ホーチミンのカフェアパートメントで「%」マークの白いカップを手にすると、その先に京都・東山の石畳の風景がつながっていることに気づく人は少ない。%Arabica(アラビカ)は、京都に拠点を置きながら20を超える国と地域へ広がったコーヒーブランドだ。基本情報やメニュー、地図は店舗ガイドにまとめているので、ここではブランドそのものの来歴と、ベトナム店がどんな考え方で京都の世界観を現地に置き換えたのかを掘り下げる。
香港で生まれ、京都で世界へ向かったブランド
%Arabica の歩みは京都だけで完結していない。創業者のケネス・ショージ氏が最初の店を開いたのは2013年の香港で、翌2014年に京都・東山の八坂の塔のふもとへ世界フラッグシップ店をオープンした。観光客が行き交う産寧坂の一角に、白を基調としたガラス張りの小さな店が現れたことは、当時のコーヒー業界では珍しい出来事だった。
その後、ブランドは京都を本拠地に据えながら各地へ店舗を広げていく。2025年時点では世界で230店舗を超える規模になり、出店先はアメリカ、フランス、イギリス、中国、タイ、フィリピンなど20以上の国と地域にわたる。なかでも中国本土の店舗数が突出して多く、アジアを軸に成長してきた経緯がうかがえる。京都発のブランドが、派手な広告ではなく店の佇まいとカップのデザインで認知を広げてきた点は、コーヒーの世界では独特の道のりといえる。
「%」マークが伝えるミニマルなデザイン哲学
%Arabica を語るうえで外せないのが、店名にもなっている「%」のロゴだ。コーヒー豆の品種「アラビカ種」と、抽出の割合や配合を連想させるパーセント記号を組み合わせたこのマークは、看板にも紙カップにもシンプルに一つだけ置かれる。文字情報をそぎ落とし、記号一つで記憶に残す。日本のミニマリズムに通じる引き算の発想が根底にある。
店舗空間も同じ思想で組み立てられている。白い壁、無垢の木、ガラス、ステンレスといった素材を抑えた色数でまとめ、コーヒーを淹れる動作そのものが見えるようカウンターを開く。装飾を足すより余白を残す設計だ。一方で、ブランドは世界共通のテンプレートをそのまま各地に貼り付けているわけではない。設計には ciguë(シグ)や nendo といった国内外のデザインスタジオが関わり、出店する土地の建築や素材を取り込みながら、白と木とガラスという共通言語を保つ。「どこの店も同じに見えて、どこか違う」という感覚は、この設計姿勢から生まれている。
ブランドが掲げる言葉が「See the World Through Coffee(コーヒーを通して世界を巡る)」だ。一杯のコーヒーをきっかけに国や文化を行き来するという発想は、出店戦略にも空間づくりにも一貫している。京都の店で感じる静けさと、各地の店で出会う土地の表情。その両方を同じブランドの中に共存させることが、%Arabica の世界観の核になっている。
2024年、ベトナム上陸——カフェアパートメントを選んだ理由
%Arabica がベトナムに初出店したのは2024年。場所はホーチミン市の中心、グエンフエ通りに面した「カフェアパートメント」の上層階だ。1960年代に建てられた集合住宅を、各室がカフェや雑貨店に姿を変えて再生した建物で、地元の人にも旅行者にも知られたランドマークになっている。新しい商業ビルではなく、街の記憶が積み重なった古い建物を選んだ点に、土地に溶け込もうとするブランドの姿勢が表れている。
ホーチミンが選ばれた背景には、活気ある飲食文化と都市の成長スピードがある。歩行者天国としてにぎわうグエンフエ通りは、京都・東山の旗艦店と同じく「人が行き交う場所に小さく構える」というブランドの出店感覚に通じる立地だ。観光動線の上に店を置きながら、空間そのものを目的地にする。京都本店とベトナム店は、街並みも気候もまるで違うのに、その立地の選び方には共通の発想が見て取れる。
竹細工と低い座面——京都の白を、ベトナムの質感に置き換える
ベトナム店の設計を手がけたのは、京都の旗艦店なども担当してきたフランスのデザインスタジオ ciguë だ。ここで興味深いのは、%Arabica らしいミニマルな骨格を保ちつつ、内装にベトナム北部の職人による竹細工を取り入れた点にある。ハノイ周辺の北部は竹工芸の産地として知られ、編み込みの技術を持つ職人が多い。その手仕事を空間に組み込むことで、白と木を基調とした店に現地の手触りが加わった。
座面の低い椅子も、ベトナムの街角のカフェに見られる文化を取り込んだ要素だ。プラスチックの小さな椅子に腰かけてコーヒーを飲む光景は、この国の日常に根づいている。%Arabica はその座り方の感覚を店内に翻訳し、照明はやや暖色に寄せて素材の質感を引き立てた。緑の植栽も配し、無機質になりがちなミニマル空間に土地の温度を持ち込んでいる。
京都本店が、木造の町家が連なる東山の景観に白い箱をそっと差し込むように設計されているとすれば、ベトナム店は、古いアパートメントの躯体を尊重しながら北部の竹細工と低い椅子で現地の暮らしに寄せている。同じブランドが土地ごとに表情を変える——「See the World Through Coffee」という言葉が、空間のレベルで具体化された例といえる。
| 視点 | 京都・東山 旗艦店 | ホーチミン店 |
|---|---|---|
| 立地 | 八坂の塔ふもと、産寧坂の観光動線 | グエンフエ通りのカフェアパートメント上層階 |
| 建物 | 町家が連なる歴史的景観の一角 | 1960年代の集合住宅を再生したビル |
| 現地アレンジ | 京都の町並みに溶け込む白い小箱 | 北部職人の竹細工・低い座面・暖色照明 |
| 共通する素材 | 白・無垢の木・ガラスを基調としたミニマルな空間 | |
空間の思想は、一杯の味にもつながっている
デザインの話が中心になったが、%Arabica はあくまでスペシャルティコーヒーのブランドだ。自社で豆の調達から焙煎までを手がけ、エスプレッソを軸にしたメニューを各国でほぼ共通の品質で提供している。装飾をそぎ落とした空間でコーヒーを淹れる動作を見せるのは、味そのものに視線を集める意図とも重なる。余白の多い店づくりと、素材を生かす一杯は、同じ引き算の発想でつながっている。
ベトナム店でも、京都の名を冠した「京都ラテ」のように、ブランドを象徴する一杯を味わえる。具体的なメニューや価格は店舗ガイドにまとめているので、注文の参考にしてほしい。ここで覚えておきたいのは、グラスの中のコーヒーと、それを取り囲む竹細工の壁や低い椅子が、別々のものではなく一つの体験として設計されているということだ。
まとめ:カップの向こうに京都とベトナムが重なる
%Arabica は、2013年の香港、2014年の京都・東山から始まり、京都を拠点に20以上の国と地域へ広がってきたコーヒーブランドだ。「%」のロゴと白・木・ガラスのミニマルな空間という共通言語を保ちながら、各地の素材や暮らしを取り込んでいく。2024年に上陸したホーチミン店は、古いカフェアパートメントの躯体に北部職人の竹細工と低い座面を組み合わせ、京都の静けさをベトナムの質感へと置き換えた一例だ。グエンフエ通りで「%」マークのカップを手にしたら、その白いカップが京都・東山とどうつながっているのか、一杯ぶんだけ思いを巡らせてみてほしい。
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