FEATURE
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ホーチミンの街を歩いていると、洗練されたダークブラウンの外観に吸い込まれるように立ち止まってしまうカフェがある。それがKatinat Saigon Kafeだ。地元の若者たちが連日行列をつくるこのカフェチェーンは、いまベトナムで最も勢いのあるコーヒーブランドのひとつ。塩クリームの効いたソルトコーヒー、色鮮やかなフルーツティー、そしてフォトジェニックな空間。日本人旅行者にとって、ベトナムコーヒー文化の「いま」を体感できる最高の一軒である。
Katinatの名前の由来を知ると、このブランドの奥行きがぐっと増す。「カティナ」とは、フランス統治時代にホーチミン市の中心部を貫いていた「Rue Catinat(カティナ通り)」のこと。現在のドンコイ通り(Dong Khoi)にあたるこの通りは、コロニアル建築が並ぶサイゴンを象徴する目抜き通りだった。2016年、まさにそのドンコイ通りに1号店をオープンしたのがKatinat Saigon Kafeである。
創業当初から、Katinatは「都会的で洗練されたベトナムコーヒー体験」を掲げ、若い都市部の消費者をターゲットにしてきた。ベトナムの路上で飲む伝統的なカフェ文化に、モダンなインテリアと独創的なメニューを融合させるアプローチが支持を集め、ホーチミン市内を中心に店舗数を急拡大。2025年9月時点で全国に約114店舗を展開するまでに成長した。
2024年4月には大規模なリブランディングを実施。ブランド名を「Katinat Saigon Kafe」から「Katinat Coffee & Tea House」へと変更し、スローガンも「JOURNEY TO EXPLORE NEW TASTES(新しい味を探す旅)」に刷新した。これは単なる名称変更ではなく、ホーチミン以外の9つの省・都市への拡大を見据えた戦略転換だ。地理的に限定される「Saigon」の名を外し、コーヒーとティーの二本柱を前面に打ち出すことで、全国ブランドとしての基盤を固めた。タイ・バンコクへの海外進出計画も報じられており、その成長はとどまるところを知らない。
Katinatのメニューはコーヒー、ティー、フルーツドリンク、スムージーと幅広い。価格帯は35,000〜69,000VND(約210〜420円)と、スターバックスより手頃でありながら、ローカルの路上カフェよりワンランク上の品質を提供している。ここでは、日本人旅行者にぜひ試してほしい3つのカテゴリーを紹介する。
Katinatを語るうえで絶対に外せないのが「ソルトコーヒー(Ca Phe Muoi Kem)」だ。ベトナム産のロブスタ種コーヒーに、塩味のきいたふわふわのクリームをトッピングした一杯で、苦味・甘味・塩味が三位一体となった独特の味わいが特徴。価格は45,000〜55,000VND(約270〜330円)が目安だ。
日本では馴染みの薄い「塩×コーヒー」の組み合わせだが、塩クリームがコーヒーの苦味をまろやかに包み込み、後味にほんのりとした塩気が残る。暑いホーチミンではアイスで注文するのがおすすめ。最初はクリームとコーヒーを分けて味わい、途中から混ぜて飲むと味の変化を楽しめる。ベトナム全土でブームとなったソルトコーヒーだが、Katinatのものはクリームの質感と塩加減のバランスに定評がある。
Katinatが若い女性を中心に爆発的な人気を獲得した理由のひとつが、フルーツドリンクシリーズだ。なかでも看板的存在のピーチティー(Tra Dao)は、現地のファンから「最高のピーチティー」と称されるほどの人気ぶり。新鮮な桃の果肉がたっぷり入り、甘さ控えめでさっぱりとした味わいは、ベトナムの暑さを忘れさせてくれる。価格は55,000〜65,000VND(約330〜390円)程度。
そのほかにもマンゴー、パッションフルーツ、ライチなど、熱帯フルーツをふんだんに使ったドリンクがラインナップ。透明カップに層をなすカラフルなビジュアルは、まさにSNS映えの王道だ。季節限定メニューも頻繁に登場するので、訪問時にはぜひカウンターの新商品ポスターをチェックしてほしい。コーヒーが苦手な方や、お子さん連れの方にもぴったりの選択肢である。
ベトナムコーヒーの王道といえば「カフェ・スア・ダー(Ca Phe Sua Da)」、つまり練乳入りアイスコーヒーだ。Katinatではこの伝統的なスタイルをベースにしつつ、独自のアレンジを加えた「ミルクコーヒー」を提供している。価格は40,000〜52,000VND(約240〜310円)とリーズナブル。
ベトナム産のロブスタ豆を深く焙煎し、練乳のコクと合わせることで生まれる濃厚な甘苦さは、日本のカフェラテとはまったく異なる味覚体験だ。Katinatでは豆の品質にもこだわり、地元産のコーヒー豆を厳選して使用している。ベトナムコーヒー初心者の方は、まずこの一杯から始めるのがおすすめ。ストローで底からかき混ぜて、練乳とコーヒーをしっかり混ぜ合わせてから飲むのがベトナム流だ。
Katinatが他のベトナムカフェチェーンと一線を画すのが、その店舗デザインだ。ブランド全体を貫くダークブラウンとディープブルーを基調としたカラースキームは高級感を醸し出しながら、各店舗ごとに異なるデザインコンセプトを採用している点が面白い。
たとえば、ホーチミン3区のVo Thi Sau通り店は、かつての幼稚園を改装した建物を活用しており、クラシカルなフレンチコロニアル様式の外観と現代的なインテリアが見事に融合している。一方、トゥードゥック市のリバーサイド店は約200席を擁する大型店舗で、テラス席からサイゴン川を一望できる開放的な空間が広がる。2024年末にオープンしたこの店舗は、まるで邸宅のような佇まいで話題を呼んだ。
多くの店舗に共通するのは、2階席やテラス席が設けられていること。とくにドンコイ通りやグエンフエ通りの店舗では、2階の窓際席からホーチミンの活気ある街並みを眺めることができる。バイクが行き交う大通りを見下ろしながらソルトコーヒーを味わう時間は、旅の記憶に深く刻まれるはずだ。Wi-Fi完備、電源コンセントも充実しているため、旅の合間の休憩や、SNSへの写真投稿にも最適な環境が整っている。
Katinatをより快適に楽しむために、日本人旅行者に役立つ実践的な情報をまとめた。
おすすめ店舗
初めてのKatinat体験なら、ドンコイ通り店がおすすめだ。ブランド発祥の地であり、観光の中心エリアに位置するためアクセスも抜群。2階席から通りを見下ろすロケーションは、ホーチミンらしい風景を満喫できる。グエンフエ通り(ウォーキングストリート)周辺の店舗も、夜のライトアップと合わせて訪れる価値がある。
営業時間
多くの店舗が6:30〜23:00で営業しており、朝のモーニングコーヒーから夜のデザートタイムまで幅広く利用できる。ただし、店舗によって若干異なる場合があるため、Googleマップで事前に確認しておくと安心だ。
注文のコツ
メニューは英語表記があるため、日本人でも注文に困ることは少ない。スタッフも基本的な英語は通じる。迷ったら「Salt Coffee, Ice, please」と伝えれば、看板メニューのアイス・ソルトコーヒーが出てくる。サイズはM・Lの2種類が基本で、初回はMサイズで十分なボリュームだ。甘さの調整はできない店舗もあるが、「Less sugar(砂糖少なめ)」と伝えれば対応してくれることが多い。
支払い方法
現金のほか、主要なクレジットカード(Visa/Mastercard)やQRコード決済に対応している店舗が多い。ただし、小規模店舗では現金のみの場合もあるため、ベトナムドンの現金も用意しておこう。
混雑を避けるなら
週末の午後はベトナム人の若者で非常に混雑する。落ち着いて過ごしたいなら、平日の午前中か15時前がねらい目だ。人気店舗では席が埋まっていることもあるので、時間に余裕をもって訪れたい。
Katinat Coffee & Tea Houseは、ベトナムのカフェ文化の進化を体現するブランドだ。フランス統治時代のカティナ通りに由来する名前、ベトナム全土で約114店舗を展開する急成長、そして2024年のリブランディングによる新たな挑戦。ソルトコーヒーという独自の看板メニューと、店舗ごとに異なる洗練された空間デザインは、観光客にとって「ベトナムのいま」を感じられる貴重な体験となる。
価格帯も35,000〜69,000VND(約210〜420円)と手頃で、スターバックスほどの出費は必要ない。ホーチミンを訪れたら、ぜひドンコイ通りの発祥店で2階席に座り、バイクの波を眺めながらソルトコーヒーを一杯。それだけで、ガイドブックには載っていないサイゴンの空気を味わえるはずだ。
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