ベトナムの銀行アプリを使う人の間で、「7月30日から4桁では送金できなくなる」という話が回っている。発端はVPBankとVietinBankが個人顧客向けに出した告知で、根拠は国家銀行(NHNN)の通達50/2024/TT-NHNN第11条だ。ただ、動くのはSMSで届くOTPの桁数ではなく、Soft OTP/Smart OTPを起動するときに自分で入力するPINのほうにある。期日も銀行ごとに違い、VietinBankはすでに7月16日に切り替えを済ませている。ハノイやホーチミンで口座を持つ駐在員と、買い物用の口座をベトナムに残している出張者が、何をどこで直せばいいのかを、告知の原文と条文から確かめる。
二行の告知が「送金が止まる」に化けるまで
発端は、CafeFが2026年7月22日、Kenh14が7月24日に出したまとめ記事だ。VPBank NEOとVietinBank iPay Mobileの利用者に向けて、認証コードが最低6文字になり、有効期限が最長12か月になると伝えている。どちらも各行が顧客に出した告知の要約にあたる。
もとをたどると、告知は二本に分かれる。VietinBankはiPay MobileのSoft OTP PINを4桁から6桁へ引き上げると発表し、適用日は2026年7月16日。VPBankはVPBank NEOの個人顧客向けにSmart OTPの新ルールを2026年7月30日から適用すると告知した。7月30日という日付はVPBank側のもので、両行に共通する締切ではないし、ベトナムの全銀行に一斉に降りてくる期日でもない。
この二本が「VietinBankとVPBankの利用者は7月30日から送金が変わる」という一本の見出しに束ねられ、そこからさらに「4桁のOTPが使えなくなる」へ縮んだ。縮む過程で落ちたのが、どのコードの話なのかという肝心の部分だった。
直すのは届く番号ではなく、自分で決める番号
ベトナムの銀行アプリでは、認証が三層に分かれている。ひとつ目がアプリを開くためのログインパスワードや生体認証。ふたつ目がSoft OTP(Smart OTP)を起動するために入力するPIN。三つ目が、そのPINを入れた結果として画面に表示されるワンタイムコードだ。
今回動くのは、二つ目のPINにあたる。VietnamNetは、Soft OTPのアクティベーションコードは銀行が顧客に配布して端末での有効化にだけ使うものだと整理したうえで、PINと生成されるOTPを別物として扱っている。VietinBankの説明でも、Soft OTPは端末側で認証コードを生成する仕組みで、PINはその生成を許可する鍵という位置づけになる。
ここを取り違えると、対応が空振りする。SMSで届く番号は銀行が発行するもので、利用者が桁数を選べない。設定画面をいくら探しても「OTPの桁数」という項目は出てこない。開くべきはSoft OTPやSmart OTPの設定であって、SMS認証しか使っていない口座なら、今回の告知が直接指しているのは自分の使い方ではない。ただし、SMS認証で足りるかは銀行と取引の種類で変わる。自分の口座がどの方式で動いているかは各行の公式案内で確かめたい。
通達50/2024/TT-NHNN 第11条が置いた数字
各行の告知が共通してぶら下がっているのが、国家銀行が2024年10月31日に公布し、2025年1月1日に施行した通達50/2024/TT-NHNNだ。オンラインバンキングの安全・機密保持を定めたもので、適用対象は信用機関、外国銀行支店、決済仲介サービス提供者、信用情報会社に及ぶ。第11条が認証手段の要件を並べており、そこにPINの長さと有効期限が書かれている。
| 項目 | 通達50/2024/TT-NHNNが定める内容 |
|---|---|
| mã PIN(PIN)の長さ | 最低6文字(物理カードに付帯するPINは除く) |
| mã khóa bí mật(パスワード)の長さ | 最低8文字、数字・大文字・小文字を含む |
| 有効期限 | 最長12か月 |
| 初回に既定値として付与されたコード | 最長30日 |
| 公布日/施行日 | 2024年10月31日/2025年1月1日 |
| 適用対象 | 信用機関、外国銀行支店、決済仲介サービス提供者、信用情報会社 |
条文は「6桁」ではなく「最低6文字」と書いており、上限は示していない。そして12か月という有効期限は一度きりの話ではない。6桁に直した人も、同じコードを12か月使い続ければまた更新を求められる。今回の騒ぎは、施行から1年半かけて各行の実装がようやく個人顧客の画面に降りてきた、その最初の波にあたる。
各行の説明は食い違う──「取引できない」の射程
止まるのか止まらないのかは、見出しの付け方で温度が変わる。ただし公開されている両行の告知に、口座凍結を予告する文言はない。CafeFはVPBankの説明として、更新作業が電子バンキングの利用に影響しないという趣旨の文言を載せている。VPBankが2025年に同じPIN引き上げを案内したときも、更新が終わるまで実行できないのは「Smart OTPのPIN認証を求める取引」に限ると書かれていた。止まる射程はそこまでで、口座そのものや全取引ではない。両行が「全取引が停止する」と述べた告知は、公開されている範囲では見当たらない。
VietnamNetは、Soft OTPのPINを4桁から6桁に引き上げる動きについて、大半の銀行がすでに調整を済ませていると報じている。VietinBankとVPBankだけの話ではなく、業界横断の移行のうち告知が目立った二行、という読み方のほうが近い。An ninh Thủ đôやZnewsも7月16日のVietinBankの変更を一般向けに扱っている。裏を返すと、自分の使っている銀行がいつ切り替えるかは、各行の公式サイトとアプリ内通知で個別に見るしかない。
日本人利用者がつまずくのは桁数ではなく、再有効化のほうだ
6桁のPINを考えること自体は数十秒で終わる。実務で詰まるのは、その手前にある本人確認だ。
PINやパスワードの再設定は、ベトナムでは生体認証の対象になりやすい。国家銀行の決定2345/QĐ-NHNNは2024年7月1日から、1回1,000万VND(1円=約162VND換算で約6万2,000円、2026年7月時点)を超える送金、1日の累計が2,000万VND(約12万3,000円)を超える送金、アプリでの初回取引、直近と異なる端末での取引で顔認証を求めている。Soft OTPのPINを変えるためにアプリを別の端末に入れ直せば、この網に触れる。顔認証の登録でつまずく話は以前も扱ったが(顔認証しないと口座が止まる、ベトナム在住者の生体認証チェック)、外国人はチップ入りの国民身分証を持たないぶん、旅券のNFC読み取りや窓口での対面確認に回されやすい。
そこに時期の問題が重なる。夏に一時帰国する駐在員は、ベトナムのSIMを止めたまま日本で過ごすことがある。アクティベーションコードや確認のSMSはベトナムの番号に飛ぶので、日本にいる間に更新を求められると、番号を復活させるまで動けない。しばらくベトナムを離れる予定があるなら、離れる前にSoft OTPの設定を開いて6桁に直しておくほうが手数は少ない。
法人口座はもう一段ややこしい。代表者の生体情報に紐づく認証が入っており、代表者が国外にいる期間に期限が来ると送金が滞る構図は以前にも起きている(7月から法人送金に顔認証──ベトナムの会社口座、代表者不在で止まる日)。駐在員事務所や現地法人で経理を回しているなら、PINの12か月期限を代表者の出張予定と並べて置いておきたい。
もうひとつ、慌てなくていい人まで慌てているのが今回の特徴だ。ベトナムの制度変更は「全員が対象」という形で流通しやすく、実際には限定的だった例が続いている(「全員健康申告」は誤解でした──ベトナム入国、平時は何も不要)。今回も、告知が名指ししているのはSoft OTP/Smart OTPを使っている個人顧客であって、SMS認証だけで少額を動かしている旅行者の口座に7月30日を境に何かが起きる、という案内は両行から出ていない。
4桁の消滅が決済インフラに残すもの
通達50の適用対象には決済仲介サービス提供者も入っている。銀行アプリだけでなく、電子ウォレットの認証も同じ条文の下にある。屋台の支払いからライドシェアまでウォレットが入り込んでいるベトナムでは、4桁PINの廃止が生活の広い面に触れる。ただし各社の実装時期は個別で、期日が並べて公表されているわけではない。
12か月というローテーションが効いてくるのは来年以降だ。ベトナムに年数回しか来ない人は、久しぶりにアプリを開いたら更新画面が出ている、という場面に定期的に当たる。旅行前日の空港で気づくと、SMSが届かないまま止まる。出発の1週間前にアプリを一度開く習慣が、ここから先は効いてくる。
制度側の狙いもはっきりしている。4桁は組み合わせが1万通りで、端末を奪われれば総当たりに耐えない。6桁なら100万通りに増え、12か月の期限が使い回しの寿命を切る。決定2345の生体認証と重ねれば、コードだけを盗んでも高額送金は通らない。
いま確認すべきことの一覧
| 対象 | 何が変わるか | 期日 | どこで直すか |
|---|---|---|---|
| VietinBank/iPay Mobile | Soft OTPのPINが4桁から6桁へ | 2026年7月16日(適用済み) | アプリ内の「Cài đặt Soft OTP」(Soft OTP設定) |
| VPBank/VPBank NEO(個人顧客) | Smart OTPのコードが最低6文字、12か月ごとに更新 | 2026年7月30日 | アプリが出す通知から更新画面へ |
| その他の銀行 | 各行のSoft OTP/Smart OTPのPIN | 各行の告知による | 各行アプリの認証設定/公式サイトの通知欄 |
| 通達50/2024/TT-NHNN | PINは最低6文字、有効期限は最長12か月、初期値は最長30日 | 2025年1月1日施行 | ─(各行が順次実装) |
| 決定2345/QĐ-NHNN | 1回1,000万VND超・1日累計2,000万VND超の送金、アプリでの初回取引、直近と異なる端末での取引で顔認証 | 2024年7月1日から適用中 | 各行アプリの生体認証登録 |
手元でできる確認は三つに絞れる。銀行アプリの認証設定にSoft OTPやSmart OTPの項目があるか見ること、あればPINが4桁のままか確かめること、ベトナムのSIMがSMSを受け取れる状態かを見ておくこと。画面の名称や個別の可否は行によって違うので、詰まったら各行の公式案内かホットラインに当たるのが早い。
まとめ
7月30日という日付はVPBankのSmart OTPに関するもので、VietinBankの分は7月16日に済んでいる。変わるのは自分で決めるPINの長さと更新周期であって、SMSで届く番号の桁数ではない。しばらくベトナムを離れる予定があるなら、離れる前にアプリの認証設定を開いて6桁に直しておく。すでに6桁の人も、12か月の期限を手帳に書いておけば来年の同じ画面で止まらずに済む。判断がつかないときは、公式サイトの「Thông báo」欄か支店・ホットラインで自分の口座の認証方式を確認してほしい。
参照元:Kenh14/VietnamNet/CafeF/An ninh Thủ đô/Znews/DNSE/Thông tư 50/2024/TT-NHNN 全文/LuatVietnam(決定2345/QĐ-NHNN)
