ベトナムコーヒーの世界が大きく変わりつつあります。世界第2位のコーヒー輸出国として知られるベトナムですが、2025年現在、その市場は新たな転換期を迎えています。濃厚な味わいと独特の文化で愛されてきたベトナムコーヒー。フランス植民地時代から続く歴史の中で育まれた独自のコーヒー文化は、今や世界中のコーヒー愛好家を魅了しています。
特に注目すべきは、伝統的なロブスタ種を中心としたコーヒー生産が、高品質なアラビカ種の栽培にも力を入れ始めていることです。これにより、ベトナムコーヒーの幅が大きく広がっているのです。

生産量と輸出の現状
2025年時点で、ベトナムは引き続き世界第2位のコーヒー輸出国としての地位を維持しています。米国農務省(USDA)の最新レポートによれば、2025/26年期の総生産量はおおむね安定しており、約3,000万袋(約180万トン)が見込まれています【USDA 2025】。
輸出については大きな転換期を迎えています。2023~2024年の収穫期には、ベトナムは約146万トンのコーヒーを輸出しました。数量としては前年比で減少しましたが、平均輸出価格の上昇によって輸出額は54.3億ドルを突破し、過去最高を記録しました【VietnamPlus 2024】。輸出先は80を超える国と地域に広がり、なかでもEUが最大の市場を占めています。
日本市場においてもベトナムコーヒーの存在感は高まっています。インスタントの「3in1」タイプや練乳入りコーヒーが安定した人気を集めており、通販や専門カフェを通じてその魅力が浸透しつつあります。
価格動向と供給要因
2024年後半以降、アラビカ種の生豆価格はブラジルの乾燥天候や需給逼迫を背景に上昇傾向にあります。これにより、ベトナム国内でもロブスタ中心の生産からアラビカ栽培の拡大へとシフトする動きが強まっています。
さらに、米国がロブスタ輸入に対して10%の関税を課していることも国際価格上昇の要因となっています。こうした状況を受けて、ベトナムの生産者はリスク分散を目的に、ロブスタとアラビカを組み合わせた生産や、持続可能な農法・新技術の導入を進めています。
注目のベトナムコーヒートレンド
2025年、ベトナムコーヒー市場では、いくつかの明確なトレンドが浮かび上がっています。伝統と革新が融合した新しいコーヒー文化が形成されつつあるのです。
コーヒーを通じて街や人々の息づかいを感じる。そんな体験を求める人々が増える中、ベトナムコーヒーは単なる飲み物を超えた文化的体験として注目を集めています。

スペシャルティコーヒーの台頭
ベトナムでは、従来のロブスタ中心の生産から、高品質なアラビカ種の栽培へと軸足を移す動きが加速しています。特に中部高原地帯のダラット産アラビカ豆は、国際的なコーヒーコンテストでも評価を高めています。
スペシャルティコーヒーの生産は、ベトナム農業農村開発省が2021年に発表した「スペシャルティコーヒー」推進政策の一環として、政府からも後押しされています。この動きは単なる品種の変更にとどまらず、持続可能な農法や環境に配慮した生産プロセスの導入も含んでいます。VietGAPやGlobalGAP認証を取得した環境負荷の低い有機・低炭素コーヒーの生産が増加しているのです。
カフェチェーンの急成長
Vietdataの調査によると、ベトナム国内のコーヒーショップ数は2019年の816店から2023年には1,657店へと倍増しました【Vietdata 2023】。この急成長は、Highlands Coffee、Trung Nguyen E-Coffee、Phuc Longなど大手チェーンが積極的に新規出店を進めたことによるものです。
国内市場では、カフェ文化の広がりとともにチェーン店の存在感が強まり、都市部を中心に利用機会が増加しています。特に若年層や都市生活者を中心に、日常的な外食・社交の場としてコーヒーショップの利用が定着しつつあります。
ベトナムコーヒーの独自スタイル
ベトナムコーヒーの魅力は、その独特の飲み方にもあります。伝統的なフィン(金属製フィルター)を使った抽出方法は、濃厚な味わいを生み出す秘訣です。
そして、練乳を加えた甘く濃厚な味わいは、多くの人々を魅了してきました。しかし2025年の今、そのスタイルにも新たな変化が生まれています。

伝統的なコーヒーとモダンな融合
ベトナムコーヒーの世界では、伝統的な練乳入りコーヒーとモダンなサードウェーブ系アラビカコーヒーが並走する傾向が顕著になっています。
伝統的なフィンを使った抽出方法は今も愛されていますが、エスプレッソマシンを導入する店も増加。また、エッグコーヒーやココナッツコーヒーといったベトナム独自のバリエーションも進化を続けています。
持続可能性への取り組み
2025年のベトナムコーヒー産業で最も重要なキーワードの一つが「持続可能性」です。VCAなどのスタートアップ企業は、炭素貯留農業技術を活用した有機コーヒー生産に取り組んでいます。これは単なる環境配慮にとどまらず、欧州市場開拓に必須となる「環境・社会・ガバナンス(ESG)イニシアチブ」の実行としても重要な意味を持っています。
こうした取り組みは、気候変動や土壌品質の劣化、病気といった課題に直面するベトナムコーヒー産業の未来を切り開く鍵となっているのです。
日本市場におけるベトナムコーヒー
日本でもベトナムコーヒーの人気は着実に高まっています。特に練乳入りコーヒーやエッグコーヒーは、ベトナムを訪れた旅行者が現地で味わった体験をきっかけに、日本でも再現したいと考えることで注目を集めています。
訪日ベトナム旅行が増える一方、日本人旅行者のベトナム渡航者数もコロナ後に回復しており、現地カフェ文化に触れた人々が帰国後に通販や専門店でベトナムコーヒーを購入するケースが増えています。特にAmazonやカルディなどで流通している「3in1」インスタントタイプは、旅行中に親しんだ味を手軽に楽しめる商品として人気を獲得しています。
こうした背景から、日本市場におけるベトナムコーヒーの需要は、単なる嗜好品としてだけでなく「旅行体験の延長」として拡大しているのが特徴です。

人気商品とトレンド
Amazon売上データによると、日本市場ではVinacafe、TNI King Coffee、Trung Nguyen G7などのインスタントコーヒーが人気を集めています。特に3in1タイプ(コーヒー・砂糖・練乳パウダーが一体となった製品)の需要が高まっています。
また、YUGOCの非加熱生はちみつやMarouの高級チョコレートなど、ベトナムの高品質食品も贈答品として注目を集めています。
コーヒー豆では、中部ダラット産の高品質コーヒーが、インスタントタイプでも香りとコクで高評価を得ています。また、ジャコウネココーヒー豆やコピルアクといった希少性の高い豆も贈答品として人気です。
日本での楽しみ方
日本でベトナムコーヒーを楽しむ方法も多様化しています。伝統的なフィンを使った本格的な淹れ方を楽しむ人が増える一方、手軽に楽しめるドリップバッグやインスタントタイプも人気です。
また、ベトナム風のアレンジコーヒーを提供する専門カフェも増加しています。エッグコーヒーやココナッツコーヒーといったベトナム独自のバリエーションを日本でも楽しめるようになりました。
コーヒーを通じてベトナムの文化や人々の暮らしに触れる。そんな体験を求める人が増えているのです。
まとめ:ベトナムコーヒーの未来
2025年のベトナムコーヒー市場は、伝統と革新が融合した新たな段階に入っています。世界第2位のコーヒー輸出国としての地位を維持しながらも、単なる量から質への転換が進んでいるのです。スペシャルティコーヒーの生産拡大、持続可能な農法の導入、カフェチェーンの急成長など、様々な変化がベトナムコーヒーの未来を形作っています。
日本市場においても、その独特の味わいと文化的背景が評価され、着実にファンを増やしています。コーヒーを通じてベトナムの魅力を発見する。そんな楽しみ方が、これからも広がっていくことでしょう。
あなたも一度、本格的なベトナムコーヒーを試してみませんか?濃厚な味わいと独特の文化が織りなす、新しいコーヒー体験があなたを待っています。
参照
・USDA Foreign Agricultural Service「Vietnam Coffee Annual Report 2025」
・VietnamPlus「Vietnam’s coffee exports exceed 5 billion USD in 2023-2024 crop year」(2024年10月公開)
・Vietdata「Vietnam Coffee Shop Sector 2023」