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カフェで「スペシャルティコーヒー」という言葉を目にすることが増えました。
なんとなく高級そうなイメージはあるけれど、普通のコーヒーと何が違うのか説明できる人は少ないのではないでしょうか。実は、スペシャルティコーヒーには明確な定義と評価基準が存在し、コーヒー全体の生産量のうちわずか上位5%程度しか該当しないとされる特別な存在なのです。
この記事では、スペシャルティコーヒーの定義から普通のコーヒーとの違い、そして知っておきたい基準まで、初心者にもわかりやすく解説していきます。
スペシャルティコーヒーという言葉が初めて使われたのは1978年のこと。アメリカのコーヒー鑑定士エルナ・クヌッセンが、コーヒー国際会議で「特別な地理的条件から生まれる、特別な風味のコーヒー」と表現したのが始まりです。

その後、1982年にアメリカでスペシャルティコーヒー協会が設立され、高品質なコーヒーの評価基準が明確化されました。日本では2003年に日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が発足し、独自の定義を打ち出しています。
SCAJによる定義の核心は、「消費者が美味しいと評価して満足するコーヒー」であることです。風味が素晴らしく、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくことが求められます。
さらに重要なのが「From seed to cup(豆からカップまで)」という概念。コーヒーの豆からカップまでの全ての段階において、一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須条件となっています。
具体的には、生産国での栽培管理、収穫、生産処理、選別、品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。そして適切な輸送と保管により劣化のない状態で焙煎され、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること。さらに適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されることが求められるのです。
スペシャルティコーヒーの要件として、トレーサビリティ(追跡可能性)とサステナビリティ(持続可能性)が重視されています。
トレーサビリティとは、どこで誰がどのように栽培し、どういう道を辿って私たちの手元に届いたのか、その記録が明確であることを指します。生産段階からの流通経路が明らかになることで、消費者は本当に質の高い品質管理がなされてきたのかを確認できるのです。
サステナビリティは、徹底した品質管理を維持して高品質な豆を供給し続けるために、生産者の利益が確保されることを意味します。環境への配慮や社会倫理への配慮も含まれており、生産者を守る観点から重要視されるようになりました。
一般的によく飲まれるコーヒーは「メインストリームコーヒー」または「コモディティコーヒー」と呼ばれています。スペシャルティコーヒーとの違いは、流通量と品質、そして評価方法にあります。

スペシャルティコーヒーは農園や生産者を開示して情報を追跡できるようにし、徹底した品質管理がなされた上で生産されます。そのため流通量は少なく高価になりますが、高い品質を持っています。実際、コーヒー全体の生産量のうち上位5%以下程度しか該当しないとされています。
一方、メインストリームコーヒーは市場に多く流通するよう、農園や生産者に関係なく同じ銘柄の豆がまとめて取引されます。流通量は多く安価で手に入れることができますが、質の低い豆が混ざることもあるため品質は落ちる傾向にあります。
最も大きな違いは評価方式にあります。
メインストリームコーヒーは減点方式で評価されます。欠点豆の数や品質の問題点をチェックし、問題が少ないほど良いとされる方式です。ブルーマウンテンやキリマンジャロなど、昔ながらの喫茶店で飲まれているプレミアムコーヒーもこの評価方式に該当します。
対してスペシャルティコーヒーは加点方式で評価されます。Qグレーダーという国際資格を持つ専門家が、カッピングと呼ばれるテイスティング技法を用いて100点満点中80点以上の評価を与えたものがスペシャルティコーヒーの基準となります。この80点以上という基準だけで、上位10%程度に絞られるほど厳しいものです。
スペシャルティコーヒーの評価には、いくつかの重要な項目があります。普通のコーヒーと大きく違うのは、酸味と風味の評価です。
これは品質の基本的スタートポイントとなるもの。「汚れ」や「風味の欠点・瑕疵」が全く無いことが求められます。コーヒーの栽培地特性がはっきりと表現されるために必須な透明性があることが重要です。風味の「汚れ」や「欠点」があると、産地による風味のプロフィールが隠され、飲む人が感知できにくくなってしまいます。

コーヒーのチェリーが収穫された時点で、熟度が良く均一であったかに直接関係する甘さの感覚が評価されます。甘さとは、焙煎されたコーヒーに含まれる糖分の量だけでなく、甘さの印象度を創造する他の成分・要素との結合にも依存します。糖分が高くても、辛さのある苦味、刺激的な酸味、強い汚れ、渋みなどがあると甘さを感じにくくなります。
コーヒーがどれほど明るさを持つか、明るく爽やかな、あるいは繊細な酸味がどれ程であるかが評価対象となります。良質の酸味は、コーヒーに生き生きとした印象度を与え、繊細さ、しっかりとしたバックボーンを与えるものです。
重要なのは酸度の強さではなく、酸の質について評価すること。刺激的な酸味、不快な印象度を与える酸味、爽やかさやキレの無い酸味、劣化した嫌な酸味は、スペシャルティコーヒーには有ってはならないとされています。
スペシャルティコーヒーの大きな魅力は、風味がストロベリーやジャスミンといった幅広い表現で語られるところです。
こうした風味をカテゴライズしたのが「フレーバーホイール」と呼ばれる分布図。一般的にコーヒーの匂いは焙煎による香ばしさやキャラメル感のイメージが強いですが、スペシャルティコーヒーにはフルーツ、お花、スパイスなど、他の食べ物に例えられるような香りや味で表現される風味が存在します。
より風味がユニークで、他にはない独自のものであればあるほど、評価は高いとされています。
スペシャルティコーヒーが広まった背景には、コーヒー大量消費時代の反省があります。1960年代から1970年代にかけて、「とにかく大量に」という考え方で、品質の低いコーヒーが蔓延してしまった時期がありました。

こうした状況への反省から、品質と生産者のストーリーに価値を見出す動きが生まれました。アメリカを中心に広がった「サードウェーブ・コーヒー」は、産地や生産者、焙煎プロセスの透明性を重視する流れです。
「誰が、どこで、どのように育てた豆なのか」を消費者が意識し、生産者のストーリーに価値を見出す時代になりました。豆の産地表示、単一農園(シングルオリジン)への注目、浅煎り・中煎りなど多様な焙煎スタイルが広がり、世界のコーヒー文化をより深く豊かにしています。
生産国の多くでは小規模農家が生産を担っており、価格変動や流通構造の不安定さが課題となっています。こうした中で注目されているのが、フェアトレードやレインフォレスト・アライアンス認証です。
これらの仕組みにより、生産者が適正な価格で取引できるよう支援し、環境保全と生活向上を両立させる動きが広がっています。消費者も「安さ」より「倫理的な選択」を重視するようになり、コーヒーを通じた社会的な意識変化が生まれているのです。
スペシャルティコーヒーは、単なる高級コーヒーではありません。生産者の顔が見え、栽培から抽出まで徹底した品質管理がなされ、明確な評価基準をクリアした特別な存在です。
普通のコーヒーとの違いは、減点方式ではなく加点方式で評価されること、トレーサビリティとサステナビリティが確保されていること、そして何より「From seed to cup」の一貫した品質管理にあります。
コーヒー全体の生産量のうちわずか上位5%程度しか該当しないスペシャルティコーヒー。その一杯には、生産者の努力と土地の記憶、そして持続可能な未来への想いが込められています。
次にカフェでスペシャルティコーヒーを見かけたら、ぜひその背景にあるストーリーを想像しながら味わってみてください。きっと、いつもとは違う豊かなコーヒー体験が待っているはずです。
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