濃厚な苦みと甘いコンデンスミルクが織りなす絶妙なハーモニー。
世界第2位のコーヒー生産国であるベトナムが誇る独自のコーヒー文化は、フランス植民地時代から続く長い歴史の中で育まれてきました。その深い味わいと独特の淹れ方は、コーヒー愛好家の間で静かなブームを起こしています。
「初めてベトナムコーヒーを飲んだ時、あの濃厚さと甘さのバランスに衝撃を受けました」
実は私も数年前、ホーチミンの路地裏カフェで出会ったベトナムコーヒーの虜になった一人。あの味わいは一度経験すると忘れられないものです。

ベトナムコーヒーの歴史は19世紀にさかのぼります。フランスの宣教師によって持ち込まれたコーヒー豆は、ベトナムの気候と相性が良く、特にロブスタ種の栽培が広まりました。
当初はフランス人向けのコーヒー栽培が中心でしたが、独立後はベトナム人自身のための文化へと発展。現在では世界中で愛される独自のスタイルを確立しています。
ベトナムコーヒーの特徴と種類
ベトナムコーヒーの最大の特徴は、その濃厚な味わいと独特の淹れ方にあります。
ベトナムコーヒーの主な特徴は、「ロブスタ種の豆を使用する」「カフェ・フィンと呼ばれる独自のフィルターで濃く抽出する」「コンデンスミルク(練乳)を加える」の3点です。これらが組み合わさることで、他のコーヒーにはない独特の味わいが生まれるのです。
ベトナムで栽培されるコーヒー豆の種類
ベトナムで栽培されているコーヒー豆には、主に以下の種類があります。
- ロブスタ種:ベトナムコーヒーの90%以上を占める主力品種。苦味が強く、カフェイン含有量が多いのが特徴です。
ロブスタ種は暑く湿った気候に適しており、ベトナムの多くの地域で栽培されています。強い味わいと香りが特徴で、しっかりとした苦味があります。
- アラビカ種:より穏やかでフルーティーな味わいの高級品種。ベトナム北部や中部の涼しい地域で栽培されています。
世界中で最も人気のあるコーヒー種の一つであるアラビカ種は、ベトナムでも徐々に生産量が増えています。
- カトゥアイ種:強い香りと酸味が特徴で、フルーティーな味わいがあります。ベトナムの中部や南部で栽培されています。
- マンデリン種:ベトナム北部の山岳地帯で栽培される高級品種。非常に強い味わいと香りが特徴です。

ベトナムコーヒーの独特な味わい
ベトナムコーヒーは、苦みの強いロブスタ種のコーヒー豆を「カフェ・フィン」と呼ばれる金属製の独自フィルターで濃く抽出し、甘く濃厚なコンデンスミルクを加えて作ります。
その結果、甘みが強くコクのある味わいが特徴的なコーヒーが完成します。全体的に濃厚で、一気に飲み干すというよりは、少しずつ味わいながら楽しむスタイルが主流です。
コーヒーの下にコンデンスミルクが沈んで2層になっている状態で提供されることが多く、かき混ぜてから飲むのが一般的です。好みによっては、あえて混ぜずに飲むことで、最初は苦みを強く感じ、後半になるほど甘みを強く感じる変化を楽しむこともできます。
ベトナムコーヒーの代表的なバリエーション
ベトナムコーヒーには様々なバリエーションがあり、それぞれに独特の魅力があります。
ベトナムの街角のカフェに立ち寄れば、エッグコーヒーやココナッツコーヒーといったユニークな一杯に出会えます。これらは単なるアレンジではなく、ベトナムの食文化や気候に根ざした独自の発展を遂げたコーヒーなのです。
カフェ・スア(練乳入りコーヒー)
最も一般的なベトナムコーヒーのスタイルです。「カフェ・スア・ノン」(温かい練乳入りコーヒー)と「カフェ・スア・ダー」(氷入り練乳入りコーヒー)の2種類があります。
暑いベトナムでは特に「カフェ・スア・ダー」が人気で、氷の上にコーヒーを注ぎ、練乳と混ぜて飲みます。氷が溶けるにつれて味わいが変化するのも楽しみの一つです。

カフェ・チュン(エッグコーヒー)
ハノイ発祥の特別なコーヒーで、卵黄とコンデンスミルク、砂糖を泡立てたクリーミーな層をコーヒーの上に浮かべたデザート感覚のドリンクです。
第二次世界大戦中に牛乳が不足していた時代、代用品として卵を使ったのが始まりとされています。まるでティラミスのような味わいで、一度飲むと忘れられない独特の美味しさがあります。
どうですか?今すぐ試してみたくなりませんか?
カフェ・ココナッツ(ココナッツコーヒー)
ココナッツミルクやココナッツクリームを加えた南国風のコーヒーです。暑い気候に合わせた清涼感のある甘い飲み物で、特に若い世代に人気があります。
ココナッツの自然な甘さとコーヒーの苦みが絶妙にマッチし、まるでデザートのような満足感があります。氷と一緒にブレンドされることが多く、暑い日の午後にぴったりの一杯です。
ベトナムコーヒーの淹れ方
ベトナムコーヒーの醍醐味は、その独特な淹れ方にもあります。
「カフェ・フィン」と呼ばれる金属製のドリッパーを使用するのが特徴で、これによって濃厚な一杯が抽出されます。家庭でも簡単に本格的なベトナムコーヒーを楽しむことができますよ。
伝統的なフィンを使った淹れ方
ベトナムコーヒーの伝統的な淹れ方は、以下の手順で行います。
- グラスの底にコンデンスミルクを入れます(好みの量で調整)
- フィン(金属製フィルター)をグラスの上に置きます
- フィンの中に細挽きのコーヒー粉を入れます
- フィンのプレスで軽く押さえます(強く押しすぎないのがコツ)
- 少量のお湯を注いでコーヒー粉を蒸らします
- 残りのお湯をゆっくり注ぎます
- コーヒーがゆっくりとグラスに落ちるのを待ちます(約4〜5分)
- 抽出が終わったらフィンを取り外し、よくかき混ぜて飲みます

この淹れ方の魅力は、コーヒーがゆっくりと一滴一滴落ちていく様子を楽しめること。その間の香りの変化や、最後に完成した一杯の満足感は格別です。
アレンジレシピ
基本のベトナムコーヒーをマスターしたら、次はアレンジに挑戦してみましょう。
- アイスベトナムコーヒー:グラスに氷をたっぷり入れ、その上から抽出したコーヒーを注ぎます
- シンプルエッグコーヒー:卵黄、コンデンスミルク、砂糖を泡立て、抽出したコーヒーの上に乗せます
- ココナッツコーヒー:ココナッツミルクとコンデンスミルクを混ぜ、コーヒーに加えます
自宅で本格的なベトナムコーヒーを楽しむためには、専用のフィンを用意するのがおすすめです。日本でも通販で手に入りますし、使い方も簡単なので、ぜひチャレンジしてみてください。
まとめ:ベトナムコーヒーの魅力
ベトナムコーヒーは、単なる飲み物を超えた文化そのものです。
濃厚なロブスタ豆の苦みと甘いコンデンスミルクのコントラスト、独特のフィンによるゆったりとした抽出過程、そしてエッグコーヒーやココナッツコーヒーといった創造的なバリエーション。これらすべてが、ベトナムの歴史と人々の暮らしを映し出しています。
コーヒーは単なる飲み物ではなく、その国の文化や歴史、そして人々の知恵が詰まった一杯なのです。
ベトナムコーヒーの魅力は、その独特な味わいだけでなく、コーヒーを通してベトナムの文化や人々の日常に触れられることにもあります。日本にいながらにして、ベトナムの路地裏カフェの雰囲気を感じられる一杯を、ぜひご自宅でも試してみてください。
濃厚で甘く、そして少しビターな一杯が、あなたを南国ベトナムへと誘ってくれることでしょう。