ベトナムで働く人や現地法人にとって、入国管理の手続きが2026年6月1日から大きく変わりました。ビザ延長、就労ビザ(新規・更新)、在留カード(TRC)、入国許可書、出国ビザといった主要な申請が、ベトナム版デジタルID「VNeID」のポータル経由に一本化されたのです(2026年6月24日報道)。窓口へ直接出向く方法や、これまで使われてきた会社の電子署名・トークンでのログインは移行期間なしで停止しており、在住日本人と、ベトナムに拠点を持つ日本企業の実務が一気に切り替わることになりました。なぜ今この変更が起きたのか、そして具体的に何を準備すればよいのかを整理します。
何が変わったのか──オフライン受付が消えた
今回の変更の核心は、ベトナムに登記された企業・駐在員事務所・団体が、国家公共サービスポータルおよび公安省のポータルにアクセスする際、「法人VNeID(Business VNeID)」を使わなければならなくなった点にあります。対象となる手続きは、入国許可書の申請、ビザ延長、就労ビザの新規取得と更新、出国ビザ、そして在留カードの申請と幅広い範囲に及びます。複数の入管専門法律事務所によれば、オフラインや窓口への直接提出はもう受け付けられず、代替手段も用意されていません。従来のログインに使っていた電子署名やトークンも即時に無効化され、猶予期間は設けられませんでした。手続きの「入り口」そのものが、ある日を境にデジタルIDだけに絞られた形です。
背景にあるベトナムの行政デジタル化
この変更は突然のものに見えますが、流れ自体は数年来続いてきました。VNeIDはもともと国民向けのデジタルID・アプリで、身分証明のほか納税、銀行取引、世帯登録、法人手続きといった行政サービスへのアクセスを1つのIDに集約する仕組みです。外国人については、政令69/2024/ND-CPに基づき、有効な在留カードまたは永住カードを持つ人が登録できるようになりました。2025年には在留カード保有者向けの登録が始まり、今回の2026年6月の入管手続き一本化は、その延長線上にある「利用の義務化」という位置づけです。行政側から見れば、紙とトークンを介した属人的な手続きを、追跡可能なデジタルの入り口に統合する動きといえます。
誰が登録でき、誰ができないのか
VNeIDに登録できるのは、有効な在留カード(TRC)または永住カードを持つ外国人です。6歳以上はレベル1・レベル2の両方、6歳未満は在留カードがあればレベル1が対象となります。逆に、eビザやアライバルビザといった短期ビザだけで滞在している人は登録できません。VNeIDは長期滞在者・在住者を主な対象とした制度として設計されているためです。つまり、旅行者や短期出張者が観光目的でこの制度に振り回される場面は少ない一方、就労・駐在で腰を据えている人や、その受け入れ企業にとっては避けて通れない手続きになります。
アカウントには2つのレベルがあります。レベル1はアプリ上で完結するオンライン登録で、パスポート・在留カード情報とベトナム名義の携帯番号、メールを入力しOTPで認証すれば数分で有効化できます。フル機能を使うレベル2は、地元の入管または警察の窓口で顔写真と指紋を登録する対面認証が必要です。移動が多い都市部と地方とでは処理時間に差が出るため、更新期限が迫っている人ほど早めの着手が安全です。
在住者・雇用主がやることの実務フロー
個人の在留カード保有者がやることは大きく3ステップです。まずApp Store/Google PlayからVNeIDアプリを入れる。次にパスポートと在留カードの情報、本人名義のベトナム携帯番号を入れてレベル1を登録する。必要に応じて入管・警察窓口で生体情報を登録しレベル2へ上げる、という流れです。登録は在留カードが発行された都市の入管で行うのが基本で、対面の所要時間はおおむね30分から2時間ほど。手続き後、3〜7日以内にSMSで届く認証コードでアプリを有効化します。用意する書類は、有効なパスポート・在留カード・本人名義のベトナム携帯番号の3点が軸です。
企業側は、まず自社の法人VNeIDを取得しないと、駐在員のビザ延長も在留カード申請も一切前に進みません。ここで日本企業が特に注意したいのが「循環依存」の落とし穴です。会社の唯一の法定代表者が外国人である場合、法人VNeIDの取得にはその代表者が有効な在留カードを持っている必要があります。ところが、その在留カード申請自体が法人VNeIDなしには出せない。当局が実務的な回避策を出さない限り、事業ライセンスを変更してベトナム国籍者を法定代表者に加える、といった対応を迫られるケースもあると指摘されています。日本本社が代表者を派遣して回している小規模拠点ほど、この構造にはまりやすいので早期の点検が欠かせません。
現地・専門家の反応
入管を扱う各国の法律事務所は、今回の切り替えを事前告知の乏しい急な制度変更として受け止めています。ある事務所は、法人VNeID未登録の企業は、期限の迫った申請を抱えている場合に直ちに運用上のリスクに直面すると警告しました。前述の代表者をめぐる循環依存の問題も、複数の実務家が具体的な懸念として挙げています。一方で当局は、在留カードを持たない外国人が直面しうる不便を認識しており、非TRC保有者もVNeIDアカウントを登録できるようにする解決策を近く用意すると示しています。制度は動きながら整えられている段階で、当面は最新の運用情報を追い続ける姿勢が現実的です。
日本の読者への示唆
ベトナムでは行政と交通の両面で「デジタルの入り口に集約する」流れが同時に進んでいます。移動の面でも変化が続いており、たとえばホーチミンの路線バスが7月から無料化される動きや、ハノイのメトロ着工で空港アクセスが変わる計画は、いずれも都市生活のインフラを一気に更新する政策です。今回のVNeID一本化も同じ文脈にあり、「紙と窓口」を前提にした従来の段取りが通用しなくなる転換点といえます。
実務的にまず動くべきは、更新期限の棚卸しです。就労ビザや在留カードの期限が近い人・拠点ほど、登録の遅れがそのまま手続きの遅延につながります。旅行や短期出張で訪れるだけの人は今回の制度の直接対象ではありませんが、入国前の準備という点では別の手続きにも目を配っておきたいところです。たとえば7月から復活したベトナム入国時の健康申告のように、出発前にやることが増える変更も並行しています。デジタル化が進むほど「事前にオンラインで済ませておく」比重が上がる、という基本線は個人にも企業にも共通します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 義務化の開始日 | 2026年6月1日 |
| 報道日 | 2026年6月24日 |
| 対象手続き | 入国許可書・ビザ延長・就労ビザ(新規/更新)・出国ビザ・在留カード申請 |
| 登録できる人 | 有効な在留カード(TRC)・永住カード保有者(6歳以上) |
| 登録できない人 | eビザ・アライバルビザなど短期ビザのみの滞在者 |
| 個人の対面登録時間 | おおむね30分〜2時間 |
| アプリ有効化 | 登録後3〜7日以内にSMS認証コード |
| 従来ログイン | 電子署名・トークンは移行期間なしで停止 |
よくある質問
観光でベトナムに行くだけでもVNeIDの登録が必要ですか?
いいえ。VNeIDは在留カードや永住カードを持つ長期滞在者向けの制度で、eビザやアライバルビザで短期滞在する旅行者は登録対象外です。観光目的であれば、通常のビザや入国手続きの準備を整えれば問題ありません。ただし入国時の健康申告など別の事前手続きが並行しているため、出発前の最新情報は確認しておくと安心です。
個人のVNeID登録には何が必要ですか?
有効なパスポート、在留カード(または永住カード)、本人名義のベトナム携帯番号の3点が基本です。アプリでレベル1を登録した後、フル機能のレベル2にするには、在留カードが発行された都市の入管または警察窓口で顔写真と指紋の登録が必要になります。対面登録の所要はおおむね30分から2時間ほどです。
現地法人の代表者が外国人の場合、手続きはどうなりますか?
法人VNeIDの取得には代表者が有効な在留カードを持っている必要がある一方、その在留カード申請には法人VNeIDが必要という循環依存が指摘されています。当局が回避策を示さない限り、事業ライセンスを変更してベトナム国籍者を法定代表者に加える対応が現実的な選択肢になる場合があります。期限が迫っている拠点は早めに専門家へ相談するのが安全です。
参照元
Visas Update: Vietnam Requires VNeID for All Immigration Procedures Beginning June 1, 2026
Fragomen: Vietnam eID Requirement for Foreign Nationals Holding Residence Cards Launched
Vietnam-visa.com: VNeID for Foreigners in Vietnam – Guide to Register 2026
