コーヒーを愛する人なら、ブラジルやコロンビアが有名な生産国だということはご存知でしょう。でも、実はベトナムが世界第2位のコーヒー生産国だということをご存知でしたか?
ベトナムは年間約188万トンものコーヒーを生産し、ブラジルに次ぐ世界有数のコーヒー大国なのです。特にロブスタ種に関しては世界第1位の生産量を誇ります。参照

ベトナムでのコーヒー栽培は19世紀半ば、フランス植民地時代に始まりました。当初はアラビカ種の栽培が試みられましたが、思うような成果は得られませんでした。その後、1980年代にベトナム政府主導でコーヒー栽培が本格化し、病害虫に強いロブスタ種を中心に生産量が飛躍的に増加したのです。
今回は、そんなベトナムコーヒーの魅力を地域別に探っていきましょう。各産地の特徴や味わいの違いを知れば、あなたのコーヒー体験がさらに豊かになるはずです。
1. ダクラク省 – ベトナムコーヒーの中心地
ベトナム中部に位置するダクラク省は、ベトナム最大のコーヒー生産地です。この地域はバンメトートという都市を中心に広がる高原地帯で、ベトナムコーヒーの約8割がここで栽培されています。
標高500mほどの高原地帯に位置するダクラク省は、年間平均気温が25〜27度前後と、ロブスタ種の栽培に理想的な環境を持っています。火山性土壌の豊かな養分と適度な気候条件が、コーヒー豆に深い味わいとコクを与えているのです。

ダクラク産のコーヒーは、力強い苦味と渋みが特徴です。香ばしい香りが強く、酸味はほとんど感じられません。そのため、ベトナム式コーヒーのように練乳を加えて飲むスタイルとの相性が抜群なんです。
ここで育つロブスタ豆は、そのままストレートで飲むと個性が強すぎるかもしれませんが、ブレンドコーヒーの重要な構成要素として、また缶コーヒーやインスタントコーヒーの原料として世界中で重宝されています。
2. ラムドン省 – アラビカ種の宝庫
ベトナム南部に位置するラムドン省は、「常春の都市」と呼ばれるダラットを中心に、ベトナムでは珍しいアラビカ種の生産で知られています。標高1,500mほどの高原に位置するこの地域は、アラビカ種の栽培に適した冷涼な気候を持っています。
ホーチミンから北東に約300kmほど離れたこの地域は、ベトナムコーヒーの未来を担う重要な産地です。近年では、欧米や日本のようにストレートで飲むスタイルがベトナム国内でも注目され始め、ダラットを中心に高品質なアラビカ種を楽しむニューウェーブカフェが人気を集めています。

ラムドン省のコーヒーは、ダクラク省のものと比べると、より繊細な味わいが特徴です。柔らかな酸味とバランスの取れた風味を持ち、フルーティーな香りも感じられます。
私が初めてダラット産のアラビカコーヒーを飲んだとき、その複雑な風味プロファイルに驚いたことを今でも覚えています。チョコレートのような甘さとナッツの風味が絶妙に調和していて、ベトナムコーヒーのイメージが一変しました。
UCCなどの日本の企業も、このラムドン省の高品質なアラビカ豆に注目し、品質向上のための取り組みを行っています。毎年開催される品質コンテストでは、優れた豆を生産した農家を表彰し、その豆を市場より高値で買い取ることで、さらなる品質向上を促進しているんですよ。
3. コントゥム省 – 柔らかな酸味の産地
ベトナム中部に位置するコントゥム省は、アラビカ種のコーヒー生産で知られる地域です。この地域のコーヒーは、柔らかな酸味と穏やかな風味が特徴的で、バランスの取れた味わいを楽しめます。
コントゥム省の気候と土壌は、コーヒーチェリーの成長に最適な条件を提供しています。標高の高さと日中の温度差が、コーヒー豆に複雑な風味をもたらしているのです。

この地域のコーヒー生産者たちは、自然との調和を重視した栽培方法を実践しています。有機肥料や天然の防除方法を活用し、環境に配慮した持続可能なコーヒー生産に取り組んでいるんです。コントゥム産のコーヒーを飲むと、その丁寧な栽培と加工の過程が生み出す、クリーンでバランスの取れた味わいを感じることができます。特に朝の一杯に最適で、爽やかな一日のスタートを切るのにぴったりですよ。
4. ジャライ省 – 中央高原の隠れた名産地
ベトナム中央高原に位置するジャライ省は、ダクラク省ほど有名ではありませんが、高品質なコーヒー豆の生産地として知られています。この地域では主にロブスタ種が栽培されており、火山性土壌と年間を通して冷涼な気候が、独特の風味を持つコーヒー豆を生み出しています。
ジャライ省のコーヒーは、力強い風味と深いコクが特徴です。チョコレートのような甘みとスパイシーな後味が感じられ、ベトナムコーヒーの奥深さを体現しています。この地域のコーヒー農家は、伝統的な栽培方法と現代の技術を融合させ、品質の向上に努めています。丁寧に手摘みされたコーヒーチェリーは、最適なタイミングで収穫され、丁寧に加工されることで、その風味を最大限に引き出しているのです。
5. ドンナイ省 – 南部の豊かな風味
ベトナム南部に位置するドンナイ省は、ロブスタ種のコーヒー生産で知られています。この地域の温暖な気候と肥沃な土壌は、独特の風味を持つコーヒー豆を生み出す条件を整えています。
ドンナイ省のコーヒーは、力強い苦味とともに、わずかに感じられるフルーティーな香りが特徴です。この地域で栽培されるロブスタ豆は、ベトナム式コーヒーの濃厚な味わいを支える重要な要素となっています。
南部の温暖な気候の中で育ったドンナイ産のコーヒー豆は、北部や中部の高原地帯で育ったものとは異なる風味プロファイルを持っています。その違いを味わうことで、ベトナムコーヒーの多様性をより深く理解することができるでしょう。
ベトナムコーヒーの奥深い世界へ踏み出そう
ベトナムは、ブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国であり、特にロブスタ種の生産量は世界一を誇ります。
しかし、その魅力は生産量の多さだけではありません。ダクラクの力強い苦味、ラムドンの繊細で華やかな酸味、コントゥムのクリーンで柔らかな口当たり、ジャライのスパイシーな余韻、ドンナイの南国らしい豊かなコク。同じベトナムでも、産地によってこれほどまでに味わいが異なります。
それぞれの風味は、標高や土壌、気候、そして生産者のこだわりが生み出した賜物です。コーヒーは単なる飲み物ではなく、土地の個性や文化を映し出す「物語」でもあります。伝統的なフィンで淹れる濃厚なベトナムコーヒーも、近年注目されるアラビカ種のスペシャルティコーヒーも、飲む人を異国へと連れていってくれるでしょう。
この記事で紹介した5つの名産地をきっかけに、ぜひベトナム各地のコーヒーを飲み比べ、その奥深さを体感してみてください。一杯ごとに違う表情があり、新たなお気に入りとの出会いが待っているはずです。
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