ホーチミン市の老舗「Nguyen Sinh Bistro」が、1皿345,000ドン(約2,030円、約13ドル)の鉄板焼き牛バインミーを出している。VnExpressが2026年9月5日に報じた。屋台の同じ料理が35,000〜60,000ドンで買えるサイゴンで、その6〜10倍の値付けにもかかわらず店には行列ができる。店を継ぐのは創業者の孫、グエン・ゴック・タック氏。祖父から受け継いだ鶏レバーのパテと、鉄鍋で焼くHokubeeの牛肉が看板になっている。
日本人旅行者が知っておきたい一皿
バインミーは日本の旅行者にとって、フォーと並んでベトナムで最初に手を伸ばす料理のひとつだ。多くは片手で歩き食べできる100円前後のサンドイッチという印象が強い。今回のニュースはその印象から外れる。パンを別皿にし、具材を熱した鉄鍋で焼いて出す「バインミー・チャオ」という食べ方で、しかも屋台価格の10倍近い。安く速く食べる料理という前提を崩す一皿が、地元の老舗から出ている点に旅行者が現地で驚く余地がある。予算の使いどころを一度決めて訪れる価値のある店として押さえておきたい。
Nguyen Sinh Bistroは1942年ハノイ創業の老舗
Nguyen Sinhの歴史は、1942年にハノイで開いた最初の店にさかのぼる。創業者のグエン・ヴァン・ミエウ氏が1979年にホーチミン市へ移り、1982年に市内で最初の店を構えた。鉄板焼きの牛肉バインミーをメニューに加えたのは2013年で、いまは孫のグエン・ゴック・タック氏が切り盛りする。
看板の345,000ドンの一皿は、Hokubeeブランドの牛肉を1人前200g使う。赤身に脂を注入して和牛のような霜降りに仕上げていると店は説明する。鉄鍋で焼き上げた牛肉に、祖父の代から伝わるレシピの鶏レバーパテを合わせる。パテにはシナモンの香りをきかせているのが特徴だ。フランス植民地期の食文化を色濃く残す店として、サイゴンでも古い部類に入る。
鉄板で出すバインミー・チャオはフランス由来の朝食
バインミー・チャオ(bánh mì chảo)は、具材をパンに挟まず、鉄の小鍋で焼いてそのまま卓に出す食べ方を指す。目玉焼き、パテ、ソーセージなどを一緒に焼き、熱いままジュージューと音を立てる鍋が届く。パンは横に添えられ、ちぎって浸し、鍋の中身をすくって食べる。牛のステーキ肉を加えると一段上の品になる。
この食べ方はフランスがベトナムに持ち込んだ牛肉料理から派生した朝食で、パンと卵という組み合わせにベトナム流の味付けを重ねてきた。トマトやバター、油を使ったソースは店ごとに配合が異なる。サイゴンの朝の一皿として根づいた料理に、老舗が高価格帯の解釈を持ち込んだ形になる。プレミアム化の波は同じ市内で続いており、ミシュラン掲載店が出した8ドルの和牛バインミーが値付けをめぐる論争を呼んだ例もある。
屋台の6〜10倍、価格を並べて見る
同じ鉄板バインミーでも、屋台と老舗では価格がひと桁変わる。VnExpressが挙げた屋台相場と今回の一皿を並べると、開きの大きさが見えてくる。円換算は1円=約170ドンで計算した。
| 提供元 | 価格(ドン) | Approximate yen conversion |
|---|---|---|
| 街の屋台のバインミー・チャオ | 35,000〜60,000ドン | 約206〜353円 |
| Nguyen Sinh Bistroの鉄板焼き牛バインミー | 345,000ドン | 約2,030円(約13ドル) |
屋台の下限35,000ドンと比べれば約10倍、上限60,000ドンと比べても約6倍になる。ドルにならすと屋台がおよそ1.4〜2.4ドル、老舗が13ドルだ。牛肉を200g使い、ブランド肉と自家製パテを組み合わせる構成が、この差を支えている。海外では同じバインミー・チャオがさらに高く売られており、ニューヨークでは28ドルの一皿に週末だけ行列ができるという報道もある。
4.2の評価と行列、客の反応は割れる
Nguyen Sinh Bistroは口コミも多く、料理の質と店の雰囲気を評価する声が目立つ一方、接客態度への不満も一部に残る。価格が屋台の数倍でも客足が途切れない点に、地元と観光客双方の支持が表れている。
高い値付けのバインミーに列ができる現象は、この店だけのものではない。米国人シェフが炭火で焼く豚バインミーの店では、サイゴンで毎日2時間待ちが起きている。素材やブランド、店の物語に対価を払う客層がサイゴンに育っていることを示す動きだ。
行き方と狙う時間帯
店はホーチミン市中心部のチャンディンスー通り(Trần Đình Xu、コンオンラン坊)にある。1区の中心部に近く、ベンタイン市場やブイビエン通りから徒歩やタクシー、配車アプリで移動できる距離だ。バインミー・チャオはもともと朝食の料理なので、午前中に訪ねると本来の時間帯の空気で味わえる。
鉄鍋で焼き上げて出す料理のため、注文から提供まで屋台のサンドイッチより時間がかかる。混み合う時間を避け、開店直後や昼どきを外した時間に入ると落ち着いて食べられる。345,000ドンの一皿は量も多いので、少人数なら分け合う前提で頼むと無駄がない。パンをちぎって鍋の具を浸す食べ方を知っておくと、初めてでも戸惑わずに済む。
周辺はベンタイン市場やブイビエン
店のある一帯は、旅行者が集まるスポットに囲まれている。歩ける範囲にベンタイン市場があり、土産物や乾物、フルーツを見て回れる。夜になれば飲食店とバーが並ぶブイビエン通りが近く、朝に老舗の一皿、夜に街歩きという組み立てが成り立つ。サイゴンは屋台グルメの評価も高く、老舗の高価格帯と街角の安い一皿を一日のなかで飲み比べるように食べ歩けるのが、この街の懐の深さだ。
Summary
Nguyen Sinh Bistroの345,000ドンのバインミーは、屋台の6〜10倍という値付けと、それでも途切れない行列の両方でサイゴンの食の変化を映している。1942年から続く店が2013年に加えた鉄板焼きの牛バインミーは、フランス由来の朝食に老舗の解釈を重ねた一皿だ。安く速く食べる料理という前提を一度外し、朝の時間帯に、分け合う前提で訪ねてみたい。屋台の一皿との違いを自分の舌で確かめれば、サイゴンのバインミー文化の幅が旅の記憶に残る。
Sources:
Ho Chi Minh City shop serves $13 pan-fried banh mi(VnExpress International, 2026年9月5日)
‘Banh mi chao’: A Vietnamese dish that sizzles in a pan(Nhan Dan Online)
