ホーチミン市の東の端にあるカットライの渡し場に、橋が架かる。2026年7月26日、ベトナム紙トゥオイチェが「ホーチミン東部からドンナイへ延びる発展軸をつなぐ」という切り口でカットライ橋(cầu Cát Lái)を特集し、総延長11.6km超・8車線・総事業費24兆30億ドン(1円=約162VNDで約1,480億円)という輪郭を改めて示した。起工式にあたる動土式は2026年1月15日に済んでおり、6月にはドンナイ市人民評議会が事業費の増額を議決している。ただし、いつ渡れるようになるのかは固まっていない。2025年9月にドンナイ省側が「2028年供用」を目標に挙げて以降、この年次は再確認されていない。ホーチミン東部に住む人、ニョンチャック(Nhơn Trạch)へ通う駐在員、年末開港のロンタイン空港を使う旅行者に向けて、確定した話と未確定の話を切り分けておく。
トゥオイチェが示したのは、橋の輪郭だけだった
同紙の記事は、いま渡し船が発着している場所にそのまま橋を架け、ホーチミン市側ではグエン・ティ・ディン通り(đường Nguyễn Thị Định)に直結させ、ヴォー・チー・コン通り(Võ Chí Công)やミー・トゥイ(Mỹ Thủy)ロータリー方面へ抜ける、と書いている。現状については、毎日延べ数万の人と車がカットライの渡し場を行き来し、ピーク時や祝祭日には川を渡るための車列が数キロに伸びる、と描写した。
注意しておきたいのは、この記事に関係者の発言引用が一つも出てこないことだ。橋の効果を語る部分はすべて同紙の地の文で、住民や行政担当者の肉声はない。渡し船をいつまで運航するのかにも触れていない。
川の名前の表記も揺れている。トゥオイチェはソアイラップ川(sông Soài Rạp)と書く箇所とドンナイ川(sông Đồng Nai)と書く箇所が混在し、タインニエン紙とサイゴン解放紙はドンナイ川で統一している。バオラムドンにいたっては、用地の説明でサイゴン川(sông Sài Gòn)の岸と書く。
30年温められた計画が、1月の動土式まで来た
トゥオイチェの囲み記事は、この事業が提案されてから30年以上が経っていると記す。実際に形が見えたのは2026年に入ってからで、1月15日午前、ドンナイ省人民委員会がカットライ橋とロンフン橋(ドンナイ2橋)の動土式を挙行した。タインニエン紙によれば、式にはマイ・ヴァン・チン副首相とドンナイ省党委書記のヴー・ホン・ヴァン氏、ホーチミン市人民委員会の代表らが出席し、副首相は両地方の連携を評価したうえで、工程と品質を確保して早期に同期的な実施を進めるよう求めた、と同紙は要約している。式典での発言は、確認できた記事に逐語の引用として載っていない。
この時点で示されていた概算事業費は18兆3,000億ドン弱(約1,130億円)。それが6月11日、ドンナイ市人民評議会の第2回臨時会期で、PPP(官民連携)方式による投資方針の調整として議決され、20兆6,000億ドン超から24兆30億ドン超へ引き上げられた。増額の大半は用地まわりで、補償・支援・再定住の費用が2兆9,000億ドン超(約179億円)から4兆4,000億ドン超(約272億円)へ膨らんでいる。理由としてサイゴン解放紙が挙げているのは、選定された建築案の反映と、ホーチミン市側のインフラとの整合を取ったことだ。
資金の組み方も出ている。事業は二つに分割され、ドンナイ側の用地取得と接続道路の建設が9兆ドン超(約556億円)で公的資金、本橋と両端の取付橋が15兆ドン弱(約920億円)でPPPとなる。この9兆ドン超をバオラムドンはドンナイ側の予算と書いており、中央政府の負担とは限らない。金額比では投資家側が62%超、国家側が38%弱。契約類型はBT(建設・移管)で、投資家への支払いは公有地の入札収入または公共投資資金を充てるとタインニエン紙が伝えている。事業を提案しているのはベトナム建設総公社第1(CC1)だと報じられた。
数字で追うカットライ橋
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 総延長 | 約11.6km(うち渡河部は約4km、別紙は約4.7kmと表記) | トゥオイチェ/バオラムドン |
| 車線 | 8車線(自動車6+軽車両2) | トゥオイチェ/タインニエン |
| 設計速度 | 80km/h | タインニエン |
| 起点 | グエン・ティ・ディン通り上、ミー・トゥイ交差点から約400m(ホーチミン市カットライ坊) | タインニエン |
| 終点 | ベンルック=ロンタイン高速に接続(ドンナイ省ダイフオック社) | タインニエン/トゥオイチェ |
| 総事業費 | 24兆30億ドン超(約1,480億円)/改定前は20兆6,000億ドン超 | サイゴン解放紙/トゥオイチェ |
| 用地面積 | 約127ha(ドンナイ121ha超、ホーチミン市約5.2ha) | サイゴン解放紙 |
| 方式 | PPP・BT契約、投資家選定は「特別な場合」扱い | タインニエン/サイゴン解放紙 |
| 動土式 | 2026年1月15日に実施 | タインニエン/トゥオイチェ |
| 完成・供用時期 | 2025年9月に「2028年供用」を目標として表明。以降の議決・報道では再確認なし | ドアンニャン・サイゴン |
換算は1円=約162VND。増額分の3兆3,890億ドンは約209億円にあたる。本体の6割超を民間資金でまかなう組み立てになっている。
「8月19日」と「第2四半期」、日付だけが揃っていない
スケジュールの表記は媒体をまたぐと合わない。バオラムドンは6月の議決を受けて、本格着工(khởi công)は2026年第2四半期の予定と書いた。ところが7月26日のトゥオイチェの囲みは「8月19日に動土の予定」と記している。1月15日に動土式が行われたという1月の報道と並べると、この日付は整合しない。
どれが正しいか決める材料はないので、着工の段取りはまだ流動的だと受け止めるのが安全だ。開通年についても、2025年9月9日の作業会合でドンナイ省人民委員会のホー・ヴァン・ハー副主席が「2026年着工・2028年供用」を目標として述べた(ドアンニャン・サイゴン紙)以外に、公表された数字はない。この目標は動土式より前のもので、その後の増額議決を経たいまも改めて示されていない。不動産の広告で「◯年開通予定」を見かけたら、出所がこの2025年9月の目標なのかどうかを確かめたい。
公表されている立場を、そのまま並べてみる
何を誰が決めたのかは、記事を横断すると整理できる。まずドンナイ市人民評議会は、6月11日の会期で投資方針の調整を議決した当事者だ。金額を上げる判断を下したのはここになる。
次にホーチミン市人民委員会は、二つの行政区にまたがるこの事業について、ドンナイ側を事業実施の権限機関とすることに同意する決議案を市人民議会に諮ったとトゥオイチェが1月に報じている。橋の半分はホーチミン市側にあるが、手綱はドンナイが握る構図だ。
三つ目がマイ・ヴァン・チン副首相で、動土式では両地方の協調を評価し、工程と品質の確保を求めたとタインニエン紙が伝える。同紙は2025年12月10日の別記事で、ロンタイン空港を効果的に活用するという緊急性から、この事業では「特別な場合」として投資家を選定することがドンナイ省人民評議会で認められた、とも報じている。
四つ目は事業提案者のCC1。バオラムドンは同社を提案主体として名指ししている。そして媒体側の評価としては、同紙が「フランス統治期から続いてきた渡し場の役割が終わる」と書いている。逆に、渡し船の利用者や周辺で商売をする人の声は、確認した記事のどれにも載っていない。
橋が架かっても、東部の詰まりが自動で解けるわけではない
起点がミー・トゥイ交差点から約400mという設計は、地図を知る人ほど引っかかる。ミー・トゥイはカットライ港の貨物が集中する交差点で、渡し待ちの列とはまったく別の理由で詰まる場所である。橋は川を渡る待ち時間をゼロにするが、降りた先の交差点処理が変わらなければ、渡し場の行列が交差点手前の行列に置き換わるだけになりかねない。トゥオイチェの記事も、この橋を環状3号線や港湾連絡道と束ねて語っており、周辺工事が揃って初めて効くという書き方だ。
もう一つの前提が、終点をベンルック=ロンタイン高速に直結させる設計だ。つまりこの橋の使い勝手は、高速側の供用状況に強く縛られる。年末に開く新空港へのアクセスは道路群が一斉に動いている段階で(年末開港のロンタイン空港へ、4.56億ドルの道路が一斉着工)、旅行者の実務としては、当面ホーチミン中心部から空港へ向かう主動線はホーチミン=ロンタイン=ザウザイ高速のままだと考えておきたい。二つの空港の使い分けも、まだ整理の途中にある(巨大空港ロンタイン12/1開業、SGNとどう使い分ける?)。
在住者に効きそうなのは、8車線のうち2車線が軽車両用に確保されている点だ。設計速度80km/hの本線とは別にバイクが通れるため、渡し船に乗らずに対岸へ渡れる。
先に動いているのは、ニョンチャック側の土地の値段
橋そのものより早く数字が動いたのが用地だ。補償・支援・再定住の費用は約179億円相当から約272億円相当へ、半年ほどで1.5倍になった。用地面積も1月時点の約120haから約127haへ広がり、その内訳はドンナイ側が121ha超、ホーチミン市側は約5.2haにとどまる。費用も土地も、負担はほぼドンナイ側に寄っている。
バオラムドンは、用地が広がった具体的な場所として、リエンカン通り(đường Liên Cảng)や25C通りの交差点、サイゴン川の岸からリエンカン交差点の先までの区間を挙げている。住宅地というより、港湾どうしをつなぐ物流動線に重なる位置だ。地下鉄の駅前に開発余地が設定される話は各所で進んでいるが(ホーチミン地下鉄2号線、駅前940haを5つの新都市に)、カットライで先に動くのは住宅ではなく、倉庫と工場のほうになる公算が大きい。
ニョンチャックに製造や物流の拠点を持つ日本企業なら、開通より先に用地取得と接続道路の工事で通行環境が変わる。ドンナイ市の議決文書と工事公告を追っておきたい。
いま判断材料にできること、できないこと
| 論点 | 現時点の状態 | 実務上の扱い |
|---|---|---|
| 橋の位置と接続先 | 公表済み(カットライ坊〜ダイフオック社、ベンルック=ロンタイン高速に接続) | 拠点選びの検討材料にできる |
| 規模・車線・設計速度 | 公表済み(8車線・80km/h・軽車両2車線) | バイク通行を前提にできる |
| 総事業費と資金構成 | 公表済み(24兆30億ドン超、投資家62%超・国家38%弱) | 事業の後戻りしにくさの目安 |
| 本格着工の時期 | 報道が割れている(第2四半期/8月19日) | 日付を前提にした計画は組まない |
| 完成・開通の時期 | 2028年供用の目標が2025年9月に示されたのみ | 確定値として扱わず、出所を確認する |
| 渡し船の運航終了 | 記載なし | 当面はフェリー前提で移動を組む |
| 通行料の有無・金額 | 記載なし | 費用試算には入れない |
| 用地取得の進み方 | 費用と面積の改定のみ公表 | ドンナイ市の議決を継続確認 |
2026年内にホーチミン市とニョンチャックを行き来するなら、移動計画は渡し船かホーチミン=ロンタイン=ザウザイ高速の二択になる。橋を当てにした行程はまだ立てられない。
まとめ
カットライ橋でいま確定しているのは、位置と規模と金と事業方式であり、時間だけが目標のまま固まっていない。この空白を埋めずに「もうすぐ橋ができる」と話が進むと、賃貸や拠点移転の判断が数年ずれる。まず移動の計画を渡し船と高速の前提で立て直す。次にニョンチャック方面に用がある企業なら、ドンナイ市人民評議会の議決と工事情報を四半期ごとに確認する。三つ目に、開通時期を含む広告表現に出会ったら、根拠となる決議や公告を突き合わせる。
参照元:Tuổi Trẻ/Tuổi Trẻ(動土式)/Thanh Niên/Sài Gòn Giải Phóng/Báo Lâm Đồng/Thanh Niên(投資家選定)/Doanh Nhân Sài Gòn
