FEATURE
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サードウェーブコーヒーは、2000年代にアメリカで始まったコーヒー文化の第三の波を指します。
この動きは、コーヒーを単なる飲み物ではなく、ワインのような嗜好品として捉え直す革新的なアプローチです。生産者から消費者まで、一杯のコーヒーに至る全ての過程を大切にする姿勢が特徴となっています。日本では2015年にブルーボトルコーヒーが上陸したことで、一気に注目を集めるようになりました。
サードウェーブコーヒーの最大の特徴は「トレーサビリティ」、つまり追跡可能性が明確であることです。種子から一杯のコーヒーに至るまでの過程が透明化され、消費者が生産地や生産者の情報を知ることができます。これにより、私たちはコーヒーを「飲む」だけでなく「楽しむ」「体験する」ことが可能になったのです。

19世紀後半から1960年代までのファーストウェーブは、コーヒーの大量生産と大量消費が重視された時代でした。
流通の発達により、世界各地でコーヒーが安価に飲めるようになり、人々の生活に深く浸透していきました。この時期にインスタントコーヒーが誕生し、日本では1969年に世界初の缶コーヒーが開発されるなど、コーヒーはより身近な存在となっていきます。日本では戦後にコーヒー豆の輸入が再開されると、輸入量が一気に増加し、喫茶店ブームが到来しました。
1960年代から2000年代にかけてのセカンドウェーブは、スターバックスやタリーズといったシアトル系コーヒーショップが台頭した時代です。
深煎りコーヒーを基調としたエスプレッソドリンクが普及し、自分好みにアレンジできるカスタマイズ文化が生まれました。日本では1996年にスターバックスが上陸し、ロゴ付きカップでのテイクアウトスタイルなど、新しいコーヒー文化が浸透していきます。この時期から、コーヒーの品質を重視する動きが活発になり、深煎りに耐えられる生豆の調達や焙煎技術が発達しました。
サードウェーブコーヒーの大きな特徴は、浅煎りの豆を使用することです。浅煎りにすることで、コーヒー豆本来が持つフルーティーな酸味と豊かな風味を楽しむことができます。深煎りでは失われてしまう繊細な香りや味わいを、浅煎りによって最大限に引き出すのです。
シングルオリジンとは、単一品種を表す言葉で、特定の農園が栽培する特定の豆のみを使用することを指します。
複数の農園の豆をブレンドしていたセカンドウェーブまでのコーヒーとは異なり、サードウェーブでは農園ごとの個性を楽しむことが重視されます。気候や土壌など、農場ごとに異なる条件によって生まれる豆の風味を、その土地の「個性」として味わうのがシングルオリジンの魅力です。

日本の喫茶店のように、一杯ずつ丁寧に淹れるスタイルをとるのもサードウェーブコーヒーの特徴です。マシンで淹れるコーヒーとは異なり、淹れ方による風味の変化を楽しめるのが魅力となっています。実際、ブルーボトルコーヒーの創業者は、日本の喫茶店文化にサードウェーブコーヒーのルーツがあると語っています。
サードウェーブコーヒーは、生産者から直接豆を買い付ける「ダイレクトトレード」の形をとります。
セカンドウェーブまでは、いくつかの仲介業者を通して豆を仕入れていましたが、ロースターが生産地から直接買い付けることで、生産コストと流通価格のバランスが取れるようになりました。仲介業者に豆を買い叩かれる心配もなくなり、生産者を守ることにもつながっています。これにより、生産者が適正な価格で取引できるよう支援し、環境保全と生活向上を両立させる動きが広がっているのです。
現在のコーヒー業界では、トレーサビリティと合わせて「サステナビリティ」という言葉が注目されています。
サステナビリティとは「持続可能性」を意味し、環境に配慮し、人々の安定した生活を支えるコーヒー豆の生産・取引を行うことで、持続可能な社会を目指す取り組みです。コーヒー産業は気候変動の影響を大きく受けており、特に高地で育つアラビカ種は温度上昇に弱く、2050年までに栽培適地が半減するとの予測もあります。
こうした課題に対応するため、フェアトレードやレインフォレスト・アライアンス認証といった仕組みが注目されています。これらにより、生産者が適正な価格で取引でき、環境保全と生活向上を両立できるようになります。消費者も「安さ」より「倫理的な選択」を重視するようになり、コーヒーを通じた社会的な意識変化が生まれているのです。

自宅でサードウェーブコーヒーを楽しむには、まずシングルオリジンのコーヒー豆を用意しましょう。挽きたての風味を味わえるよう、自分で挽くのがおすすめです。必要な道具は、サーバー、ドリッパー、ケトル、ミル、フィルター、カップです。これらとこだわりのシングルオリジン豆があれば、準備は完了します。
コーヒー豆は香りを損なわないよう、飲む分だけ挽きます。ドリッパーにフィルターをセットし、挽いた豆を入れたら、93℃ほどのお湯を少量注ぎます。10〜20秒ほど蒸らした後、2度目のお湯を多めに注ぎましょう。
よりおいしく淹れるポイントは、お湯の温度管理と注ぎ方です。温度が高すぎると苦味が強くなり、低すぎると酸味が際立ちます。また、お湯を注ぐ際は中心から円を描くように、ゆっくりと均一に注ぐことで、豆本来の風味を最大限に引き出すことができます。
サードウェーブの次には、フォースウェーブが到来すると言われています。
フォースウェーブの特徴は、豆への注目がさらに高まることです。パナマ産の「ゲイシャ」のような超高級豆が象徴的で、100グラムあたり数万円で取引されることもあります。また、バリスタ大会が盛んになりつつあり、「誰が淹れたか」がポイントになると予想されています。コーヒーを淹れる機械にバリスタ大会の優勝者の淹れ方を覚えさせる取り組みも進んでいます。
現在のコーヒー市場では、「品質」だけでなく「体験」への価値シフトが起きています。サブスクリプション型のコーヒーサービス、バリスタが一杯ずつ淹れるライブ体験、地域限定のシングルオリジンなど、コーヒーは人と文化をつなぐ媒体となっています。デカフェやオートミルクを使ったプラントベース・ラテなど、健康志向や多様なライフスタイルにも対応する商品が拡大しているのです。

サードウェーブコーヒーは、コーヒーを単なる飲み物から、生産者のストーリーや土地の個性を味わう体験へと変化させました。
浅煎りによる豊かな風味、シングルオリジンへのこだわり、ハンドドリップによる丁寧な抽出、そしてダイレクトトレードによる生産者支援。これらの特徴は、一杯のコーヒーに至るまでの全ての過程を大切にする姿勢から生まれています。
コーヒーを味わうことは、世界のどこかの誰かの努力と風景を感じることでもあります。サステナビリティへの配慮が広がる中、私たちの選択が生産者の生活や環境保全につながっていることを意識することで、コーヒーはより深い意味を持つようになります。自宅でも、カフェでも、一杯のコーヒーに込められた物語を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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