệp đoàn đò chèo)と組んで発着時刻を調整し、小舟・馬車・果樹園の徒歩見学という3つのルートに活動を振り分けて、水路への集中を薄める方針が示されている。観光地には基層の治安維持要員が配置され、混雑時の誘導にあたっている。設備を足しつつ、人の流れをならす順序になっている。

旅行会社側の見方は冷静だ。Vietluxtourでマーケティング・広報を統括するチャン・ティ・バオ・トゥー氏はVnExpressに「SNSは客をとても速く連れてくるが、客をつなぎ留めて目的地に長期的な価値を生むのは、良い体験だけだ」と述べている。バズは入口を広げるが、出口の満足度は現場の処理能力が決める、という整理になる。

2時間待ちを避ける組み方と、「渋滞ごと楽しむ」という選択

ここからが、行く側の設計の話になる。報道されている時間分布を素直に読むと、詰まるのは9時以降に流入が始まり、11時から13時にピークが来るという形だ。運航は8時から16時。つまり始発帯の8時台と、ピークが抜けた14時以降は、同じ場所でも別の体験になる可能性が高い。ホーチミン市を6時台に出れば70〜80km、1時間半から2時間で船着場に着き、船で10〜15分。逆算すると、始発帯に間に合わせるのは現実的な範囲に収まる。

もう一つの手は、日帰りをやめることだ。この島の混雑は週末に集中している。金曜の夜にメコンへ入って泊まり、土曜の朝いちばんで小舟に乗り、午後は別の街へ移る。カントー方面では夜市や早朝の水上市場を1泊で回る組み方が定着していて(カントーで食フェス開催中、夜市と朝の水上市場を1泊で回る)、トイソンをその行程の初日に差し込むと、2時間待ちの時間帯を丸ごと避けられる。

逆に、混雑そのものを織り込んで行く手もある。水路が小舟で埋まる光景は、それ自体が今しか撮れない画だ。ただし、その判断をするなら待ち時間の使い道を先に決めておきたい。小舟の運航はトゥアンタイン地区のバーゴアン水路に最も集中しており、その後ホアビン地区のラック・チエックにも広げられたとトイソン坊は説明している。改修済みのボーカウ桟橋を含め、乗り場は一つではない。最初に着いた場所の列に諦めて並ぶ前に、別の乗り場の状況を確認する余地はある。

トイソンで先に出たのは、入場制限ではなく乗り場の改修と来訪者の分散という運用側の手当てだった。小舟の多くが漕ぎ手組合を通じて動いているため、行政が組合と旅行会社の二者に話を通せば発着の時間配分に手を入れられる。組織がすでにある分、調整の初速が出やすい。

「バズ観光地」の賞味期限と、メコンに残るもの

ベトナムの観光統計を見ると、この現象は単発ではない。2026年上半期の外国人客は1,230万人で前年同期比14.9%増、市場別では中国が最大で、中国と韓国だけで全体の約4割を占める。中国発のSNSが特定の場所を指し示したとき、実際に人が動く規模はすでに大きい。トイソンで起きたことは、その動線が省都でも有名リゾートでもなく、メコンの一つの中州に向いた事例になる。

問題は持続性だ。撮影動機の来訪は、構図が飽きられた瞬間に引く。ただ、トイソンにはもともと養蜂場、果樹園、ココナッツキャンディー工房といった見学要素があり、乗合ツアーは1.5〜2時間の行程として組まれている。小舟だけを目当てに来た客に、この周辺コンテンツをどれだけ体験させられるかが、ブームが引いた後に残る数字を決める。

日本企業の視点で見ると、示唆は二つある。一つは、越境SNSの投稿1本が地方の小さな受け入れ能力を数週間で飽和させるという速度感。ベトナムで観光や飲食に投資するなら、想定需要のピーク倍率をこれまでの前提より高く置く必要がある。もう一つは、供給側の分散設計を最初から商品に織り込むこと。トイソンで先に動いたのは乗り場の改修と来訪者の分散で、目玉を足すより先に受け入れの詰まりを取る順序になっている。投資額を膨らませずに体験の質を守る手としては現実的だ。

行き方・料金・時間帯の一覧

報道で確認できた範囲の実用情報をまとめる。円換算は1円=約162ドンで計算した。予約の要否は公表されていないが、週末は乗合ツアーの空きがなくなると報じられている。

項目 内容
場所 コン・トイソン(ドンタップ省トイソン。2025年の省再編前はティエンザン省ミトー市トイソン)
行き方 ホーチミン市から70〜80km・車で1時間半〜2時間 → ミトーの船着場から船で10〜15分
小舟の単体乗船 10万ドン(約620円)/1便・往復
乗合ツアー 15万〜20万ドン(約930〜1,230円)/人・所要1.5〜2時間
少人数の貸切(1〜3人) 約80万ドン(約4,940円)
ホーチミン発の旅行会社ツアー 約40万ドン(約2,470円)/人・送迎、入場、昼食を含む
現地の飲食 2万〜10万ドン(約120〜620円)
小舟の運航時間 8:00〜16:00(漕ぎ手の説明による)
混雑 9時から流入、11〜13時が最も詰まる。週末は待ち1〜2時間
乗り場 トゥアンタイン地区のバーゴアン水路が中心。ホアビン地区のラック・チエックにも拡大。ボーカウ桟橋は改修済み

まとめ:行くなら、朝いちばんか14時以降を先に押さえる

コン・トイソンの2時間待ちは、供給が足りないというより、需要が特定の2時間に固まったことで起きている。だとすれば、行く側にできることははっきりしている。日程を決める段階で平日を選ぶ、それが無理なら土曜の8時台に桟橋へ立てる出発時刻から逆算する。ホーチミン市を朝6時台に出るか、前夜のうちにメコンへ入って泊まるかの二択だ。

料金は、単体乗船なら10万ドン、乗合ツアーなら15万〜20万ドンが目安になる。送迎と昼食まで含めた旅行会社の日帰りツアーが約40万ドンなので、自力で組む労力と1,200〜1,500円ほどの差をどう見るかで選び方が分かれる。人の少ない街の食堂を見分ける現地の目安(客の40人中39人が地元民なら当たり——ベトナム良店選びの黄金律)と同じで、地元の人がいつ動いているかを基準にすれば、混雑地でも外しにくい。まずは渡航日の曜日を確認して、週末に当たっているなら出発時刻を1時間半前倒しするところから始めたい。

参照元:Dân tríDân trí(Hari Won)ZnewsVnExpressThanh NiênVietnamPlus

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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