ホーチミン市の中心に近いバンコー区で、スターバックスが路地裏(ヘム)に構えた店を2026年9月8日に開いた。住所はカオタン通り2/36。大通りから細い路地を折れた先という立地で、同社にとってホーチミン市で初めての路地裏店になる。しかもこの店はチェーンとしてベトナム初の「手話の店(Signing Store)」で、従業員の約半数が聴覚障害者だ。暮らす人にも旅行で立ち寄る人にも、コーヒー1杯の受け取り方が普段と変わる一店になる。
カオタン通りの細い路地に、9月8日開いた一号店
起点は現地紙Thanh Nienが2026年9月7日に報じたニュースだ。スターバックスはバンコー区カオタン通りの路地の奥へ隠れるように立地する店を、翌9月8日に開業した。広報・マーケティング責任者のチー・グエン氏は、路地でふいにスターバックスに出会う意外さこそこの店の持ち味だと話す。立地を選んだ理由も語られていて、中心部に近くアクセスしやすい一方、車の音や交通の流れから離れて静かな空間をつくれる点を挙げている。人通りの多い角地を押さえる従来の出店とは、ねらいが違う店だ。
ベトナム初の手話の店、半数が聴覚障害者で働く
この店のもう一つの顔が、チェーンとしてベトナム初の「手話の店(Signing Store)」である点だ。従業員の約50%が聴覚障害者で、全員がフルタイム勤務。店内では主に手話でやりとりが交わされ、訪れた客もその関わり方に比較的早くなじんでいるという。開業を記念した特別な商品や店内の細部には、手話をモチーフにしたデザインが取り入れられている。準備には約6カ月をかけたとされ、チー・グエン氏は「最初はとても難しいと思ったが、実際に進めてみると想像したほどではなかった」と、聴覚障害のある従業員との運営を振り返っている。
下地もある。スターバックスはベトナム進出から13年で、現在は国内の約10店に聴覚障害のある従業員(各店1〜2人)を配置してきた。今回はその経験の延長線上で、半数が聴覚障害者という一歩踏み込んだ体制に挑んでいる。同社は同じ手話の店モデルを広げられそうな候補地もいくつか挙げているが、時期や場所は公表していない。さらにカオタン店の売上の一部を、今後2年間、聴覚障害のある子どものための学校支援に充てる予定だという。
| Item | Details |
|---|---|
| Positioning | ホーチミン市初の路地裏店/チェーンとしてベトナム初の手話の店 |
| Opening date | 2026年9月8日 |
| 聴覚障害者の従業員 | 店舗の約50%(全員フルタイム) |
| 準備期間 | 約6カ月 |
| 既存の下地 | 進出13年、約10店に聴覚障害の従業員(各1〜2人) |
| 地域還元 | 売上の一部を2年間、聴覚障害児の学校支援へ |
路地の喫茶文化に、世界チェーンが溶け込みにきた
路地の一杯が日常だったサイゴン
サイゴン(ホーチミン)の喫茶文化は、もともと路地(ヘム)と切り離せない。大通りから一本入った軒先に低い椅子を並べ、練乳を沈めた濃いコーヒーを氷で割って飲む——そんな店が住宅街の奥に数えきれないほどある。観光客が表通りを歩くだけでは気づけない場所に、地元の人の行きつけがある。路地は昔から「知っている人だけの一杯」を成り立たせてきた空間だ。世界チェーンがそこへ入るのは、現地の飲み方に自分を寄せる動きに読める。
路地を選んだことが持つ意味
世界チェーンの出店は、人通りの多い角地や商業ビルの1階を押さえるのが基本形だった。今回はそこから外れ、静けさとアクセスの両立を理由に路地を選んでいる。結果として、通りすがりよりも「わざわざ探して行く」動機のある客が中心になりやすい。中秋の撮影目当てにカフェを選ぶ動きを追った満月を待たず、ハノイで中秋フォトが撮れるカフェ5選でも見たように、ベトナムの都市部では「場所そのものが目的地になる」消費が育っている。路地の立地は、その心理と相性がよい。
雇用・体験・地域支援の三つがそろった出店
この店を「話題づくり」や「社会貢献」の一言で片づけると、輪郭を取り違える。半数が聴覚障害者で手話が中心の店では、注文の関わり方そのものがいつもと変わり、その体験が記憶に残りやすい。加えて、約6カ月の準備、既存店での雇用の積み重ね、2年間の学校支援という具体が伴っている。客にとっての新しい体験、働く人の雇用、地域への還元が同じ一店で重なっているのが、この出店の性格だ。
外から来たブランドが現地の素材や作り手を前面に出して都市の消費者に響いた例は、New WorldサイゴンがMarouと提携、客室もロビーもベトナム産チョコで包むにもあった。業態は違うが、ロゴの力で押すのではなく、その土地の文脈へ自分を寄せて記憶に残そうとする向きは近い。
日本の飲食・小売がここから学べること
不便さを「探す楽しさ」に変えられるか
一等地の高い家賃を避け、路地や2階に構えて「知る人ぞ知る」をつくる手は、日本の個人店やブランドにも開かれている。屋台の何倍もの値でも行列が続く鉄板バインミーを追ったサイゴンで2030円の鉄板バインミー、屋台の6〜10倍でも行列が続くが示すのは、価格や立地の不便さがあっても、体験に納得があれば人は足を運ぶことだ。不便さを「探す楽しさ」に変えられるかが分かれ目になる。
雇用を単発でなく仕組みに組み込む
この店は、既存店での雇用と約6カ月の準備という積み重ねの上に立つ。単発のキャンペーンではなく、採用と教育の設計に障害者雇用が組み込まれているから、一号店として打ち出しても浮つかない。日本の店舗運営でも、社会性を掲げるなら、単年の話題より数年がかりの仕組み化のほうが最後は効いてくる。
立地・接客・商品のどれかをずらす
一つの意外性はいずれ飽きられる。路地という立地と、手話が中心の接客のように、種類の違う要素を重ねると体験の強度が上がる。立地・接客・商品のうち一つか二つを意図してずらすと、客は「人に話したくなる理由」を持ち帰る。ただし、雇用のあり方を集客の道具として扱うのではなく、働く人の環境として整えた先に、結果として口コミがついてくる順番を外さないことだ。
What to know before visiting
| Item | Notes |
|---|---|
| Address | ホーチミン市バンコー区カオタン通り2/36 |
| Opened | 2026年9月8日から |
| 立地の探し方 | 大通りから路地(ヘム)へ一本入る。番地2/36の枝番を地図で確認 |
| orders | 店頭の注文サポートを利用できる。手話が中心の接客になる |
| 事前確認 | 営業時間・価格はスターバックス公式情報または地図サービスで最新を確認 |
営業時間や価格は起点記事に記載がないため、ここには載せない。訪問前に公式情報で確かめてほしい。
次のサイゴンで、路地裏の一号店を訪ねてみる
ホーチミンのスターバックス路地裏一号店は、世界チェーンが現地のヘム喫茶文化と障害者雇用、そして地域への還元を一つの店に束ねた出店だ。立地の不便さと手話が中心の接客を、弱みでなく体験の核に置いている。日本から見ても、家賃勝負ではない出店や、数年がかりで組む雇用の設計に引き写せる示唆がある。まず動くなら、グーグルマップで「Cao Thang 2/36, Ban Co」を保存し、路地の入口を地図で押さえてから向かうと迷わない。
