ダナン中心部のAPEC公園で、7月24日から26日まで「Đại tiệc Cà phê 2026(Vietnam Coffee Challenge 2026)」が開かれた。売り場に並んだのは、ナムオーの魚醤を使ったカフェ・マム、ゴックリン人参入り、チャーミー肉桂入りのコーヒー。主催はハイチャウ坊の人民委員会で、入場無料、時間は毎日14時から21時までだった。会期はすでに終わっているが、この3日間で試されたのは新作ドリンクというより、ダナンが2025年の行政合併で抱え込んだ山の特産品を、街の飲み物に載せ替える方法だった。ベトナムで土産を選ぶ人にも、日本で地域素材を売る事業者にも、読み取れるものがある。
APEC公園に3日だけ立った「ダナン創作コーヒー」の売り場
Tiền Phong と Tuổi Trẻ が伝えたところによれば、会場の中心にあったのはダナン創作コーヒーと名づけられた空間で、コーヒーに中部の特産品を合わせた4種が主役だった。ナムオー魚醤、ゴックリン人参、チャーミー肉桂、そして cà phê bơ。cà phê bơ は Trình Cà Phê が2018年から手がけている製品で、ロブスタに生のバー(bơ)をすりつぶして合わせるとBNEWS/VNAは説明している。トウジン(đẳng sâm)を使った一杯や、低温で抽出する cà phê âm độ も並んだ。
付随のプログラムは、フィン(phin)を使う伝統的な抽出法のワークショップ、国内外のバリスタが競う実演とラテアート、アコースティックやサックス、DJのステージ。掲げられたメッセージは「Taste – Art – Experience」。市民と旅行者に新しい体験を差し出し、創作を促してダナンの特産と結んだコーヒーの価値を上げ、この催しを定期開催の観光商品に育てる——主催側が示したのはその線だ。会期中には、坊内の政策優遇世帯40世帯に贈り物が渡されている。行政が主催する街のイベントとしての性格が、そのまま出ている構成だ。
ナムオーの魚醤が、粉になってコーヒーに載るまで
カフェ・マムは、液体の魚醤をコーヒーに注いだものではない。ナムオー産の一番搾り(mắm nhĩ)を空炒りしてつき砕き、粉にしてベトナム産ロブスタの上に振りかける。そこに薄いクリームが重なり、苦みとコクと控えめな塩気が並ぶ、という組み立てだ。考案したのはナムオーの魚醤工房「Hương Làng Cổ」の Nguyễn Thái Nhật Huy 氏(Thanh Niên取材時37歳)と村の若者たちで、Thanh Niên が2025年5月18日にこの取り組みを取り上げていた。今回のイベントでブースを担当したのも同じ Huy 氏である。
魚醤を液体のまま扱う限り、買い手は瓶を持ち帰るしかない。重く、割れやすく、匂いが移る。粉にした瞬間に、載せられる先が飲み物や菓子まで広がる。ナムオーの村がやったのは味の発明というより、形状の変更だった。
土台になっている文脈も軽くない。ナムオーはクーデー川の河口、ハイヴァン峠のふもとにある漁村で、魚醤づくりは400年以上続いてきた。文化・スポーツ・観光省は2019年8月27日付の決定2974号で、この村の魚醤製造を国家無形文化遺産に認定している。新しい飲み物の物語をゼロから作ったのではなく、すでに国が認めた看板の上に一枚重ねた、という順番になっている。
数字で押さえる、イベントと素材の背景
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | Đại tiệc Cà phê 2026/Vietnam Coffee Challenge 2026 |
| 会期・時間 | 2026年7月24〜26日、毎日14:00〜21:00(終了済み) |
| 会場・入場料 | ダナン市ハイチャウ坊 APEC公園/無料 |
| 主催 | ハイチャウ坊人民委員会ほか |
| 掲げられたメッセージ | 「Taste – Art – Experience」(BNEWS/VNA) |
| 主催側の狙い | 地域特産でコーヒーの価値を上げ、催しを定期開催の観光商品に育てる |
| 出品された組合せ | ナムオー魚醤/ゴックリン人参/チャーミー肉桂/アボカド(cà phê bơ)ほか |
| ナムオー魚醤村 | 400年以上の歴史。2019年8月27日付・決定2974号で国家無形文化遺産 |
| 村の位置 | ダナン中心部から北へ約15〜17km、クーデー川河口・ハイヴァン峠のふもと |
| 比較用の価格 | フエの塩コーヒー発祥店は1杯15,000ドン(VnExpress 2022年12月の報道時点。1円=162VND換算では約93円) |
| 合併後のダナン市 | 2025年7月1日にクアンナム省と統合。面積11,859.59km²、人口3,065,628人 |
飲んだ人、作った人、行政——3日間で出た言葉
ソンチャ坊から来た Đỗ Huyền Trang さんは、飲む前に匂いを嗅ぐとコーヒーの香りに魚醤の香ばしさと塩気、渋みが混じっていたと話し、「カフェ・マムは塩コーヒーと似た作り方だが塩味はもっと濃く、魚醤の香りがして後味が甘い。とても独特だ」と Tiền Phong に語っている。塩コーヒーを基準に説明されているのが、この飲み物の位置を分かりやすくしている。
ブースを担当した Nguyễn Thái Nhật Huy 氏の言葉は、味ではなく事業の話だった。「これはナムオーの伝統的な魚醤の村の人々の努力です。製品を多角化して、伝統的な魚醤を多くの人に、とりわけ若い人に受け取ってもらいたい」。売り場に立つ側が、若年層への到達を目的として明言している点は押さえておきたい。
オランダから来た旅行者の Richard さんは、由来と発想の説明を受けて感服したと述べ、コーヒーが自身の物語だけでなく「ダナン西部の山あいに広がる薬草地帯の物語まで語っている」と話した。ハイチャウ坊人民委員会主席の Nguyễn Văn Duy 氏は、市の名高い特産品や薬用植物をコーヒーと組み合わせて紹介することで「原料から製品までの価値を高め、消費を後押しし、若々しく躍動的で個性豊かな目的地というダナンの姿を確かなものにしたい」と述べている。コーヒーを橋渡しにしてダナンの人と文化を語りたい、というのが同氏の説明だ。
日本の作り手が持ち帰れるのは、味ではなく「粉にする」という一手
日本にも魚醤はある。能登のいしる、秋田のしょっつる、香川のいかなご醤油。どれも瓶で売られ、買う理由は「和食の調味料として使う人」に限られる。ナムオーがやったのは、その限定を外す作業だった。乾かして粉にすれば、飲み物にも菓子にも塩の代わりにも載る。売り場も調味料棚から出られる。
粉末化には、旅行者向けの実務的な利点もついてくる。液体は機内持込の容量制限にかかり、預け荷物では割れる。粉なら軽く、匂いも移りにくい。土産としての通過率が上がる。ベトナムの特産品が輸出の顔を作りにいく動きは飲料以外でも進んでいて、ブオンマトートの豆が中国市場に向かった件(ブオンマトートの珈琲が上海へ、ベトナム土産の選び方が変わる)と今回は、産地の名前を前に出すという一点で同じ方向を向いている。
もうひとつ、順番の問題がある。ナムオーは先に国家無形文化遺産という第三者の裏づけを得ていて、その上に新商品が乗った。新奇な組み合わせを先に出して後から由緒を探すのではなく、公的な認定を土台にして遊びの幅を作っている。地域素材を扱う日本の事業者が真似できるのは、この設計の順番のほうだ。認定や登録を「取って終わり」にせず、若年層向けの派生商品を載せる台として使う。
山の特産品が市内産になった——合併がイベントを変えた
Richard さんの言う「広大な薬草地帯」は、比喩ではない。2025年7月1日にクアンナム省とダナン市が統合され、新しいダナン市は面積11,859.59km²、人口3,065,628人になった。ゴックリン人参の主産地であるチャーリン一帯も、チャーミー肉桂の産地も、いまは同じ市の中にある。海の魚醤と山の人参を1つのブースに並べる企画が成り立つのは、行政区画が変わったからだ。
ダナン市はゴックリン人参を軸にした催しを重ねていて、偽物対策を前面に出した人参フェスもすでに開かれている(偽物ゼロを約束、ダナン初の国宝ゴックリン人参フェスの3日間)。市は「ゴックリン人参—世界の伝統医薬の精華」を掲げた国際フェスの計画も出している。コーヒーの祭典で人参入りの一杯を出すのは、その長い企画列の入口を安く作る手だと読める。
前例もある。塩コーヒーはフエで2010年前後に生まれ、発祥とされる店は12年以上たった2022年末の時点でも1杯15,000ドン(1円=162VND換算で約93円)で出していた。奇抜な組み合わせが街に根づくかどうかは、話題の強さより価格の据わりで決まってきた。ホーチミンで半世紀続く布フィルターの一杯(橋の下の一杯70円——ホーチミンで半世紀続く布フィルターコーヒー)が示すのも同じことで、日常の値段に着地できた飲み物だけが街に残る。カフェ・マムがイベント限定の余興で終わるか、ナムオーの村の収入源になるかは、常設の売り場と値段が決まるかどうかにかかっている。
実用情報:会期後に、この話の現場を回るなら
| 行き先・項目 | 内容 | メモ |
|---|---|---|
| Đại tiệc Cà phê 2026 | ダナン市ハイチャウ坊 APEC公園/2026年7月24〜26日 14:00〜21:00/入場無料 | 3日間で終了。年次開催を目指すと報じられている |
| ナムオー魚醤村 | ダナン中心部から北へ約15〜17km。クーデー川河口、ハイヴァン峠のふもと | ハイヴァン峠やランコーへ北上する行程に組み込みやすい |
| 村の位置づけ | 2019年8月27日付・決定2974号で国家無形文化遺産に認定 | 魚醤の仕込み甕が今も並ぶ |
| ゴックリン人参の産地 | 合併後はダナン市内のチャーリン一帯 | 市が国家的な人参拠点として整備する方針を示している |
| 価格の目安 | フエの塩コーヒー発祥店で1杯15,000ドン | 1円=約162VND換算で約93円(2026年7月時点) |
| 円換算の早見 | 50,000ドン≒309円/100,000ドン≒617円/500,000ドン≒3,086円 | 同じく1円=約162VND換算 |
| 持ち帰りの注意 | 液体の魚醤は機内持込の容量制限にかかる | 粉末や小瓶は預け荷物で包装を厚めに |
カフェ・マムは現在、製造所とイベント会場での提供が中心で、本格的な商品化の前に反応を集めている段階だとBNEWS/VNAは伝えている。市内の常設店に置かれているかどうか、価格がいくらかは、いずれの報道にも記載がない。
まとめ
3日間のイベントが残したのは、魚醤入りコーヒーという話題ではなく、伝統食品を若い客に手渡すための具体的な段取りだった。国が認めた村の看板があり、液体を粉に変える工夫があり、行政が場所と無料の入場を用意した。順番が組まれている。
ダナンに行く予定があるなら、ハイヴァン峠へ北上する日にナムオーを行程へ差し込むのが手っ取り早い。海辺の朝の漁と組み合わせれば半日で収まる(夜明けの浜で漁師と網を引く、ダナン7月の朝いちばん)。日本で地域素材を扱っているなら、手元の原料を粉にできないか、そして自社に「先に取っておくべき第三者の裏づけ」が何かを、この事例に当てはめて洗い出すところから始めたい。
参照元:Tiền Phong/Tuổi Trẻ/Đại Đoàn Kết/BNEWS/VNA/Thanh Niên/VietnamPlus/VnExpress/ダナン市電子情報ポータル
