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ベトナムのカフェといえば、おしゃれなHighlands CoffeeやThe Coffee Houseを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、店舗数でベトナム最大を誇るのは、実はMilano Coffee(ミラノコーヒー)。白と黒の看板が目印のこのカフェチェーンは、全国2,000店舗以上を展開し、ベトナム人の日常に深く根付いています。一杯15,000VND(約90円)から楽しめる本格ベトナムコーヒーは、ガイドブックには載らないリアルなベトナムへの入口です。
Milano Coffeeの物語は、2011年9月、ホーチミン市ゴーヴァップ区の小さな一軒から始まりました。創業者のレー・ミン・クオン(Lê Minh Cường)氏は、1996年からコーヒー豆の焙煎業に携わってきた人物。長年培った焙煎技術を活かし、間口わずか5m²の小さな店舗で「路上カフェ(cà phê đường phố)」の新しいスタイルを打ち出したのが始まりでした。
当時のホーチミンの路上カフェといえば、プラスチックの椅子を歩道に並べただけの簡素なスタイルが主流。そんな中、クオン氏はバーカウンターでのその場焙煎と、清潔感のある黒と白を基調とした内装を取り入れ、庶民価格でありながらワンランク上の空間を提供するという発想で勝負に出ます。
この戦略は見事に的中しました。低コストのフランチャイズモデルを採用したことで、2013年にはわずか2年で200店舗を突破。その後も急速に拡大を続け、現在ではベトナム全国58省にわたり2,000店舗以上を展開する、東南アジア有数のコーヒーチェーンへと成長しています。Highlands CoffeeやThe Coffee Houseが都市部のショッピングモールを中心に展開するのに対し、Milano Coffeeは路面店を主体とした地域密着型のスタイルを貫いている点が大きな特徴です。
フランチャイズ加盟にかかる初期費用は約9,000万VND(約54万円)と、ベトナムの外食産業としては驚くほど低コスト。この手軽さが個人オーナーによる出店を後押しし、街角のいたるところでMilano Coffeeの看板を目にすることになったのです。
Milano Coffeeの価格帯は、コーヒー1杯15,000〜35,000VND(約90〜210円)が中心。日本のコンビニコーヒーよりも安い価格で、本場のベトナムコーヒーを堪能できます。フランチャイズ店ごとにメニューの幅に多少の違いはありますが、以下の定番メニューはほぼどの店舗でも注文可能です。
ベトナムコーヒーの代名詞ともいえるカフェ・スア・ダーは、Milano Coffeeで最初に注文すべき一杯です。価格は15,000〜20,000VND(約90〜120円)。アルミ製のフィン(ベトナム式ドリッパー)でじっくりと抽出されたロブスタ種のコーヒーが、グラスの底に敷かれた練乳(コンデンスミルク)の上にゆっくりと落ちていきます。
飲む前にスプーンでしっかりとかき混ぜるのがベトナム流。ガツンとくる深い苦味と練乳のこっくりとした甘さが混ざり合い、日本のコーヒーとはまったく異なる力強い味わいが口に広がります。氷がたっぷり入ったグラスで提供されるので、灼熱のベトナムの街歩きの合間に飲むと格別です。なお、ホットで楽しみたい場合は「Cà Phê Sữa Nóng(カフェ・スア・ノン)」と注文しましょう。
近年、ベトナムのカフェシーンで注目を集めているのが、古都フエ発祥の塩コーヒー「カフェ・ムオイ」です。Milano Coffeeでも多くの店舗で提供されており、価格は20,000〜29,000VND(約120〜175円)前後。
グラスの中は美しい三層構造になっています。一番下に練乳、真ん中に濃厚なコーヒー、そして一番上にふわふわの塩クリームフォーム。このクリームに使われる少量の塩が、コーヒーの苦味と甘みの両方を引き立て、まるでスイーツのような奥深い味わいを生み出します。見た目にも美しいので、混ぜる前にぜひ写真を撮っておきましょう。甘いものが好きな方、コーヒーの苦味がやや苦手な方にもおすすめできる一杯です。
ベトナムの日中の気温は30度を超えることも珍しくありません。そんなときに頼りになるのが、Milano Coffeeのスムージーやフリーズ(フローズンドリンク)シリーズです。価格は25,000〜35,000VND(約150〜210円)程度で、南国フルーツをふんだんに使った冷たいドリンクが揃っています。
特に人気なのが、マンゴーやパッションフルーツを使ったトロピカルスムージー。ベトナム産の完熟フルーツをそのままブレンドしているため、果実の濃厚な味わいがダイレクトに楽しめます。コーヒーが苦手な方や、お子様連れの旅行者にもぴったりのメニューです。また、コーヒーベースのフリーズドリンクは、シャリシャリとした食感とコーヒーの香りを同時に楽しめる人気メニュー。街歩きのお供にテイクアウトするのもおすすめです。
Milano Coffeeの醍醐味は、ベトナム人の日常にそのまま溶け込めることにあります。Highlands CoffeeやStarbucksのようにエアコンの効いた快適な空間ではなく、ここにあるのは歩道に低い椅子を並べた半屋外のスタイル。道路を行き交うバイクの群れを眺めながら、小さなプラスチック椅子に腰を下ろしてコーヒーをすするーーそれこそが、何百万人ものベトナム人が毎朝繰り返している、この国の日常風景そのものです。
店内に足を踏み入れると、黒と茶色を基調としたシンプルな内装が目に入ります。木目調のテーブルにレザー風の椅子が置かれ、気取らないけれど居心地の良い空間。Wi-Fiを完備している店舗がほとんどなので、観光の合間にスマートフォンを充電しながら一息つくこともできます。
おすすめの過ごし方は、午前中の早い時間帯に訪れること。朝7時頃からオープンする店舗が多く、出勤前のベトナム人たちがコーヒー片手に新聞を読んだり、友人とおしゃべりを楽しんだりしている光景に出会えます。バインミー(ベトナム風サンドイッチ)を提供している店舗もあるので、ローカルスタイルの朝食を体験するチャンスです。夕方以降も常連客で賑わう時間帯で、仕事帰りの人々がリラックスする様子を間近に見ることができます。
また、Milano Coffeeはフランチャイズ制ゆえに、店舗ごとの個性が豊かな点も面白いポイントです。看板こそ統一されていますが、内装や雰囲気、提供しているメニューのバリエーションは店舗によって微妙に異なります。何軒かハシゴして、自分のお気に入りの一軒を見つけるのも旅の楽しみになるでしょう。
Milano Coffeeは観光客向けのカフェではないため、いくつか知っておくと安心な情報があります。初めて訪れる方のために、実践的なポイントをまとめました。
店舗の見つけ方
Milano Coffeeは、白地に黒文字で「MILANO COFFEE」と書かれた看板が目印です。ホーチミン、ハノイ、ダナンなど主要都市はもちろん、地方都市にも広く展開しているため、街を歩いていれば自然と目に入るはず。Googleマップで「Milano Coffee」と検索すれば、現在地周辺の店舗がすぐに見つかります。
注文方法
店舗によっては英語メニューがない場合もありますが、心配は不要です。メニュー表の写真を指差すか、スマートフォンの翻訳アプリを活用しましょう。最も簡単なのは「Cà phê sữa đá(カフェ・スア・ダー)」というフレーズを覚えておくこと。これさえ言えれば、どの店舗でもベトナムの国民的コーヒーが注文できます。Milano Coffee専用のスマートフォンアプリもあり、メニューや店舗検索に便利です。
支払いについて
基本的に現金(ベトナムドン)での支払いが中心です。クレジットカードが使えない店舗も多いため、小額紙幣を用意しておくと安心。コーヒー1杯15,000〜35,000VND(約90〜210円)と非常にリーズナブルなので、50,000VND札が数枚あれば十分です。ベトナムにはチップの文化がないため、表示価格をそのまま支払えば大丈夫です。
知っておきたいマナーとコツ
Highlands Coffeeとの比較
もしHighlands CoffeeやThe Coffee Houseに行き慣れている方なら、Milano Coffeeとの違いに最初は戸惑うかもしれません。Highlands Coffeeはスターバックスに近い洗練された空間とサービスが特徴ですが、Milano Coffeeは価格が半分以下で、より飾らないベトナムの素顔に触れられる場所です。両方を体験して比較してみるのも、ベトナムのカフェ文化を深く理解する良い方法でしょう。
Milano Coffeeは、ベトナムのカフェ文化の「ありのまま」を体験できる、このうえない場所です。2011年にホーチミンの小さな一軒から始まった庶民派カフェチェーンは、わずか十数年で2,000店舗を超えるベトナム最大のコーヒーネットワークに成長しました。
一杯90円から味わえるカフェ・スア・ダーの力強い味わい。路上に並んだ低い椅子に座り、バイクの群れを眺めながらコーヒーをすする時間。それは、エアコンの効いた観光客向けカフェでは決して得られない、ベトナムの日常そのものです。
次のベトナム旅行では、ぜひ白と黒の看板を見つけたら足を止めてみてください。スマートな観光スポットではないけれど、15,000VNDの一杯がきっとあなたに「本当のベトナム」を見せてくれるはずです。
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