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あなたは「ベトナム」と聞いて、コーヒー大国を思い浮かべるだろうか?
実はベトナムは、ブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国なのだ。年間約188万トンという膨大な生産量を誇り、世界のコーヒー市場において欠かせない存在となっている。この東南アジアの国がどのようにしてコーヒー産業で急成長を遂げ、独自の文化を育んできたのか、その秘密に迫ってみよう。

ベトナムのコーヒー栽培の歴史は、19世紀半ばまで遡る。フランス植民地時代に北部で始まったコーヒー栽培は、当初はアラビカ種が中心だったが、思うような成果を上げられなかった。
ベトナムコーヒー産業の転機は1980年代に訪れた。政府主導のコーヒー栽培計画が始まり、病害虫に強いロブスタ種が選ばれたのだ。
中部の高原地帯は天候や生育条件がロブスタ種に適していたことから、生産量は年々増加。大規模なプランテーションが開始され、わずか20年ほどでベトナムは世界第2位のコーヒー生産国へと躍進した。現在、ベトナムのコーヒー生産の9割以上をこのロブスタ種が占めている。
ロブスタ種は、アラビカ種と比較して以下のような特徴を持っている。
この特性を活かし、ベトナムは世界のロブスタ豆の約4割を供給する巨大な生産国となった。特にインスタントコーヒー向けの原料として、ヨーロッパやアジア諸国への輸出が盛んだ。

ベトナムのコーヒー文化は、フランス植民地時代の影響を受けながらも、独自の発展を遂げてきた。特徴的なのは、「フィン」と呼ばれる独自の抽出器具と、コンデンスミルクを使った飲み方だ。
フィンは小さな金属製のドリッパーで、コップの上に直接セットして使用する。細かく挽いたコーヒー粉を入れ、熱湯をゆっくり注ぐと、濃厚なコーヒーがじっくりと抽出される。この独特の抽出方法が、ベトナムコーヒーの味わいを形作る重要な要素となっている。
ベトナムには、様々なユニークなコーヒーの飲み方がある。その代表格が「カフェ・スア・ダー」だ。グラスの底にたっぷりのコンデンスミルクを入れ、その上からフィンで抽出したコーヒーを注ぐ。
ロブスタ種の強い苦味とコンデンスミルクの甘さが絶妙なバランスで融合し、独特の味わいを生み出している。氷を加えた冷たいバージョンは、暑い気候のベトナムで特に人気だ。
他にも、卵黄とコンデンスミルクを泡立てて作る「エッグコーヒー」や、ココナッツミルクを加えた「ココナッツコーヒー」など、創意工夫に富んだバリエーションが楽しめる。

大量生産によって世界市場を席巻したベトナムだが、「安価・大量=低品質」というイメージが定着してしまった側面もある。これは高級市場への参入を阻む壁となっている。
しかし近年、ベトナムは品質向上とブランド価値の向上に力を入れ始めている。特に注目すべきは、アラビカ種の生産拡大への取り組みだ。
ホーチミンから北東に約300km離れた標高1,500mの高原の街ダラット(ラムドン省)は、アラビカ種の主要生産地として知られている。この地域で栽培されるアラビカ種は、酸味と香りのバランスが良く、高品質なコーヒーとして評価されつつある。
UCCなどの企業は、ベトナムコーヒーの品質向上を目指して2015年から毎年ベトナム産アラビカ種を対象とした品質コンテストを開催している。こうした取り組みは農家の意欲を高め、高品質なコーヒー豆の生産を促進している。
良質なコーヒー豆を栽培した農家を評価・表彰し、市場より高値で買い取ることで、「品質の高さが価値につながる」という意識を生産者と共有する試みだ。
また、ハノイやホーチミンでは、アラビカ種の高品質な味わいを楽しむニューウェーブカフェが次々とオープンし、若者を中心に人気を集めている。これはベトナムコーヒー文化の新たな展開を示すものだろう。

世界第2位の生産国としての地位を確立したベトナムコーヒー産業だが、いくつかの課題も抱えている。
小規模農家の多くは価格変動に振り回され、収入が不安定で生活は厳しい状況にある。また、生産量拡大の裏では、森林伐採や水資源の過剰利用、農薬・化学肥料の乱用といった環境問題も指摘されている。
これらの課題に対応するため、フェアトレード認証を受けたベトナムのコーヒー農園は増加傾向にある。国際フェアトレードラベル機構によると、2022年時点で約80の生産団体が認証を取得し、労働者の労働条件改善や収益の透明化に貢献している。
環境への配慮が叫ばれる中、持続可能な農業への転換も進みつつある。有機栽培や環境に配慮した生産方法の導入、生物多様性の保全などの取り組みが始まっている。
また、高品質なロブスタ種の開発「ファイン・ロブスタ」の取り組みも注目されている。これは従来のロブスタの特性を活かしつつ、より洗練された味わいを目指す試みだ。
ベトナムコーヒー産業は、量から質への転換期を迎えている。世界第2位の生産国としての強みを活かしながら、品質向上と持続可能性を両立させることができれば、その未来はさらに明るいものとなるだろう。
ベトナムは、フランス植民地時代から続く歴史と政府主導の農業政策によって、わずか数十年で世界第2位のコーヒー生産国へと成長した。ロブスタ種を中心とした生産体制、独自の抽出器具「フィン」を使った飲み方、コンデンスミルクとの絶妙な組み合わせなど、独自のコーヒー文化を築き上げてきた。
近年は品質向上への取り組みやアラビカ種の生産拡大、持続可能な農業への転換など、新たな挑戦も始まっている。ベトナムコーヒーの魅力は、その独特の味わいだけでなく、歴史や文化、そして未来への可能性にもある。
あなたも機会があれば、ぜひベトナムコーヒーの深い味わいを体験してみてはいかがだろうか?フィンでじっくり抽出された一杯には、この国の歴史と人々の情熱が詰まっているのだから。
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