ベトナム紙トゥオイチェが2026年7月27日、国連観光機関(UN Tourism)の「Best Tourism Villages 2026」にベトナムから5ヶ所が推薦されたと報じた。見出しに立ったのは、古木の幹や高い木柱の上に客室を載せたマンデン・ツリーハウス(クアンガイ省)。まず押さえたいのは、これが受賞ではなく応募・候補の段階で、結果の公表は2026年第4四半期の見込みだという点だ。そして日本の読者に実務で効くのは別のところにある。5ヶ所のうち3ヶ所は2025年7月の省統合で所在省の名前が変わった場所で、いま検索しても厚い情報は旧省名でしか出てこない。
古木を切らずに客室を載せた、マンデンの樹上宿
トゥオイチェによれば、マンデン・ツリーハウスの特徴は樹冠の下に隠れるように建てられた客室群にある。施工のために木を伐って平地を作るのではなく、木を残したまま建てた。結果として、家の中から木が伸びて屋根を突き抜けている棟があるという。同紙は、建物と森を切り離さない設計だと説明している。
宿泊以外の体験として原文が挙げるのは、ジップライン、樹冠を抜けるスカイウォーク、トレッキング、サイクリング、キャンプ、瞑想、読書。静かに過ごしたいが何もしないのは物足りない層に向けた組み立てだ。ベトナム国家観光局は、この施設を建築の創意と滞在、自然体験を組み合わせたものと位置づけ、マンデンならではの観光商品になっていると評価している。
行政上の扱いも先に整っていた。2025年8月21日、クアンガイ省人民委員会がマンデン・ツリーハウスを観光地(điểm du lịch)として認定する決定を出している。所在地はクアンガイ省マンデン社スー・ヴァン・ハイン通り1番地。今回の推薦は、森を残して建てるという緑の観光モデルを国内外の旅行者に広める機会だ、とトゥオイチェは書いている。マンデン一帯を国家級の生態観光区にする構想は動いているものの、2026年7月時点で国家観光区としての正式認定は確認できない。なお宿泊料金と予約方法について、原文には記載がない。
候補と受賞は別物、過去2年の発表規模から読む
Best Tourism Villagesは国連観光機関が毎年選ぶ農村観光の表彰で、伝統文化の保全、環境保護、コミュニティの価値、持続可能性といった観点から審査される。今回のベトナム5ヶ所はその応募リストであって、まだ何も獲っていない。
距離感は過去2年の数字で測れる。2025年は10月17日に中国・湖州で発表があり、加盟65ヶ国から270件超の応募のうち52ヶ所が選定された。別枠のアップグレード・プログラム20ヶ所を加えた72ヶ所がネットワークに加わり、累計は319ヶ所になっている。2024年は11月にコロンビア・カルタヘナで発表があり、60ヶ国超・260件超の応募から55ヶ所が選ばれた。
ベトナム側の実績は、2022年タイハイ(タイグエン)、2023年タンホア、2024年チャークエ(ホイアン)、2025年ロロチャイ(トゥエンクアン)とクインソン(ランソン)で通算5ヶ所。1年に通ったのは1〜2ヶ所であり、5ヶ所出したから5ヶ所受かるという構造ではない。第4四半期の公表までは、候補と受賞を書き分けておいたほうが安全だ。
「ダクラクの漁村」が成り立つ理由
ベトナム国家観光局の発表による5ヶ所は、ロー村(ダクラク省)、カットカット・コミュニティ観光村(ラオカイ省)、バイマウ椰子林カムタイン(ダナン市)、マンデン・ツリーハウス(クアンガイ省)、フーリエン・コミュニティ観光村(ランソン省)。地図の知識が古いままだと、ここで読み違える。
ダクラク省はコーヒーの高原という顔で知られるが、ロー村は海沿いの漁村だ。2025年7月1日施行の省統合でフーイエン省がダクラク省に統合され、旧フーイエン省ホアヒエップ坊のロー村が「海のあるダクラク」になった。同じ再編でクアンナム省はダナン市に、コントゥム省はクアンガイ省に吸収されている。バイマウ椰子林は実質ホイアン、マンデンは実質コントゥム高原と読み替えるのが早い。
これは旅程を組むときに直接効く。宿・バス・ツアーの情報は、いまも旧省名で書かれたページのほうが圧倒的に厚い。「クアンガイの高原」より「Kon Tum Măng Đen」、「ダナンのヤシ林」より「Hội An Cẩm Thanh」で当たったほうが早く着く。地名の付け替えが土地の説明を上書きしてしまう問題は、若い世代が発信を作り直す形で埋められた例もある(消えかけた職人村を、学生100人がSNSで”エモい遺産”に変えた夏)。
5ヶ所を「旧名・現名・中身」で並べ直す
| 推薦地 | 現在の所在 | 統合前 | 中身 |
|---|---|---|---|
| ロー村(làng Lò) | ダクラク省ホアヒエップ坊 | 旧フーイエン省 | 赤瓦屋根が残る海辺の漁村。宿泊施設72軒・459室 |
| Cat Cat village | ラオカイ省(サパ) | 変更なし | モン族のコミュニティ観光村 |
| バイマウ椰子林カムタイン | Da Nang City | 旧クアンナム省ホイアン | 水路にヤシが茂る一帯。舟形かご(トゥンチャイ)の遊覧 |
| マンデン・ツリーハウス | クアンガイ省マンデン社 | 旧コントゥム省 | 樹上客室と森のアクティビティ。2025年に省が観光地認定 |
| フーリエン村 | ランソン省 | 変更なし | ドンラム草原に隣接するタイ族・ザオ族のコミュニティ観光村 |
誰がどう位置づけているか
ベトナム国家観光局は、マンデン・ツリーハウスの手法を建築・滞在・自然体験の組み合わせと説明し、緑の森のなかに巧みに建てられた家々がマンデン固有の観光商品を作っていると評している。行政の側では、クアンガイ省人民委員会が推薦より先に、2025年8月21日付で同施設を観光地として認定する決定を出した。
報じたトゥオイチェ自身は、今回の選出をマンデンの緑の観光モデルを国内外の旅行者に広める機会だと書いている。国営ラジオVOVの英語版も同じ5ヶ所を伝え、結果の公表を2026年第4四半期としている。
選ぶ側の国連観光機関は、2025年の発表を「農村開発を牽引する52のコミュニティ」という枠で公表した。インフラと交通接続、文化・自然資源、環境の持続可能性を含む9分野で評価する仕組みで、集落の見た目の良さだけを競わせる賞ではない。
発表前のいまが、いちばん静かに歩ける
候補どまりの数ヶ月は、旅程を組む側には都合がいい。受賞しても行き方も入場料も変わらないが、露出だけが変わる。しかも今回の5ヶ所は、いずれも収容力が小さい。ロー村は宿泊施設72軒・459室、フーリエンは村の高床式家屋を使ったホームステイ、マンデンは樹上の客室で、団体が一度に押し寄せると成立しない規模だ。第4四半期の発表を待たずに動くほうが、同じ体験を静かに取れる。
顔ぶれの変化も見ておきたい。5ヶ所のうち4ヶ所は集落そのもの、あるいはコミュニティ運営の観光村だが、マンデン・ツリーハウスだけは1事業者が運営する商業施設で、省の観光地認定も2025年に受けたばかりだ。「村」の枠に、歴史ある集落ではなくあとから森に建てた滞在施設が入り始めている。農村観光の看板は、数百年の来歴がなくても、森を残す作り方で取りに行けるということでもある。メコン奥地でオウギヤシの森に泊まる村ツーリズム(オウギヤシの森に泊まる、メコン奥地バイヌイの村ツーリズム)と読み比べると、同じ農村滞在でも設計思想がまるで違うことが分かる。
食と農の側から見ると、ロー村の位置づけが効いてくる。カタクチイワシの魚醤づくり、網編み、水産加工が生業として残る漁村で、審査には地域経済への貢献やSDGsが含まれる。産地と組みたい日本の食品事業者にとって、この推薦リストは「対外的に説明できる産地」の短いリストとして使える。マンデンの周辺にはコンカーキンのように保護林を観光に開き始めた土地もあり(絶滅危惧のサルに会える森、ジアライ新観光地コンカーキン)、中部高原は森を資源として売る方向に寄っている。
ランソンとダナンが「2本目」を出してきた
省ごとの動きを追うと、この賞の使われ方が見えてくる。ランソン省は2025年にクインソンで受賞したうえで、2026年はフーリエンを出した。1ヶ所目の受賞を、2ヶ所目の申請に回している。
ダナン市はもっと分かりやすい。2024年に受賞したチャークエは旧クアンナム省ホイアンの野菜村で、2025年の統合によってダナン市の実績になった。そのダナン市が、同じホイアン域内のバイマウ椰子林カムタインを2026年に推薦している。省の統合で受賞地を引き継いだ都市が、隣接する集落をもう1本出す。単発の栄誉ではなく域内で横展開する枠として使う動きが、今年の推薦リストからは読み取れる。
行き方と費用(1円=約162VND換算)
| Location | アクセスの目安 | Cost |
|---|---|---|
| マンデン・ツリーハウス | クアンガイ省マンデン社スー・ヴァン・ハイン通り1番地。プレイク空港から約100〜130km、車で約2〜2.5時間 | 宿泊料金・予約方法は原文に記載なし。施設へ直接確認 |
| Cat Cat village | ラオカイ省サパ | 大人150,000VND(約930円)/身長1〜1.4mの子ども70,000VND(約430円)/1m未満無料 |
| バイマウ椰子林カムタイン | ダナン市カムタイン(ホイアン旧市街の郊外) | 入場30,000VND(約190円)+舟形かご200,000VND/艇(約1,230円・2名) |
| フーリエン村・ドンラム草原 | ランソン省フーリエン社。ハノイから約120〜150km(媒体により差) | 高床式ホームステイあり(統一された公表料金は確認できず) |
| ロー村 | ダクラク省ホアヒエップ坊の海沿い。ロー1〜3の3地区 | 宿泊施設72軒・459室 |
マンデンは標高およそ1,200mの高原で、年間を通して18〜22℃前後という涼しさが売りになっている。最寄りの空の玄関はプレイク空港で、そこから車で山を上がる。ハノイやホーチミンから日帰りで寄れる場所ではないので、2泊は見ておきたい。
Summary
やることは3つに絞れる。第一に、候補と受賞を混同しないこと。取材でも社内資料でも、2026年第4四半期の公表までは「推薦・候補」と書く。第二に、5ヶ所を調べるときは旧省名でも検索する。フーイエン、クアンナム、コントゥムの3語を足すだけで、出てくる交通・宿情報の量が変わる。第三に、行くなら発表前に日程を押さえる。宿の総数が二桁から三桁前半という規模の場所ばかりで、話題になってからでは選択肢が消える。
特にマンデンは、雨季を外した乾季の朝の冷え込みが本領で、プレイク発の移動時間を含めて2泊3日を組むのが現実的だ。旅行会社に依頼する場合も、「Kon Tum Măng Đen」で伝えたほうが行程がすぐ出てくる。
Sources:Tuổi Trẻ/Tuổi Trẻ(làng Lò)/VOV World/UN Tourism/ベトナム国家観光局/VnExpress/VietnamPlus/ホアヒエップ坊人民委員会/Mia.vn/VinWonders
