サイゴンの犬肉横丁が消滅、コンクイン通りはヤギ鍋の街へ

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ホーチミン市の中心、コンクイン(Cống Quỳnh)通り189番地の路地は、地元で「犬肉横丁」と呼ばれてきた一角でした。それが2026年のテト(旧正月)を境に姿を変え、かつて6軒ほど並んでいた犬肉店は姿を消し、ヤギ焼き・ヤギ鍋を中心に、豚料理や鍋の店へと転業しています。ベトナムを旅する人にとって、これは単なる一本の路地の話ではありません。何を食べる街なのかという価値観が動いた記録であり、同時に「サイゴンでヤギ料理をどこで味わうか」という新しい楽しみ方の入口でもあります。店選びに迷ったら地元客の比率で良店を見抜くベトナム流の物差しが役立ちますが、この横丁の変化は、その地元客そのものの好みが変わったことを示しています。

目次

犬肉横丁の最後の店が看板を替えた日

ダントリ紙やタインニエン紙が7月に相次いで報じたのは、189番地路地の最後の犬肉店が営業をやめ、犬肉店がこの路地から姿を消したという事実です。長く「犬肉横丁」の代名詞だった店が、テト明けに続々とメニューを入れ替えました。

30年以上続いた老舗「チュオン(Trường)」は犬肉の提供を終え、鍋と焼き物を出す「チュオン2」へと衣替え。20年以上の歴史を持つ「スアンビン(Xuân Bình)」は看板を「フオンソン・ヤギ焼き(Dê quay Hương Sơn)」に掛け替えました。フオンソンは中部ハティン省の郡名で、ヤギの産地として知られる土地です。店主が自分の故郷の名物を新しい商売に選んだ形で、故郷の味を都市に持ち込む流れは地方の一杯を求めてホーチミンに集まる食の潮流とも重なります。

「犬は家族」——価値観が変えた通りの風景

転業の背景には、二つの力が同時に働いています。ひとつは客足の変化です。店主たちは「時代は変わる。永遠のものはない」「若い世代を中心に、犬肉はもう支持されない」と語り、常連を失うことを承知のうえで別の肉へ舵を切りました。

もうひとつは行政の後押しです。ベトナムの農業環境省では2030年までに犬・猫肉の販売を段階的になくす目標がロードマップとして議論されており、こうした流れも店の転業を後押ししてきました。世論の側でも、2023年の調査で犬肉食への支持は退潮が鮮明になっています。街の人が「犬をペット、家族と見るようになった」と口にする光景は、都市部で急速に広がる飼育文化と地続きです。

数字で見る「横丁」の変化

路地の顔ぶれがどう入れ替わったかを整理すると、変化の速さがよく分かります。

これまで テト後
チュオン 犬肉一筋30年超 「チュオン2」鍋・焼き物・豚料理に転換
スアンビン 犬肉20年超 「フオンソン・ヤギ焼き」に看板替え
189番地路地 全体 犬肉店 約6軒 犬肉店 0軒(ヤギ・鍋・豚料理系などへ転業)

ヤギ料理の価格帯は1皿15万〜20万ドン前後(1万ドン≒60円換算で約900〜1,200円)に設定されており、観光客にも手が届く水準です。犬肉時代の常連向け価格から、より幅広い層に開かれた商売へと軸足が移っています。

店主と客、それぞれの本音

この転換をめぐる当事者の言葉には、惜別と前向きさが入り混じっています。

  • チュオンの店主——「時代は変わる。永遠のものはない。常連は減ったが、暮らしを続けるために別の商売へ移った」
  • スアンビンの店主——「良い料理を出せば客は戻る」。故郷ハティンのヤギを看板に据えた自信をのぞかせています
  • 常連だったドゥック・トン氏——「犬肉はもう支持されない。特に若い人にはそうだ」として、ヤギや牛への転換に理解を示しました
  • 近隣の住民——「多くの人が今は犬を家族と見ている」と、店の切り替えを歓迎する声を上げています

旅行者・在住者がこの変化から読み取れること

一本の路地の看板替えは、サイゴンで食べ歩く人にとって三つの実用的な意味を持ちます。

第一に、サイゴンの食は上書きされ続ける街だという前提です。中心部の老舗が世代交代や価値観の変化で姿を消す例は珍しくなく、実際にこの数年で長く親しまれた食堂が幕を下ろす場面も見てきました。ガイドブックの一軒が消えていても驚かず、代わりに何が入ったかを楽しむ姿勢が、この街では旅の満足度を左右します。

第二に、ヤギ料理という新しい選択肢の広がりです。ベトナムのヤギ鍋(lẩu dê)やヤギ焼き(dê nướng)は、香草とスパイスを効かせた滋味深い一皿で、日本ではなじみが薄いぶん現地で試す価値があります。犬肉横丁の転業は、この料理が都市の食卓で存在感を増している何よりの証拠です。産地名を冠した「フオンソンのヤギ」のように、どこの産かで選ぶ楽しみも生まれています。

第三に、地元の価値観への敬意です。犬肉は依然として賛否の分かれる話題であり、旅行者が興味本位で踏み込むより、地元の人が今どこへ向かっているかを尊重するほうが、街との距離は縮まります。ヤギの店に切り替わった横丁で新しい名物を味わうことは、その変化に静かに寄り添う一つの形です。

サイゴンでヤギ料理を楽しむ実用ガイド

ヤギ鍋・ヤギ焼きは市内各所に専門店があり、数人でシェアするスタイルが基本です。旅行者が訪ねやすい代表格を挙げます。

エリア 目安
ラウ・ゼー404(Lẩu Dê 404) 7区 Đường 15B, Phú Mỹ 家族・グループ向けの広い店。焼きヤギと鍋が看板
ラウ・ゼー・チュオンディン 3区 105 Trương Định 中心部からアクセスしやすい定番
ラウ・ゼー・チーキー(Tri Kỷ) タンビン区 335 Lê Văn Sỹ 落ち着いた空間でヤギ鍋を
ニャーハン・チャイゼー(Trại Dê) タンフー区 Lũy Bán Bích 新鮮なヤギ肉の専門ブランド

価格はおおむね1鍋15万〜22万ドン(約900〜1,320円)で、数人で分ければ一人あたりの負担は軽くなります。中心部で昔ながらのサイゴンの食を巡るなら、コンクイン通りにも近い1区の路地に残る半世紀続く布フィルターコーヒーの一杯と組み合わせると、変わりゆく街と変わらない味を一日で味わえます。

まとめ——消えた横丁の先にあるもの

コンクイン通り189番地の犬肉横丁は、6軒の犬肉店が姿を消し、ヤギや鍋の店に生まれ変わって、一つの時代を静かに閉じました。行政が掲げる2030年目標の議論と、犬を家族と捉える意識の広がりが重なった結果です。旅行者や在住者が次にできることは三つあります。まず、サイゴンの食は入れ替わり続けるものと心得て、消えた店より入れ替わった店を楽しむこと。次に、ヤギ鍋・ヤギ焼きという広がりつつある料理を、産地で選んで試すこと。そして、地元の価値観の変化に敬意を払いながら街を歩くことです。まずは数人で一鍋を囲み、変わったばかりのサイゴンの新しい名物を確かめてみてください。

参照元

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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