ホーチミンのタオディエン(Thảo Điền)を歩くたびに、街がどんどん入れ替わっていくのを感じます。日本でいえば表参道のような、おしゃれな店や欧米系のショップが並ぶエリアなのですが、この半年から1年のあいだに、とくにスントゥイ通り(Xuân Thủy)を中心として大きく顔を変えています。
この記事は、私が実際にこの街を歩いて見てきた変化を綴るコラムです。ガイドブックにはまだ載っていない、「いま起きている入れ替わり」を、現地の目線でお伝えします。
タオディエンという街——ホーチミンの”表参道”
タオディエンは、ホーチミン中心部の1区からサイゴン川を渡った東側にあります。以前は2区と呼ばれ、いまはトゥードゥック市(TP. Thủ Đức)の一部にあたる地区です。欧米系の駐在員が多く暮らす高級エリアで、センスのいいカフェやレストラン、ショップが集まっています。その洗練された空気は、たしかに日本の表参道を思わせます。
ただ、この街の面白さは「おしゃれ一色」ではないところにありました。10年ほど前まで、タオディエンは本当にローカルな土地だったのです。だからつい最近まで、欧米系の洗練された店と、昔ながらのローカルの食堂や商店が、同じ通りに肩を並べていました。その混ざり具合こそが、タオディエンらしさでした。
サイゴン川を渡るだけで、ホーチミンの喧騒が少しやわらぎます。バイクの波が引き、街路樹の下におしゃれなカフェが点在する——1区とは違う、ゆったりした時間が流れているのがこの街です。その落ち着きに惹かれて、欧米系の駐在員や、感度の高いベトナムの人たちが集まってきました。
通りを歩くと、ブランチの人気カフェ、輸入食材の店、ヨガスタジオ、インターナショナルスクールの送り迎えの車——「暮らしの場」としての国際色が、そこかしこに見えます。観光地というより、”住む人のためのおしゃれな街”。それがタオディエンの素顔だと思います。
スントゥイ通りで起きている「入れ替わり」
ところが、その混在がこの半年から1年で急速に崩れ始めています。もともとあったローカルの店が次々と閉店し、新しい店へと生まれ変わっているのです。とくにスントゥイ通りは、その変化がはっきり見えます。
長くスントゥイ通りにあった人気のピザ店(Pizza 4P’s)も姿を消し、別の場所へ移ったと聞きます。日本式の焼肉店なども、閉店したり移転したりしています。かわりに増えているのが、韓国系の焼肉店やクラフトビールの店。一つの通りのなかで、これほど短期間に顔ぶれが入れ替わるのは、正直なところ驚くほどのスピードです。
| かつて(〜10年前) | いま(この半年〜1年) | |
|---|---|---|
| 通りの性格 | ローカルの土地に欧米系が混ざる | 欧米系+韓国系が主役、ローカルは減少 |
| スントゥイ通り | ローカル食堂+人気ピザ店+日本式焼肉など | 韓国系焼肉・クラフトビールなどへ入れ替わり |
| ヘム(路地裏) | 静かなローカルの生活圏 | 韓国・欧米系の店が奥まで進出 |
| 食の傾向 | ローカル+欧米 | フュージョン(日×越・韓)が中心 |
| 家賃・地価 | 比較的手頃な新興エリア | 上昇傾向 |
とくに目を引くのが、韓国系の存在感です。焼肉にクラフトビール、カフェ——ホーチミンでは韓国発の店が街の顔を変えつつありますが、その波がタオディエンにもはっきり届いています。欧米系が敷いた”おしゃれな下地”の上に、今度は韓国系が新しい層を重ねている、という印象です。
背景には、この街の需要そのものが変わってきたことがあると思います。欧米系の駐在員に加えて、ホーチミンで暮らす韓国系のコミュニティや、外食にお金をかけるベトナムの若い層が増えている。その新しい客層に合わせて、店の側も入れ替わっていく——そんな循環が回っているように見えます。入れ替わりが激しいのは、それだけこの街にお金と人の動きが集まっている証拠なのかもしれません。
ヘム(路地裏)にも、変化の波が及んでいる
この変化は、表通りだけの話ではありません。タオディエンにはヘム(hẻm)と呼ばれる細い路地が網の目のように広がっているのですが、その路地裏の奥にも、韓国系や欧米系の新しい店が進出し始めています。
反対に、ローカル系の店舗は少しずつ減っている印象です。路地の奥まで新しい店が入ってくるということは、それだけこのエリアの家賃や地価が上がっているのだろう、と感じます。静かだったヘムが、少しずつ”見つけられる場所”に変わってきているのです。
ヘムのおもしろさは、表通りから一本入るだけで景色ががらりと変わるところにあります。洗練された路面店の裏に、生活感のある路地と新しい隠れ家のような店が同居している——その二重構造こそ、いまのタオディエンを歩く楽しさだと思います。ただ、その”隠れ家感”も、入れ替わりのスピードを考えると、長くは続かないのかもしれません。
食は「純日本」より「フュージョン」
もう一つ、タオディエンならではの特徴があります。この街には欧米人が多く、加えてベトナムの比較的富裕な層も集まります。その顧客層を反映してか、飲食店の傾向にも独特の色があります。
たとえば日本食でも、「純粋な日本料理」というより、日本とベトナムを掛け合わせたフュージョン、あるいは韓国料理やフュージョン系のベトナム料理が目立ちます。「本場そのままの味」よりも、「洗練された、混ざり合った味」が好まれる——そんな土地柄が、店のラインナップにも表れています。
この街でフュージョンが根づくのは、考えてみれば自然な成り行きに見えます。欧米の人にとっては本国の味の再現より新しい体験が魅力になり、ベトナムの富裕層にとっては見慣れたローカルより一歩先の食が刺さる。異なる期待が同じ通りで交わるからこそ、「混ざり合った味」がちょうどいい居場所を見つけるのだと思います。
この街に通っていて一番実感するのは、変化のスピードです。数か月前に入った店がもうなくなっていたり、前に通ったときはローカルの食堂だった場所が、気づけば韓国系の焼肉店になっていたり。おしゃれなエリアが完成しているのではなく、”ちょうどいま書き換えられている途中”なのが、いまのタオディエンだと感じます。洗練とローカルが混ざっていた時期の空気を知っているだけに、その混ざり物が急速に整理されていくのを、少し寂しく、けれど興味深く眺めています。
これからのタオディエン——観光は1区、でも次はここか
ホーチミン観光の主流は、いまも1区です。ベンタイン市場やドンコイ通り、統一会堂といったおなじみのスポットは、たしかに1区に集まっています。でも、タオディエンでこれだけ都市開発と店の入れ替わりが進んでいるのを見ると、「次に来るのはここかもしれない」と思わずにいられません。
いまは欧米系が中心のエリアですが、ヘムの奥まで店が広がっていけば、もっと大きな面として観光客を惹きつけるはずです。1区の王道を回ったあと、サイゴン川を渡ってタオディエンまで足を延ばすと、「次のホーチミン」の空気をひと足先に感じられると思います。ただし変化が速いぶん、見かけて気になった店は、その日のうちにのぞいておくのがおすすめです。
具体的な歩き方としては、まずスントゥイ通りをぶらりと歩いて、気になったカフェや飲食店に入ってみるのがいいと思います。そこから一本ヘムに入ると、表通りとは違う顔が見えてきます。移動は1区からGrab(配車)で20〜30分ほど。夕方から夜にかけては、クラフトビールや焼肉の店が賑わい始めるので、散歩は昼、食事とお酒は夕方以降、と時間帯で分けると回りやすいです。
Frequently asked questions
- タオディエンはホーチミンのどこにありますか?
-
ホーチミン中心部の1区からサイゴン川を渡った東側で、以前の2区、現在はトゥードゥック市(TP. Thủ Đức)の一部にあたります。中心部からタクシーやGrabで20〜30分ほどです。
- タオディエンはどんな街ですか?
-
欧米系の駐在員が多く暮らす高級エリアで、おしゃれなカフェやレストラン、ショップが集まる、ホーチミンの”表参道”のような場所です。10年ほど前まではローカルな土地で、いまも洗練とローカルが混ざり合っています。
- スントゥイ通りには何がありますか?
-
おしゃれな飲食店が集まる通りです。ここ数年は店の入れ替わりが激しく、韓国系の焼肉店やクラフトビールの店などが新しく増えています。ローカルの店は少しずつ姿を消しつつあります。
- タオディエンで日本料理は食べられますか?
-
食べられますが、純粋な日本料理というより、日本×ベトナムのフュージョンや、韓国料理・フュージョン系のベトナム料理が目立つ印象です。欧米人やベトナムの富裕層が多い土地柄が、味の傾向にも表れています。
