「ダラットの海」と聞いて、ピンとくる旅行者はまだ少ない。高原リゾートのダラットに海はない、というのがこれまでの常識だったからだ。ところが2025年7月1日の省合併で、旧ビントゥアン省の海岸線がまるごとラムドン省に組み込まれた。その海に、フランス統治時代に積まれた石造りの灯台が120年以上立ち続けている。ダンチー紙が6月末に取り上げたケガー灯台(Hải đăng Kê Gà)だ。ムイネーの砂丘とセットで回れば、ダラットの涼しさと南シナ海の青を1本の線で結ぶ、これまでになかった旅程が組める。日本人旅行者にとっては「ダラット×海」という新しい寄り道の選択肢が増えた、という話である。
ダンチー紙が伝えた「120歳の灯台」
ベトナムの大手ニュースサイト・ダンチー紙は2026年6月29日、「ラムドン省にある120年以上前の灯台を探索する」と題した記事を配信した。取り上げられたのはケガー岬(Mũi Kê Gà)に立つ石造灯台で、フランス人技師の設計により1897年2月に着工、1899年に完成し、1900年から今日まで灯を絶やさず点し続けている。地元では観光の目玉として再注目され、2025年12月6日にはラムドン省人民委員会が「省級・歴史建築遺跡」として正式に格付けした。省合併で行政区が変わった直後に、旧ビントゥアン時代からの財産が新しい省の看板観光地として位置づけ直された格好だ。
フランスが海に積んだ石の塔
ケガー灯台が「ベトナム最古級」と呼ばれるのは、その建設方法にある。塔はフランスから運び込まれた花崗岩を、接着剤を使わずに一つひとつ削って積み上げた八角柱で、19世紀末のフランス建築の意匠がそのまま残る。設計はシュナヴァ(Chnavat)というフランス人技師。ベトナム記録センターは、らせん階段の段数と光の到達距離を根拠に、この灯台を国内で最も高い灯台の一つとして記録している。塔が立つのはホンバー(Hòn Bà)と呼ばれる小さな岩礁で、フランス人が植えたプルメリアが今も花をつける。灯台としての実務も現役で、南シナ海を行く船の目印であり続けている点が、単なる遺跡との違いだ。
数字で見るケガー灯台
数値はベトナム語の複数媒体で表記に幅があるため、記録として広く引用される値を中心に整理した。塔の高さは、遺跡格付けの発表資料やダンチー紙などが「42.8メートル」、らせん階段は「184段」と伝えている。一方で英語圏の旅行案内や一部の百科事典では、塔本体を約35メートル、岩礁の高さを含めた海面からの高さを約65メートルとする表記も見られる。灯りの到達距離は各媒体でおおむね一致しており、22海里(約40キロメートル)。
| Item | Figures and details |
|---|---|
| 着工 | 1897年2月 |
| 完成 | 1899 |
| Operation started | 1900年(現役) |
| 塔の高さ | 42.8メートル(諸説あり) |
| らせん階段 | 184段 |
| 光の到達距離 | 22海里(約40キロメートル) |
| Location | タンタイン村(旧ビントゥアン省ハムトゥアンナム)、現ラムドン省 |
省合併で「ラムドン省の海」になった
この灯台の位置づけを大きく変えたのが、2025年7月1日に発効した省合併だ。ベトナムは全国を63省市から34省市へと再編し、旧ラムドン省・旧ビントゥアン省・旧ダクノン省の3つが統合されて、新しいラムドン省が誕生した。面積は約24,233平方キロメートルで国内最大級、行政の中心はダラット市に置かれた。これにより、高原のダラットと海辺のムイネー、砂丘やケガー灯台が同じ一つの省に収まった。旅行の視点で言えば、「ダラットに行くなら海はない」という前提が崩れ、山の涼しさと海の青を一つの行政エリアの中で味わえるようになった、ということになる。
How locals and travelers receive it
現地の観光関係者や旅行者の反応を旅行系の情報から拾うと、いくつかの傾向が見える。第一に、遺跡格付けをきっかけに「ムイネーの砂丘だけで帰るのはもったいない」と、灯台まで足を延ばす人が増えたという声。第二に、岩礁への渡し船を担う地元のバスケットボート(丸い竹かご舟)や小型ボートの体験そのものが目当てになっているという指摘。第三に、SNSでは石積みの塔と花崗岩の岩場、白い波を組み合わせた写真が「ベトナムらしくない地中海のよう」と評判で、チェックインスポットとして定着しつつある。灯台に登る楽しみだけでなく、渡る過程と撮る楽しみが加わっているのが今の人気の中身だ。
日本人旅行者への示唆——ダラット旅に半日足す
日本から個人で回る旅行者にとって、ケガー灯台は「ダラット旅の締めに海を1日足す」使い方が現実的だ。ダラットからムイネー方面へ下り、砂丘とセットで灯台を組み込めば、高原と海の両方を1回の旅で押さえられる。灯台が立つホンバー島は岸から約500メートルの沖にあり、潮の満ち引きで渡り方が変わる。満潮時は小型スピードボート、干潮時はバスケットボートが主な手段になる。上陸のための入場は10,000ドン前後、渡し舟は片道あたり40,000〜100,000ドンが目安とされる(1円=約165ドン換算で、入場は数十円、渡し舟は数百円規模。為替は2026年7月時点の目安で、現地価格は変動する)。細かな料金より、「潮次第で舟が変わる」点を頭に入れておくのが実務的だ。
移動と季節——ムイネーを起点にする
灯台があるタンタイン村は、旧ビントゥアン省の中心ファンティエット市街から約30キロメートル、南のラジー(La Gi)からは約20キロメートルの位置にある。個人手配ならムイネーやファンティエットの宿を起点にタクシーやチャーターで向かうのが分かりやすい。ベストシーズンは乾季にあたる12月から4月ごろで、晴天率が高く海も穏やかなため、岩礁への渡船や写真撮影に向く。裏を返せば、雨季は波と天候で渡船が中止になることもあるので、雨季に訪れるなら現地で当日の運航状況を確認してから予定を組みたい。ダラット方面へ抜ける鉄道旅と組み合わせるなら、風景そのものを楽しむベトナムの遺産列車旅の記事も、山と海をつなぐ行程づくりの参考になる。
観光市場への波及——ダラットが「海のある高原」へ
ケガー灯台の再注目は、単独の観光地の話にとどまらない。省合併で新ラムドン省は、高原のダラット、砂丘のムイネー、そして海のケガーを一つの観光回廊として売り出せるようになった。避暑地として知られるダラットに海のコンテンツが加わることは、滞在日数を延ばし、周遊型の旅を組みやすくする方向に働く。ダラット近郊では標高1900メートルのランビアン山のパラグライダー体験のようなアクティビティも増えており、「高原の空」と「海辺の灯台」を一続きで提案できる素地が整ってきた。この夏はベトナム国内線も大幅な増便が予定されており、ダラット発着の便を絡めた行程も組みやすくなっている。
まとめ——次の旅で「ダラット×海」を試す
ケガー灯台は、120年以上前にフランスが積んだ石の塔が今も灯を点す、現役の歴史遺産だ。省合併で「ラムドン省の海」になったことで、ダラット旅に半日〜1日の海の寄り道を足す、という新しい組み方が現実的になった。次にダラットやムイネーを訪れる予定があるなら、乾季を狙って灯台までの渡船を旅程に入れておきたい。上陸の可否は潮と天候次第なので、宿や現地ツアーで当日の運航を確認すること、渡し舟と入場の小銭(ドン)を用意しておくことの2点を押さえれば、砂丘だけでは終わらない一日になる。
