電気も水道もない18戸の村サオハー、映画が連れてきた客

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ベトナム北部トゥエンクアン省の山中に、サオハーという小さな集落がある。VietnamNetが2026年7月27日に伝えたところでは、約500ヘクタールの原生林に囲まれ、生活用の電気も水道もまだ通っておらず、携帯電話の電波も安定しない。宿も食堂もないため、訪ねられるのは日帰りだけだ。それでもここ数年、写真を撮りに来る旅行者が増えている。きっかけは2023年のドラマの撮影地になったこと。日本から行こうとすると、道の険しさより先に、まったく別の壁にぶつかる。

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500ヘクタールの森に囲まれ、最後の2キロは徒歩かバイク

行政上の住所は、トゥエンクアン省イェンミン社コーチョー村。2025年の省再編前はハザン省ドンヴァン県ヴァンチャイ社だった場所で、ベトナム語の記事でも旧地名が併記されることが多い。モン族の言葉でサオハーは「高い所にある谷」を意味し、地名の由来は集落の立地そのものだ。

家屋は例外なく、モン族の土を突き固めて壁にする「チンタオン」造りで、屋根は陰陽瓦。周囲を高さ約1.5メートルの石垣が囲む。石垣は接着材をいっさい使わずに積まれているのに数十年もつ、とVietnamNetは書いている。住民は麻(ラン)、トウモロコシ、カイメオという高地の菜っ葉を育て、ヤギを飼い、布を手で織る。自給を軸にした暮らしだ。

行き方は原文にはっきり書かれている。旧ハザン市街から国道4C号線でタムマー坂へ向かい、旧ヴァンチャイ社に入る。旧イェンミン方面からなら、ヘアピンカーブと長い勾配が続く約17キロの峠を越え、タムマー坂のふもとからさらに約4キロ走って旧ヴァンチャイ社に入る。集落は森の奥にあるため、最後の約2キロの山道は徒歩かバイクでしか進めない。道幅は狭く、急勾配とヘアピンカーブが続く。

「地獄の村」は映画の中の名前で、この集落の呼び名ではない

サオハーの名が広まったのは、2023年に公開されたホラー作品「Tết ở làng địa ngục(地獄村の正月)」のロケ地になってからだ。地元紙・報トゥエンクアンは、続けて「Kẻ ăn hồn」の撮影にも使われたと報じている。放送後、霧の映像や石の坂道の画がSNSで拡散し、画面で見た風景に実際に触れたいという動機で人が動き始めた。

ここで日本語で書くときに一つ気をつけたい。「地獄村」は作品の中の架空の村の名前であって、住民が自分たちの集落をそう呼んでいるわけではない。作品名をそのまま地名のように使うと、18戸が現に暮らす場所に、フィクションのラベルを上書きすることになる。SNS発の注目が村の呼ばれ方まで変えてしまう例は、ベトナムでは珍しくない(消えかけた職人村を、学生100人がSNSで”エモい遺産”に変えた夏)。

省再編も押さえておきたい。ハザン省とトゥエンクアン省を統合して新トゥエンクアン省とする国会決議202/2025/QH15が2025年6月12日に可決され、社・坊の区割りを定めた常務委員会決議1684号が6月16日に出た。新しい行政単位が動き出したのは同年7月1日。新省は7坊117社、面積13,795.50平方キロ、人口1,865,270人。県のレベルが廃止されたため、「ドンヴァン県」という単位はもう存在しない。旅行サイトの古い記述と現在の住所表記が食い違うのはこのためだ。

標高1,500メートルか2,000メートルか、数字が揃っていない

この集落について書かれたものを並べると、数字が一致しない。VietnamNetは標高約1,500メートルとし、報トゥエンクアンは「2,000メートル近く」と書く。世帯数と貧困率は後者にしか出てこない。旅行前提の情報として扱うなら、どの数字がどの媒体のものかを分けておいたほうが安全だ。

Item VietnamNet(2026年7月27日) 報トゥエンクアン(2026年5月6日)
Elevation 約1,500メートル 2,000メートル近く
原生林 約500ヘクタール 約500ヘクタール
世帯数 記載なし 18戸
貧困世帯率 記載なし 50%
電気・水・電波 生活用の電気・水道が未整備、電波も不安定 記載なし
撮影作品 「Tết ở làng địa ngục」(2023年) 同作と「Kẻ ăn hồn」の2本
観光サービス なし。日帰りのみ ホームステイ整備を5世帯から始める計画

標高が500メートル単位でぶれるのは、集落のどの地点を測ったかが書かれていないからだろう。ただ、日帰り前提で防寒や装備を考えるなら、どちらの数字でも「夏でも涼しい高地」という結論は変わらない。

村長、観光協会長、訪問者――同じ集落を語る温度が違う

コーチョー村の村長ヴァ・ミー・ナー氏は報トゥエンクアンに、「映画の撮影隊が来てから、村に来る客が増えた。丸一日かけて洞窟を見に来て、写真を撮り、記録していく人もいる」と話している。増加を歓迎とも困惑とも言わず、事実として述べているのが印象に残る。

同じ記事で、省観光協会会長のライ・クオック・ティン氏は「サオハーには景観だけでなく体験の要素が多く集まっている。うまくつなげば、石の高原ならではの体験ルートをつくれる」と述べ、協会として現地調査を行い、まず5世帯でホームステイの整備を支援する見通しを示した。条件も同時に挙げている。土地を売らないこと、水源を守ること、森を守ること。

ハノイ在住のヴオン・ファム・クアン・ユイ氏(2002年生まれ)はVietnamNetに「外の世界から完全に切り離された村」と語り、村の家々の造りがそろっている点を挙げた。訪ねる人に向けては、撮影の前に必ず住民の許可を取るように、と助言している。同じ発言のなかで彼は、同省内のラオサー村と比べてもいる。濃い黄土色の土壁に陰陽瓦を合わせた古色がラオサーの持ち味だとすれば、サオハーは土壁も瓦も石垣も揃っている点が違う、という言い分だ。

もう一人、村の記憶を語る人がいる。コーチョー村に住む1960年生まれのヴァ・ズン・カウ氏は、山の中腹を指して「あの上に洞窟がある。昔は匪賊がいて、誰も近づけなかった」と報トゥエンクアンに話した。旧ヴァンチャイ社のモン族民兵隊長スン・ズン・ルー氏が1960年にその洞窟へ入り、匪賊の頭目ヴァン・ヴァン・リーと直接対峙して、12人が銃を置いて革命側についたと同紙は書いている。観光客が「映画の村」として来る場所は、住民にとっては別の物語が積み重なった土地だ。

日本の免許では走れない――行程で最初に詰まるのはここ

集落へ至る最後の区間は、記事のとおりバイクか徒歩に限られる。訪問者ユイ氏の助言も具体的で、スクーターや自動車は避け、ブレーキとタイヤを点検したギア付き車(xe số)かクラッチ付き車(xe côn tay)を選べ、というものだ。ここで「バイクを借りればいい」と考えたくなるが、日本の旅行者の本当の関門はそこにある。

在ベトナム日本国大使館が案内しているとおり、日本で発行された国際運転免許証はベトナムでは有効ではない。日本が加盟するジュネーブ条約と、ベトナムが加盟するウィーン条約が別系統だからだ。ベトナムで運転するには、日本の免許からベトナムの免許へ切り替えるか、現地で試験を受けるしかない。しかも普通車のみの免許から切り替えた場合、二輪は運転できない。二輪に乗るには日本の二輪免許から切り替えるか、実技試験を受ける必要がある。

つまり短期の観光客が自分でバイクを走らせるなら、その時点で無免許運転になる。現実的な選択肢は二つだ。運転手つきのバイク(いわゆるイージーライダー)を旧ハザン市街や旧イェンミン方面で手配して同乗するか、滞在資格が90日以上あるなら切替手続きに乗せてしまうか(90日ビザで運転できる——ベトナム免許切替、出張者にも門戸)。出張のついでに石の高原を回る予定がある人ほど、切替の価値は高い。加えて、契約している海外旅行保険の免責条項は出発前に読んでおきたい。

外国人の入域許可にも一言。ベトナムでは国境地帯に指定された区域へ外国人が立ち入る際、省公安が発行する許可が必要で、手数料は1人10ドル(1ドル163円換算で約1,630円)、処理は書類受理から5営業日以内とされている。旧ドンヴァン県一帯には国境に接する社が複数あり、省再編で社の区割り自体が変わった。サオハーが該当するかどうかは公表資料から確定できないので、行程を組む段階で受け入れ先の旅行会社か省公安に確認するのが早い。

ホームステイ5軒と「土地を売らない」という前置き

18戸、貧困率50%の集落に、日帰り客だけが増える。この構造のまま人数が伸びると、村に残るのはごみと騒音で、収入はほとんど落ちない。観光協会が示したホームステイ整備は、その非対称を崩すための一手だ。しかも「モン族の建築と暮らし方に沿って」という条件が付いている。外から鉄筋の宿を建てて数を稼ぐやり方とは反対の設計思想で、メコン奥地で見られた集落単位の受け入れづくりとも通じる(オウギヤシの森に泊まる、メコン奥地バイヌイの村ツーリズム)。

タイミングも効いている。サオハーが位置するドンヴァン石の高原は、ユネスコ世界ジオパークネットワークの再評価を受けている最中だ。報ヴァンホアによれば、専門家サンジャ・マリヤ・ペリス氏とユエンユエン・チェン氏を中心とする評価団が2026年7月25日から26日にかけて現地調査を行い、第4次の再評価にあたる。評価では、遺産保護と結びついた持続可能な観光に地元がどう取り組んできたかが見られる。7月25日には、サオハーと同じイェンミン社にある「ヴァンチャイの石の書」遺産地点も評価団の視察先に入った。麻織りが暮らしの一部として残る集落は、この文脈では説明しやすい素材になる。

日本の食品・雑貨の作り手にとっては、この地域の麻織物が「観光土産」ではなく評価対象の生活文化として扱われている点が読みどころだ。買い付けるにしても、生産者が18戸しかいない集落から量を引くのは現実的でない。むしろ社や協同組合の単位で話を始めるのが筋になる。

行く前に確認しておくこと

Item Details
Location トゥエンクアン省イェンミン社コーチョー村(旧ハザン省ドンヴァン県ヴァンチャイ社)
起点1 旧ハザン市街から国道4C号線でタムマー坂、旧ヴァンチャイ社へ
起点2 旧イェンミン方面から約17キロの峠、タムマー坂のふもとからさらに約4キロ
最後の区間 約2キロの山道を徒歩またはバイク
Vehicles 道幅が狭く急勾配。スクーター・自動車は不可、ブレーキとタイヤを点検したギア付きまたはクラッチ付きを推奨(訪問者の助言)
電気・水道 生活用の電気・水道は未整備
通信 携帯電波が不安定。機器は満充電で持ち込む
宿泊・飲食 観光サービスなし。日帰り前提。飲食物・常備薬は持参
運転免許 日本発行の国際運転免許証はベトナムでは無効
入域許可 国境地帯に指定された区域は省公安の許可が必要。1人10ドル(約1,630円)、5営業日以内に処理
撮影 住民に許可を得てから。承諾を得られなければ撮らない
スピーカーや音楽は持ち込まない。会話は聞こえる程度の声量で
ごみ 持ち帰る。回収の仕組みがない
Highlights 原生林、竹林、古い家屋、サオハーの祠

訪問者ユイ氏がVietnamNetで挙げた注意点は、そのまま実用的だ。天気予報を必ず確認する、飲食物と基本的な薬を持つ、機器は満充電にする、撮影前に許可を得る、村の中では声量を落とし音楽を流さない、ごみを捨てない。電気も水も引かれていない場所では、旅行者の1日分の消費がそのまま住民の負担になる。

まとめ:行くかどうかを決める前に、確認する順番がある

サオハーは、写真の見映えだけで動くと事故になりやすい行き先だ。順番としては、まず移動手段を確定させること。自分で運転するつもりなら免許の問題を先に片付け、それが無理なら運転手つきの手配を旅行会社に頼む。次に、行程に入る社が国境地帯の指定を受けているかを受け入れ先に確認する。ここまで済んでから、日帰りの時間割を組む。

もう一つ、行かないという選択も現実的に残しておきたい。18戸の集落に人が集まる速度が、5軒のホームステイ整備より速ければ、負担だけが先に届く。旧ハザン一帯には石の高原の他の見どころが多く、ジオパークの評価団が回ったルートはそのまま代替案になる。どうしても行くなら、住民の案内を頼み、対価を払い、夕方には下りる。それが今この集落に対してできる、いちばん実務的な礼儀だと考えている。

Sources:VietnamNetBáo Tuyên Quangトゥエンクアン省電子情報ポータルBáo Văn hóaBáo Văn hóa(イェンミン社の視察)在ベトナム日本国大使館

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Author of this article

In my third year living in Ho Chi Minh City, Vietnam. I launched this specialist Vietnam travel information site hoping to share local knowledge you simply can’t get by visiting as a tourist — the kind of thing you only understand by being here.

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