ハノイとハイフォンを結ぶ観光列車「ホアフオンドー」(Hoa Phuong Do、ハイフォンの市花である鳳凰木の赤い花)が、2025年5月10日の運行開始から約3,000本を走らせ、約133万人を運んだ。VietnamPlusが7月22日に報じた。1日4往復で、平日は2,500〜3,000人、週末と祝日は5,500〜6,000人が乗るという。ハノイ〜ハイフォンは高速道路5B号(105.5km)を走るリムジンバスなら実走1時間半〜2時間、市内送迎を含めると2〜3時間の区間で、鉄道は2時間半かかる。それでも席が埋まる理由と、在住者や出張者が実際に使えるのかを、公表されている数字だけで確かめていく。
133万人は「開業から1年ぶんの累計」
最初に数字の期間を押さえておきたい。約133万人・約3,000本は、2025年5月10日の運行開始から2026年5月10日の1周年までに積み上がった累計である。鉄道専門メディアのRailway.Supplyが1周年に合わせて伝えた数字と、VietnamPlusが7月22日に「2025年5月の就役以来」として挙げた数字は一致している。毎年133万人ずつ上乗せされている、という読み方はできない。
車両はベトナム鉄道公社(VNR)が2025年5月5日の告知で示したとおり新造20両で、座席は3区分。34席のVIP車、180度回転する座席を備えた56席の一等車、64席の普通車が、HP1/HP2、LP5/LP6、LP2/LP3、LP7/LP8として走る。ハイフォン鉄道運輸支社のTran Van Hanh支社長は、ハイフォンから着想した内装に加え、バス、バイクレンタル、市内ツアー、デジタル観光地図を車内のQRコードから使えるようにしたと説明している。同支社によれば、ハノイ〜ハイフォン線の収入は2026年上半期に前年同期比15%伸びた。
高速道路のバスと数十分差、それでも鉄道が選ばれている
鉄道のハノイ〜ハイフォン線は102km、並走する高速道路5B号は105.5km。予約サイトの運賃案内では、リムジンバスは早朝5時台から21時台まで1時間おきに出発し、高速道路経由の実走で1時間半から2時間、市内の送迎を含めると2〜3時間、相場は220,000〜250,000ドン(約1,360〜1,540円)とされる。戸口まで運んでくれる手軽さではバスに分があるが、時間差は条件次第で30分から1時間ほどまで縮む。
それでも列車に人が流れているのは、勝負している軸が違うからだ。渋滞に左右されない到着時刻、動き回れる車内、そして運賃の下限。ベトナム鉄道は2026年6月15日から8月16日まで平日運賃を10%引きにし、さらにAIによる変動価格を入れて、残った短い区間で約20〜25%引きを出している(ハノイモイ 6月15日)。バスの相場が固定的なのに対し、鉄道は「安い日と高い日」を作れる。ここが観光需要と平日需要を同じ車両で拾うための仕掛けになっている。
運賃と所要時間を並べる
| 手段・座席 | 所要時間 | 運賃(ドン) | 円換算(1円=約162ドン) |
|---|---|---|---|
| ホアフオンドー 一般席 | 約2時間25分〜2時間45分 | 120,000〜198,000 | 約740〜1,220円 |
| ホアフオンドー VIP車(34席) | 同上 | 300,000〜385,000 | 約1,850〜2,380円 |
| リムジンバス(相場) | 高速道路経由の実走約1時間30分〜2時間/送迎込み2〜3時間 | 220,000〜250,000 | 約1,360〜1,540円 |
運賃は2026年6月15日付ハノイモイの報道による現行帯。運行開始時のVNR告知ではVIP車が平日250,000ドン・週末300,000ドン、一等車が150,000ドン・180,000ドン、普通車が105,000ドン・130,000ドンだったので、1年で上振れしている。所要時間は複数の予約サイトが2時間25分〜2時間45分で揃っている。なお発車時刻は情報源によって食い違いがあり、正確な時刻は公式の予約サイトで確認したほうがいい。
支社長のコメント、決算、そして通勤列車の稼働率
この路線への評価は、立場の違う三方向から出ている。ひとつはTran Van Hanh支社長で、車両デザインと車内観光サービスの組み合わせを成果として語り、上半期の路線収入15%増を挙げた。
ふたつめはVNRの上半期決算。旅客は390万人で5.2%増、連結売上は5兆2,000億ドン超(約321億円)で4.1%増、税引後利益は1,800億ドン超(約11億円)と年間目標の151%に達した。輸送部門の売上は3兆ドン(約185億円)で8.8%増、貸切列車は13本の運行で160億ドン超(約9,900万円)。路線別ではハノイ〜ラオカイが27%増、ハノイ〜ダナンが12%増、ハノイ〜ハイフォンが12%超の増収だった(支社長の言う15%増とは集計の取り方が違う)。観光路線が全体を押し上げている構図がはっきり出ている。
三つめは需要側の実績で、これがいちばん面白い。ハイズオン〜ハイフォンで公務員向けに走らせた列車は9か月で400本弱・17万人超を運び、平均座席利用率が90%超。ハノイ〜フーリーではバクマイ病院の利用者向け列車が6月26日から動き出し、平日1本あたり約400人が乗っている。観光列車で単価を上げ、通勤・通院列車で稼働率を埋める。ホアフオンドーの133万人は、この二本立ての片翼として置くと意味が見えてくる。
在住者と出張者が実際に組むなら、どこを押さえるか
使いどころは平日にある。平日10%引きが効けば、一般席の下限120,000ドンは108,000ドン、約670円になる。同じ日にバスを取れば1,360円前後なので、差は700円ほど。金額そのものより、その差で座席の広さと定時性を買えるかどうかが判断軸になる。会議の時刻が決まっている出張なら、渋滞リスクを外せる鉄道のほうが読みやすい。ベトナム鉄道は夏場に別の割引も出しており、買い方のコツは以前まとめた(夏のベトナム鉄道が10%オフ、寝台旅を安くする買い方のコツ)。
気をつけたいのが発着駅だ。2025年9月時点の予約サイトの案内では、平日はHP1/HP2がハノイ駅発、LP3/LP5/LP7がロンビエン駅発で、週末は全便がハノイ駅発とされていた。ハノイ駅とロンビエン駅は市内で数キロ離れており、間違えると復旧が効かない。時刻表と同じく、予約画面に出る駅名をそのまま信じるのが安全だ。
団体で動くなら、月曜から木曜に適用される「3tang1」(4枚買って3枚分)と「6tang2」(8枚買って6枚分)が効く。ハノイモイによれば、これらの団体券は変更・払い戻し・他の割引との併用ができない。予定が動く出張には向かず、日程が固まった社員旅行や家族の移動向けの制度と考えたほうがいい。
到着後の足も先に決めておきたい。支社長の説明どおり車内のQRコードからバスやバイクレンタル、市内ツアーにつながるが、ハイフォンは駅から歩ける範囲に食が集まる街でもある。下町の粥屋がSNSで火がついた話は別記事で扱った(ムバッペ似のもつ粥店主、ハイフォン下町がバズる夜)。列車を昼前に取って、夕食までを街歩きに充てる組み方が現実的だろう。
ハイフォンが「通過点」から「起点」に変わりつつある
鉄道側が同じ発想を横展開しているのが、2026年3月に始まったフエ〜ダナンの遺産列車だ。1日2往復で、ランコーに観光のための特別停車を設け、ハイヴァン峠の眺望、車内の伝統音楽の生演奏、地方料理を組み込んだ。結果は旅客11%増に対して収入41%増。人の伸びより収入の伸びが4倍近いというのは、席を増やしたのではなく1席あたりの単価を上げたことを意味する。ホアフオンドーのVIP車も同じ発想の産物だ。VNRはさらに、フエ、クアンチー古城、ヴィンモックトンネル、フォンニャ=ケバン国立公園を結ぶ190kmのフエ〜ドンホイ路線を構想している。
ハイフォン側の変化も同じ方向を向く。2025年7月25日にはハイフォン発の直行便が新設され、北部からフーコックへの動線ができた(北部の空が広がる、ハイフォン発フーコック直行が7/25就航)。ハノイからの鉄道と空港が接続すれば、ハイフォンはハノイ発の日帰り先ではなく、旅程の起点になる。在住者にとっては「ノイバイ空港まで戻らずに済むかもしれない」という選択肢が増えたということだ。
乗る前に確認しておく項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 区間 | ハノイ〜ハイフォン(鉄道102km/並走する高速道路5B号は105.5km) |
| 列車名・列車番号 | ホアフオンドー/HP1・HP2、LP2・LP3、LP5・LP6、LP7・LP8 |
| 運行本数 | 1日4往復(週末・祝日は需要に応じて増結や増発) |
| 所要時間 | 約2時間25分〜2時間45分 |
| 座席 | VIP車34席/一等車56席(回転座席)/普通車64席 |
| 運賃 | 一般席120,000〜198,000ドン(約740〜1,220円)、VIP車300,000〜385,000ドン(約1,850〜2,380円) |
| 割引 | 2026年6月15日〜8月16日は平日10%引き。AI変動価格で残りの短区間は約20〜25%引き |
| 団体割引 | 月〜木「3tang1」4枚→3枚分、「6tang2」8枚→6枚分。変更・払い戻し・併用は不可 |
| 発着駅 | 平日はロンビエン駅発の便あり、週末はハノイ駅発とされる(2025年9月時点の案内)。予約時に駅名を必ず確認 |
| 車内サービス | QRコードからバス、バイクレンタル、市内ツアー、デジタル観光地図へ接続 |
| 発車時刻 | 情報源により記載が異なるため、公式の予約サイトで確認 |
まとめ
ホアフオンドーの133万人は、高速道路に負けた路線が観光需要で息を吹き返した記録ではない。運賃を日によって動かし、車内から先の移動まで売り、平日は通勤客で埋める。その総合技の結果が累計133万人であり、上半期の路線収入15%増だった。
次に北部を動く予定があるなら、手順は三つで足りる。まず日程を平日に寄せられないか見る。次に公式の予約サイトで発車時刻と発駅(ハノイ駅かロンビエン駅か)を実際の画面で確認する。最後に、繁忙期でなければ一般席で十分なので、浮いた分をハイフォンの食に回す。バスが1時間おきに出ている区間なので、列車を逃しても保険はある。その気楽さが、この路線で鉄道を試すいちばんの理由になる。
参照元:VietnamPlus/Việt Nam News/Hànộimới/ベトナム鉄道公社/Railway.Supply/Vexere/MOTOGO
