ベトナム中部クアンチ省キムフー社のタンホア村で、住民が家の下のドラム缶を1本ずつ点検している。雨と台風の季節に入る前の作業で、壊れたドラム缶を替え、家を受け止める4本の柱のぐらつきも確かめる。ここでは家が水位と一緒に上下する。逃げるための設備ではなく、水が来ている間も寝起きして商売を続けるための家だ。トゥオイチェー紙が2026年9月24日に伝えた。
ドラム缶15〜30本と高さ20mの柱で、家は水と一緒に上下する
2010年に屋根まで沈み、住民は山の洞窟へ逃げた
コーリエム集落のカオ・ヴァン・ドゥオンさんは、2010年の洪水で村の多くの家が屋根まで沈み、住民は山の洞窟に逃げて命をつないだと話している。その後、住民は浮く家を考え始めた。最初はただのいかだで、のちに屋根と壁をつけ、水が上がっている間も住める形になった、というのが本人の説明だ。
ロープで縛らず、「チュン」と呼ぶ4本の柱で受け止める
構造は住民自身の設計による。床下にドラム缶を15〜30本、偏らないよう均等に配置して浮力をつくる。室内の荷物も四隅に振り分け、浮いたときに傾かないようにする。おもしろいのは係留で、ふつうのいかだのようにロープで固定しない。四隅に立てた柱の内側に家を収め、水が上がれば家はその柱に沿って滑り上がる。流れに持っていかれることもない。住民はこの柱を「チュン」と呼び、高さは約20mある。木の柱を鉄柱に替えた家も、電柱を使って強度を上げた家もある。
650戸が浮き家を持ち、12世帯はそれを宿にしている
722戸のうち650戸、深く浸かる区域は100%が持っている
キムフー社人民委員会のホアン・タイン・ビン副委員長によれば、タンホア観光村の722戸のうち650戸が洪水対策の浮き家を持ち、深く浸水する区域の世帯は100%が保有している。トゥオイチェー紙は「浸水が2.5〜3mになる状況での安全を確保する」と記している。一方、村の公式サイトは増水が毎年10月と11月に起き、水位が最大12mに達する年があると書いている。この幅は小さくないので、訪れるなら「浮き家があるから平気」と一般化せず、その日の判断は運営側の指示に従うのが前提になる。
| Item | Figures | Source |
|---|---|---|
| 浮き家のある世帯 | 650戸/722戸 | トゥオイチェー紙 |
| 床下のドラム缶 | 15〜30本 | トゥオイチェー紙 |
| 「チュン」柱の高さ | 約20m | トゥオイチェー紙 |
| 浮き家が安全を確保する浸水 | 2.5〜3m | トゥオイチェー紙 |
| 増水の時期と最大水位 | 毎年10月・11月/最大12m | tanhoavillage.com |
| 自分の浮き家を宿にする世帯 | 12世帯(オクサリス社と連携) | トゥオイチェー紙 |
| 庭に新築された宿泊用の浮き家 | 10棟 | Tú Làn Lodge |
| 村の面積・人口 | 72.4km²・3,355人 | tanhoavillage.com |
| 2022年の来訪者 | 8,001人 | UN Tourism |
商店ごと浮かせれば、増水中も売り場が閉まらない
チュオン・ティ・アイン・ダオさんは約30m²の浮き家を雑貨店として使っている。財産も商品も浮き家に置いてあるから安心で、雨と洪水の季節も普段どおり商売ができる、と話す。避難所は入った瞬間に収入が止まるが、浮いた店は水の上で営業日が続く。ビン副委員長も、以前のタンホアは農業と畜産が中心で、雨と洪水の季節のたびに「手ぶらになる」危険と向き合っていたと振り返る。浮き家は避難用から、ホームステイ・店舗・観光サービスの器へ役割が広がった。
ガイドブックの「クアンビン省」表記は、もう住所として合っていない
2025年7月1日にクアンビンはクアンチへ統合された
タンホア村の住所は、資料によって省名が食い違う。冒険ツアー会社オクサリスは、2025年7月1日付でクアンビン省がクアンチ省に統合されたと案内している。フォンニャ=ケバンという地名は残るが、行政上の住所は変わった。キムフー社の電子ポータルも「クアンチ省キムフー社」として運用され、タンホア観光村の記事を載せている。
UN Tourismの登録住所は旧県名のままになっている
タンホア村は2023年10月19日、UN Tourism(国連世界観光機関)の「ベストツーリズムビレッジ」に選ばれた。トゥオイチェー紙はこれを「世界で最も良い観光村」と書いているが、この制度は毎年複数の村を選ぶもので、村の公式サイトもオクサリスの英語ページも「2023年の選定村のひとつ」と記している。UN Tourism側の村紹介ページの連絡先は、いまも「Tân Hoá, Minh Hoa District, Quang Binh Province」のままだ。住所欄で迷ったら、宿の予約確認書の表記に合わせるのが安全だ。
「逃げる」を「浮いたまま働く」に置き換えると、何が変わるのか
守る対象が建物から生業に移っている
日本の水害対策は、高台移転・かさ上げ・早期避難という「水から離れる」方向に強い。タンホアはその逆で、水の上に乗って生活を続ける。堤防でもポンプでもなく、ドラム缶と柱という部品だけで成り立っている。守る対象も違う。日本は建物と人命が中心だが、ここでは雑貨店の在庫や宿の稼働という生業が同じ重さで扱われている。
泊まれる浮き家は2種類あり、650戸すべてが宿ではない
宿の枠組みは2つに分かれている。トゥオイチェー紙が挙げる12世帯は、自分たちの浮き家をホームステイとして貸し出している世帯だ。もう一方の「ルーラル・ホームステイ」は、オクサリスが1棟あたり1億5,000万ドン(ベトコムバンク2026年9月25日の送金レート1円=159.64ドンで換算して約94万円)を家主に出す返済不要の出資契約で、地元世帯の庭に新築した浮き家10棟を指す。出資はオクサリス、運営はトゥーラン・ロッジ、庭と家主は地元という分担だ。ビン副委員長は12世帯のホームステイが住民に相当の収入をもたらしていると話しているが、650戸が宿になっているわけではない。
「コンクリート化を抑える」と行政が先に言っている
ビン副委員長は今後の方針として、天候に適応する観光モデルを続けること、住民と観光客の安全を確保すること、タンホアの景観と独自性を守ってコンクリート化を抑えること、地元住民の役割を高めることを挙げている。観光地化で先に失われがちな景観と住民の主導権を、行政側が先に口にしている。UN Tourismの村紹介ページも、村とオクサリスが安全・保全・住民参加の3原則を置き、「地域参加」から「地域所有」へ移ってきたと記している。
増水期に当てるか外すか、料金と受け入れ条件はこうなっている
宿とツアーの料金
円換算はベトコムバンクが2026年9月25日に公表した送金レート(1円=159.64ドン)で計算した目安で、レートは日々動く。2日1泊パッケージはオクサリスの告知によれば2026年11月15日から6,300,000ドン(約39,000円)に上がるので、増水期の後半に日程を置くならこの価格になる。
| Menu | Local price | Approximate yen conversion | Details |
|---|---|---|---|
| ルーラル・ホームステイ | 920,000ドン/泊〜 | 約5,800円〜 | 26〜40m²・1〜3人・朝食込み |
| タンホア村1日ツアー | 1,100,000ドン/人 | 約6,900円 | 6〜70歳・自転車と洞窟歩き |
| タンホア村2日1泊パッケージ | 6,100,000ドン/人 | 約38,000円 | ドンホイ発着の送迎込み |
| フォンニャ⇔ドンホイ送迎 | 650,000ドン/片道 | 約4,100円 | 7人乗り1台 |
行く時期と足の組み方
入口はドンホイで、フォンニャ=ケバン国立公園はその西約45kmにある。タンホアへはドンホイかフォンニャから車で入る。村の公式サイトが増水期を10月と11月としているので、浮き家が実際に浮く光景を見たいならこの時期、乾いた谷を自転車で走りたいならそれ以外、と目的で分かれる。同じ増水でも、南部メコンデルタの水が満ちる季節に小舟で回る冠水景色は水位も性格も別物で、タンホアの水は生活を止めにくる水だ。9月の中部高原まで足を延ばすならマンデンの茶畑を紫に染めるムア花が見頃を迎えている。
予約前に確かめておきたいこと
- ルーラル・ホームステイは26〜40m²・1〜3人向けで10棟のみ
- チェックイン14時、チェックアウト12時(トゥーラン・ロッジ)
- 1日ツアーは6〜70歳が対象で、洞窟歩きと自転車を含む
- 増水期の行程変更や中止の判断は運営側が出すので、日程に余裕を持たせる
まずは1日ツアーの空き日程を見て、増水期の前後どちらに置くか決める
タンホアは、水害に強い村と観光で食える村を、同じ1棟の浮き家の上でつくっている。ドラム缶と柱で家を浮かせ、その家に客を泊め、洞窟と自転車を売る。高台移転や堤防に頼らない代わりに、住民が自分で点検し続けることが条件になる。いま村で進んでいるのは、その点検の作業だ。
日本から向かうなら、最初の一手はオクサリスの1日ツアー(1,100,000ドン、約6,900円)の空き日程を開き、10〜11月の増水期に当てるか、乾いた季節に外すかを先に決めることだ。ここが決まれば、ドンホイ発着の航空券も送迎も後から組める。混雑を避けて静けさを優先する組み方は、北フーコックでのスロー滞在と同じ考え方で機能する。


