ホーチミン市1区、トンタットダム(Ton That Dam)通りに位置するチョークー(Cho Cu)市場。かつてサイゴン河とダウンタウンを結ぶ運河沿いに広がった旧市場で、60年以上にわたりフーティウ(hu tieu)を提供し続ける屋台がある。店主コー・チャン(Co Chanh、本名Huynh Thi Dung)さんが切り盛りする、トンタットダム69番地の小さな一角だ。
Saigoneerの人気連載「Hem Gems(路地裏の宝石)」シリーズで紹介されたこの屋台は、もともとコー・チャンさんの叔父が創業した。叔父は海外へ移住する際、店を彼女に託した。当初は広東式フーティウのみだったが、常連客の要望に応え、フーティウミー(卵麺入り)、ワンタン、肉団子へとメニューを拡大してきた。
60年の歴史を支える「変えない味」
コー・チャンさんは料理学校に通ったわけではない。毎日の実践と客の反応から技術を磨いた。「レシピは叔父から受け継いだまま。特別なことはしていない」と話す。
広東系住民が多かったチョークー地区ならではの味だ。豚骨と干しエビで取るスープは透明で深いコクがあり、潮州酢や自家製ソースで仕上げる。トッピングはエビ、揚げニンニク、豚ラード、レバー、ハツ、豚肉。麺は太麺と細麺から選べる。
| メニュー | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| フーティウミー | 広東式卵麺入りスープ | 太麺・細麺選択可 |
| フーティウ | 米麺のスープ | 定番メニュー |
| ワンタン | 広東風ワンタン | 単品注文可 |
| 肉団子(ボーヴィエン) | 中華スパイス入り | 他店にも卸売 |
チョークー市場の栄枯盛衰
トンタットダム通りのチョークーは、19世紀にサイゴン河と繋がるチョーヴァイ運河沿いで中国・インド系商人が交易した場所が起源だ。1887年、仏領サイゴン行政府が衛生改善のため運河を埋め立て、商人たちは現在のトンタットダム通りに移転した。
歴史家ヴォン・ホン・セン(Vuong Hong Sen)は1960年の著書『Sai Gon Nam Xua』で、チョークーを「最高の魚粥(chao ca)が食べられる場所」と記録している。広東系コミュニティの食文化が色濃く残り、チョロン(中華街)にも引けを取らない中華料理の名店が点在していた。
| 年代 | チョークーの出来事 |
|---|---|
| 19世紀前半 | チョーヴァイ運河沿いに中国・インド系商人が集結 |
| 1887年 | 仏領行政府が運河埋め立て、現在地に移転 |
| 1960年代 | コー・チャンの叔父がフーティウ屋台を開業 |
| 全盛期 | 1日100杯以上を販売 |
| 現在 | 1日約30杯に減少、市場の縮小が続く |
現地の声
- コー・チャンさん: 「今は1日に30杯がやっと。材料費すら賄えない日もある」
- 常連客(近隣オフィスワーカー): 「昼休みに来るのが15年来の習慣。味が変わらないのが信頼できる」
- 隣で菓子を売っていたコー・ガイさん: 「昔は隣で菓子を売っていた。あれからずっと姉妹のように一緒に働いている」
日本人旅行者にとっての意味
ホーチミン旅行でベンタイン市場やブイビエン通りは定番だが、チョークーまで足を延ばす旅行者は少ない。1区の中心部から徒歩10分ほどの距離にありながら、観光客向けの演出がない「地元の台所」を体験できる。
フーティウはフォーと並ぶベトナム南部の代表的麺料理だが、広東式の調理法で出す店は減っている。ガイドブックに載らない一杯を探す旅行者には、チョークーのコー・チャンは外せない。
飲食業界への波及
ホーチミンでは再開発と家賃高騰により、路上屋台や旧市場の小規模店舗が急速に姿を消している。チョークー市場も例外ではなく、周囲のビル建設で客足が変わった。
一方で、Saigoneerの「Hem Gems」シリーズのように、こうした老舗屋台を記録・発信するメディアの存在が注目を集めている。ベトナム国内でも「食の無形文化遺産」として路上屋台文化を保護すべきだという議論が活発化している。
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| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | コー・チャンのフーティウ屋台(正式な店名なし) |
| 住所 | 69 Ton That Dam, Ben Nghe, District 1, HCMC |
| 営業時間 | 午前4時~午後7時頃(売り切れ次第終了) |
| 定休日 | 不定休 |
| 価格帯 | 約65,000 VND(約390円) |
| 最寄りランドマーク | カルメット橋から徒歩5分 |
| Google Maps | 「Ton That Dam Cho Cu」で検索 |
まとめ
60年間、メニューも場所もほとんど変えずに営業を続けるコー・チャンのフーティウ屋台。全盛期の1日100杯から30杯に減った現実は、サイゴンの急速な都市化を映し出している。それでも毎朝4時に仕込みを始める姿は、チョークー市場が持つ広東系食文化の最後の砦だ。トンタットダム通りを訪れるなら、ビル群の谷間に残るこの一杯を試してほしい。
